19 忘れていたが、いざチーター討伐を
『それでは大会の結果を報告させていただきます!! 優勝はGYCゲーミング!! 準優勝はTeam LIBRA!! 三位は——』
見事優勝を果たした娯楽遊戯倶楽部はもう部室でどんちゃん騒ぎだった。
「丁度ディナーの時間ですわね。このまま皆んなで祝勝会を始めませんこと?」
「いいじゃない。お店は抑えておくわ。綾ぁ?」
レシュリアと文香が盛り上がる。
「わ、私が行っても大丈夫なお店でしょうか……」
「大丈夫ですよ。どうせお嬢様は貸切になさいますので。とりあえず手配しておきます」
敷居の高さに心配していた陽毬を綾がフォローする。
(……はて。何かまだあったような)
大会も優勝できてめでたしめでたし。そんな空気が漂うが、まだ何かやらなければいけないことがあったような気がする。
「……あ!!」
要が何かを思い出したかのように声を上げた。
「決勝戦のことで頭がいっぱいで失念しておりましたが、この後、ゴッドエイムマン氏とのデモンストレーションマッチがありますよ」
「「「「……あ」」」」
『いやあ。最高に盛り上がった決勝戦でしたが……視聴者の皆様!! まだエンディングじゃありませんよ!!
お待たせしまいた!! 優勝チームとゴッドエイムマン率いるドリームチームのデモンストレーションマッチです!!』
『いやあ、なかなか面白い決勝戦だったね。俺としてはTeam LIBRAがくるものとばっかり思っていたよ。ま、ファンのみんなには退屈させない試合を約束するよ!!』
『それでは、デモンストレーションマッチ……開始ですッ!!』
(なぜだ、なぜだなぜだ。なぜなんだ!!)
デモンストレーションマッチが開始してから早くも二分。ゴッドエイムマンは焦りからか非常にイライラしていた。
ゾーンの占拠率はまさかの70対30でこちらが劣勢。無名の新生チームにここまで押されるとは想像もしていなかった。
チラリと横目で自身の生配信につけられたコメントを見る。
ほとんどが自身を応援するコメント。しかし、その有象無象のコメント中、嫌でも目に入るコメントが流れる。
《ゴッドエイムマン、クソ弱くね?w》
そんなコメントが徐々に増えていく。
《連携取れてなさすぎでワロタ》
《自己顕示欲のストリーマーチームなんて所詮この程度》
コメントにもあったが、ゴッドエイムマンのチームはストリーマー仲間に声をかけて作った即席チームだ。
全員が自分のチャンネルでこの試合を配信しており、正直自分の見せ場を作ることに必死で協力なんてあったもんじゃない。
グループVCではギスギスした空気が流れている。
『おいてめえ。俺の射線に入るなよ』
『うるせぇよ。俺より視聴者少ないザコはすっこんでろよ』
互いが互いの足を引っ張り合う。
『おいゴッド、こいつらなんか強くね? 俺、視聴者にコメント煽られてて、そろそろ面倒なんだけど』
『俺もコメントでザコ乙とか言われてるわ。もうやっちゃわね?』
二人のストリーマーがイライラした口調で話しかける。
「バカ、この大会のルール忘れたのかよ。運営が張り付いて試合を監視してるんだぞ!! チートなんてバレてみろ、生放送で公開初経されちまう!!」
『でもさあ、このまま負けても公開処刑じゃね?』
そのストリーマーの言葉を皮切りに、徐々にゴッドエイムマンに対する不満が溢れてきた。
『つーか、ゴッドが一番弱くね? お前、貢献度最下位とかゴミだろ』
「うるせぇ!! 声かけてやっただけありがたいと思え!! とにかく、俺がいいキル出来るようにお膳立てしろバカども!!」
『……は? うわー、腹立つ』
『お前うぜぇよ。もう好き勝手やるわ』
「なんか、思ったよりも味気ないと言いますか、はっきり言って弱いですね」
そう言いながら綾は難なく敵一人をヘッドショットで沈める。
そのすぐ横で、陽毬がミニマップを確認しながら淡々と指示を出す。
「文香先輩、左のラインを制圧してください。レシュリア先輩は——正面突破をお願いします」
「任されましたわっ!! 行きますわよ、ドーン!! はい、ドドーン!!
陽毬の指示受けたレシュリアがお得意のロケットランチャーを放つ。しかしそれは自爆特攻ではなく、紛れもなく敵を狙ったもの。放たれた二発の弾頭は正確に敵を沈める。
『なんと!! まさかまさかのロケットランチャーでダブルキル!! GYCゲーミング勢い衰えず!! ノリに乗っている!!』
公式生放送はGYCゲーミングの活躍で盛り上がる。それが面白くないゴッドエイムマンたち。
(……ちくしょう、なんでだ。俺が負けるはずがねぇ)
ゴッドエイムマンは奥歯を噛み締めながらマウスを叩く。
視聴者コメントがさらに加速して流れ始めた。
《弱すぎて草》
《口だけゴッド》
《もはや凡人エイムマン》
「……ふざけんな。俺の名が、この程度で終わってたまるかよ」
焦燥の混じった独り言。
そのとき、あるストリーマーがボソリと呟いた。
『なあ、ゴッド。もういいだろ? そろそろやっちまおうぜ」
「何度も言わせんな!! 運営が張り付いてるって言ったろ……!」
『でもこのままじゃ、笑いものだぜ? お前の“伝説”も終わりだ』
ゴッドエイムマンの瞳がわずかに揺れた。
汗がマウスに滲み、喉が鳴る。
(……一瞬だけなら、バレねぇ。俺が本気を出せば、やつらなんて一撃で)
「——しかたねぇ、お前らやるぞ」
そう呟き、キーボードの特定のキーを押し込んだ。
瞬間——画面の中心に一瞬だけ奇妙な赤いラインが走る。
視聴者には見えない、実況解説を務めるマスターエフジェイも近藤も。
そしてもちろんレシュリアたちにも。
急に正確になりすぎたゴッドエイムマンたちのエイムに、解説が沸き立つ。
『おっと!? ゴッドエイムマン、なんという正確なエイム。まさかまさかの、ここで流れを変えるか!?』
『凄まじい正確さです! まるでリコイルがなくなったような……!?』
だが次の瞬間、画面が一瞬フリーズした。
ピッ——。
そして、全画面に運営のロゴが表示される。
《警告:不正検知プログラムによりチート行為を確認。該当プレイヤーを強制退出処理中》
「……!? な、なんだこれ!? おい!? 動け、動けぇぇぇ!!」
マウスを何度も叩くゴッドエイムマンの手元。
その音声が配信にそのまま流れてしまう。
視聴者コメント欄は瞬く間に爆発した。
《え、チート判定?w
《やっぱりチート使ってたかw》
《伝説(黒歴史)更新おめでとう!》
《永久BANおめw》
『ど、どういうことでしょうか!? これは運営からの強制処理か!? どうやらゴッドエイムマン選手、検知システムに引っかかった模様です!!』
『残念ながら、ゴッドエイムマン氏はチートプログラムを使用したようですね……デモンストレーションマッチはGYCゲーミングの勝利です』
解説の近藤がそうはっきりと伝える。我先にと逃げるように、ストリーマーの生配信は次々と切断された。
実況の声が試合中断のアナウンスを告げる中、GYCゲーミングの面々は沈黙した。
やがて、レシュリアがゆっくりと立ち上がる。
「——これが、哀れなチーター野郎の末路ですわ!! 傲慢なイカロスは地に堕ちますのよ!!」
オーホッホッホっと悪役令嬢のような高笑いのレシュリア。要も苦笑を浮かべていた。
「さすがにここまでお子様ですと、まるで我々が弱いものいじめをしているかのようでしたね」
その言葉に全員が吹き出した。
「……チーター討伐。ミッションコンプリートですね」
陽毬の言葉に、レシュリアが誇らしげに胸を張る。
「その通りですわ。わたくし達は——正々堂々、華麗に勝つのですもの!」




