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ヲ嬢様と完璧従者の華麗なる日常 〜金と気品とボケと胃痛と〜  作者: 清士朗
第二章 従者のお見合いを妨害せよ

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23 姉と令嬢の作戦会議

 それは同日のことだ。時刻は少し巻き戻り、昼過ぎ――


 場所は富士宮邸内、レシュリアの自室。






「総員! 傾注ですわあああああ!!」


 要を除くいつもの面々。レシュリア、文香、綾、陽毬。


 そしてそこに珍しく、富士有栖がいた。


 全員が横一列に並び、有栖はその前に立つ。

 姿勢はまるで軍隊。有栖の面構えは完全に指揮官。


「諸君! 心して聞け! 緊急任務だ!

 急遽、明日のヒトヒトマルマルちょうどに……要キュンのお見合いが決まった!!」


「なっ! 要が!? おかしいですわ!! 富士家に届くお見合い話は、有栖姉様と結託してことごとく消し飛ばしていたのに!!」


「要様が文香以外とお見合いなんてぇ!! 許されざる暴挙よおおおおおおおおお!!」


 レシュリアと文香が同時に絶叫した。

 ガリガリと爪を噛むレシュリア。文香にいたっては壁に頭を打ちつけている。


 その光景を見てガクガクと足が震える陽毬。


 そもそも今日はレシュリアから《遊びに来てくださいませ》とメッセージをもらってワクワクしながら富士宮邸におじゃました陽毬。


 しかしいざ来たら。この阿鼻叫喚の地獄。隣にいる、唯一冷静な綾に事態の解説を求める。


「……あの、レシュリア先輩と文香先輩が壊れてしまったのって、ようは、要先輩がお見合いするからですよね」


「あの二人が壊れてるのは今に始まったことではないですが、その通りです。要くんのお見合いの度、バカとアホが混ぜ合わさって、このような暴走クリーチャーが爆誕します」


「竪堀陽毬!! 柚木綾!! お前たち私語は慎め!!」


 有栖が喝を飛ばす。


「諸君っ!! 我々の任務はただ一つ!!

 要キュンの貞操を守り、この不純なる儀式を阻止することだ!!

 場合によっては……相手の“撃滅”も辞さない!! これは聖戦だ!!」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!! 撃滅って言いましたよね今!?」


「裏切る気か竪堀陽毬! 貴様には期待していたのだがな……

 その小さな体で気づかれずに会場に潜り込み、この痺れ薬を相手の飲み物に――」


「いやいや!! 教師が生徒に犯罪をさせようとしないでくださいよ!!」


 陽毬は全力でツッコミを入れる。

 その隣で、綾がすっと肩に手を置く。


「陽毬さんのお気持ちは分かります。かくいう私も麻酔銃で相手を眠らせたことがあります………あはははは!! 私の手はもう汚れてますよ!!」


「綾先輩!! お願いですから、私を置いて壊れないでください!! こんな頭のおかしい人たちの処理を私一人に投げないでください!!」


 陽毬の悲鳴をよそに、綾を除く三人がニヤァ……と笑う。


「要キュンを守る!! 愛の前に、司法など無意味ッ!! 要キュンに色目を使うビッチなど、バラバラにしてコンクリートで固めて、海に沈めるッ!!」


「その通りですわ! 富士宮の名にかけて、どんな罪でもばっちりもみ消しますわ!」


「源道寺家も全力でバックアップですぅぅ!」


 三人が見事なチームワークで拳を突き上げる。


「「「えい! えい! おーっ!!」」」


 陽毬はその光景を、生ゴミを見るような目で見つめた。






「――ではとりあえず」


 レシュリアが指をパチンッと鳴らすと。扉を開けてメイド達がぞろぞろと入ってきた。あれよあれよと用意されたのは英国式アフタヌーンティーだ。


 もう帰ろうと思っていた陽毬は促されつつ……半ば強制的に座らされた。


「諸君。明日の詳しい段取りを説明する」


 特に気にすることなくホワイトボードを運んでくるメイド。そこにはすでにある建物の見取り図が貼られていた。


「なんですか……これ……」


「見ればわかるだろう? 明日の会場の見取り図だ」


 陽毬の疑問にさも当たり前のように答える有栖。


「たしかここは源道寺も懇意にしている旅館ねぇ……従業員を買収して、あの手この手で妨害をするしかないわぁ」


「妨害って……文香先輩、とりあえず一回落ち着きましょうよ」


「そうですわ!! 落ち着きなさいな文香!!」


 陽毬は「は?」って顔をして視線をレシュリアに向ける。まさか、ここで? さっきまで壊れていたレシュリア先輩が常識人枠に!?


「そもそもたどり着かなければよろしいのでは? この旅館に続く道を富士宮の力で封鎖いたしますわ!!」


 ――いや、そんなことはなかった。


「ふむ、確かにいい案だな。レシュリア。ついでに落石でも起こして叩き潰してしまえ」


「レシュリア先輩も富士先生も正気に戻ってくださいよ!!」


 狂気のアホ三人組を前にツッコミが追いつかない陽毬。作戦会議とは名ばかりの犯罪計画を立てながら優雅に紅茶をすする三人に対して、陽毬は肩で息をしていた。


 頼みの綱である綾は「私は汚れている」を繰り返し呟くだけ。






「最後にだが、万が一ありとあらゆる作戦が失敗して――」


 今までとは比べ物にならないほど真剣な声色の有栖。


「ありとあらゆる犯罪の間違いでは……?」


「黙れ竪堀陽毬。意見具申は後ほど聞いてやろう……最終手段の撃滅プランだが……」


 そう言うとレシュリアに目配せをする有栖。それに頷いたレシュリアが二度ほど手を叩く。


 再び開かれた部屋の扉。

 コロコロと台車に乗せられて入ってきたのは布がかけられた大きな何か。


 ガバッと音を立てて布が外されると巨大な模型。

 それはくだんのお見合い会場を忠実に再現したジオラマだった。


「これ、どうやって作ったんですか!? 富士先生がお見合いは急遽決まったって言ってましたよね!?」


「朝、有栖姉さまに連絡をいただいてから、今の今まで裏で富士宮グループの建設部門に突貫で作らせましたわ!!」


「今日土曜日!! しかも人材の使い方が間違ってる!!」


 レシュリアは気にせず、模型の屋根をパカリと外した。

 中には複雑な動線図と点滅するLED。


「よし説明するぞ、全ての妨害作戦が失敗した場合は現地で見合い相手を叩き潰す。各自のエントリーポイントだが……私とレシュリアが廊下から、庭園に文香だ。

 綾は……近隣の山中から狙撃態勢をとれ。いいかためらうな。いざという時は遠慮なく撃ち抜け」


「……御意」


 いつのまにか話に加わっていた綾。ハイライトが職務放棄した瞳で首を縦に振る。


「御意じゃないですよ綾先輩!! 一人だけガチの殺人を指示されてますよ!!」


「おっと、忘れていた。最後に竪堀だが――」


「忘れたままでいて欲しかったのですが……もう嫌な予感しかしませんけど……私はどこなんですか」


「この通気口からの侵入だ!!」


「潜入経路の難易度が私だけ高い!! なんで通気口なんですか!!」


「その小柄な体型を活かして、通気口からダクトを進み調理場に潜入。出されるであろう飲み物に、この痺れ薬を滴らすのが貴様の任務だ」


「やっぱり痺れ薬ですか!? いや、やりませんよ!! てか、小柄が選抜理由なら文香先輩でいいじゃないですか!!」


「私だって代われるものなら代わりたいわ。だけど……ほら……」


 そう言うと文香はこれ見よがしにその場で跳ねる。文香の跳躍に合わせて揺れる大きな双丘。


「……くそが」


 その光景に陽毬らしからぬ言葉遣い。


「ほら、短気は損気だぞ竪堀。紅茶で飲め」


 有栖が陽毬の前に紅茶を差し出した。あれだけ叫んで、陽毬の喉はカラカラだった。いい香りに釣られて陽毬は紅茶に口をつける。


 少し独特な甘さがあるが、とても美味しい紅茶だ。


「この紅茶、変わった甘味……が……あるれ……」


 コロンコロンと転がる陽毬の瞳。急にまぶたが重くなり、目を開くことができない。抗いようのない強烈な眠気。体がふわふわとする。


 陽毬が最後に見た景色はニヤァと笑みを浮かべた有栖の顔だった。

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