16 爆ぜろレシュリア
第一試合終了後。設けられた20分間のインターバル。先ほど行われた全試合の中から数個のシーンがハイライトとして紹介される。
その中には綾がヘッドショットを決めまくるシーンも含まれていた。
危なげなく一回戦を突破したGYCゲーミングは次のアナウンスを待っている。
『……さあ!! 一回戦が終了したのですが……なんとなんと!! 2チームがレッドカードペナルティにより大会から姿を消してしまいました……!! 解説の近藤さん、いきなりの大波乱ですね!!』
『開発者として非常に残念の一言です。どうしてもチート行為は軽く見られてしまいますが、著作権の侵害に抵触する可能性がある犯罪だということを今一度プレイヤーの方には認識してほしいです』
司会を務めるミスターエフジェイもその通りだと頷く。そしてそういう台本なのだろう。次はゴッドエイムマンに話を振る。
『ゴッドエイムマンさんは気になるチームとかはありましたか?』
『そうだなあ。風の抜ける峡谷でバシバシ頭を抜いていたスナイパーがそこそこ上手かったかな。まあ俺ほどじゃないけどね。あとチートしちゃうのはマジで人としてダメだと思うな。自分の腕で戦わないと』
「……」
綾は無言だった。心の底から嫌悪感を含んだ顔つき。
「よかったじゃない綾。ハイライトで紹介されて、ゴッドエイムマンに褒められているわよ」
文香の言葉にも綾は反応をしない。文香の隣に座るレシュリアはゴッドエイムマンの名前に反応し、語気が荒くなる。
「チートは人としてダメ? なんて白々しいことを言うんですの……!? いけしゃあしゃあと、どの口がほざいて……!!」
バシンバシンとレシュリアが机を叩くたびにマウスが跳ねる。
「落ち着いてくださいレシュリア様。この程度の輩なのは重々承知していらっしゃるはずです。まずは綾のおかげで一勝できたことを喜びましょう」
「そ、そうですわね……それにしてもさすが綾ですわ!! まさにワンマンアーミーでしたわ!!」
レシュリアの手放しの賞賛に綾が少し気恥ずかしそうにする。
「……い、いえそこまで賞賛をいただくようなことでは」
「いやいや、本当にすごかったですよ綾先輩!!
私あのマップであそこまで狙撃できるプレイヤー初めて見ました。完全に開発の想定を上回っていたと思います!!」
陽毬も先ほどの綾のプレイでさっきから興奮しっぱなしだ。
「文香様と陽毬も蟻一匹通すことのない防衛ライン。お見事でしたよ」
「本当ですか!? キャーーー要様に褒められて文香嬉しいですぅ!! でもまだ一勝しただけなので、文香は要様のためにもっと頑張ります!!」
——そう文香の言葉の通りまだ一勝しただけ。
残ったのは64チーム。
ここからさらに半分にふるいをかけられる。
「そうですわ……まだまだ先は長いですの。ッ!! 次の試合サーバーへの招待メッセージが来ましたわ!!」
レシュリアは同じようにリンクをクリックする。
「次のマップは《砂塵の港湾》ですか」
要の言葉にお祭り騒ぎから一転して静かになる。
因縁といってもいいマップだ。このメンバーで本格的に練習を始めた日もこのマップだった。
「レシュリア先輩。その……くれぐれも……」
「わかってますわ。都度指示に従いますので、陽毬さん……お願いしますわ」
二回戦の敵チームはバランスの取れたチームだった。
抜きん出たプレイヤーがいない代わりに、穴となるプレイヤーもいない。交互に押しては引いてが繰り返す戦況だった。
試合が始まってまもなく3分が経過しようとしていた。
ゾーンの保有率はいまだに五分五分。
「もう少しでぇ……倒せる……ってああ!!」
《敵プレイヤー が フーミー をキルしました》
——あとちょっと追いかければ倒せそう。
そんなシチュエーションがあれば追いかけてしまう。チームから一人抜け出した文香が敵にキルされる。
「ご、ごめんなさい……」
「文香様、お気になさらずに。陽毬、私と綾で文香様が戦線復帰するまでここを維持します」
「お願いします!! レシュリア先輩、私達はこちら側を抑えましょう!!」
相手は倒されても無理に反撃せず、こちらのゾーンキャプチャー妨害に徹している。
「引くことが上手い……相手チームはおそらく残り時間が少なくなったら一気にキャプチャーに来ると思います」
「陽毬さん、どうしますの……??」
「ここはレシュリア先輩に"自爆"してもらいます……!!」
何か"起爆剤"となるようなキルがないとこの硬直した戦況は変わらない。陽毬はそう判断をする。
起爆——となると、それはもうピッタリの戦術がある。
「残り時間もあとわずか。レシュリア先輩の爆発で敵の同時キルを狙いましょう」
「つ、ついに陽毬さんから自爆司令が来ましたわ……!!」
「……はい?」
「あの優しい陽毬さんが爆破テロの教唆をするなんて……」
「ちょ、ちょっと言い方!!」
「骨は拾ってくださいまし……!!」
待ってましたとばかりにレシュリアの操作するキャラが飛び出す。一人だけ突出したレシュリアは敵チームにとっては格好の的。だが、レシュリアはまるで人が変わったかのような操作でかいくぐる。
ローリング回避とスライディングを駆使して、敵チームの密集する地点に飛び込む。
いつものレシュリアならとっくにハチの巣。だが爆破を目的としたレシュリアのキャラコンは冴えに冴えていた。
「レシュリア様はこと爆破になると素晴らしいキャラコンをしますね……」
「皆さん!! レシュリア先輩を守って!!」
陽毬の掛け声で一斉射撃。相手チームも負けじと応戦する。
「レシュリア、いきまーーーーーすわ!!」
敵陣に突っ込む。手慣れた操作で足元にロケットランチャーを放つ。
轟音——それと共に流れるキルログ。
《可憐なお嬢 が 敵プレイヤー2・3・4 をキルしました》
「今です!! 全員でゾーンを踏んでください!! 綾先輩、とにかく敵を——」
《AYA が 敵プレイヤー1 をキルしました》
「——牽制……してください……」
「……別に倒してしまっても構わないのですよね?」
壊滅した敵チーム。その隙に要を中心にゾーンを踏む。試合終了を告げるブザー音。
画面の中央に「VICTORY」の文字が輝いた。
「はああああ。なんとか勝てたわねぇ」
「疲れたわー」と伸びをする文香。レシュリアは得意げに胸を張る。
「ふふっ、やはり爆破は貴族の嗜みですわね」
「レシュリア様。嗜んだらダメなんですよそれ……」




