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ヲ嬢様と完璧従者の華麗なる日常 〜金と気品とボケと胃痛と〜  作者: 清士朗
第一章 新年度にはチーター討伐を

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12 これは必要経費ですわ!!

 

「あ、このビルですね」


 陽毬が指を刺す先。大通りに面した建物一棟が全て家電量販店のビル。


「随分大きなお店ですわね……」


「この店、何階まであるのよぉ……」


 レシュリアと文香は首をあげて見上げていた。




 聞き馴染みのある軽快な店舗BGMの流れる入り口をくぐり、目的のフロアへ向かう。


「有名な家電量販店なんですけど……皆さんはあまり来ない感じですか?」


「そうですわね。私は基本的にオンラインで買い物は済ませますわ。あ、でも服は実店舗で買います」


「……レシュリアは鏡に映る自分を見て、自尊心と肯定感を定期的に上げないと干からびるものねぇ……」


「ちょっと文香! それはどういう意味ですの⁉︎」


 陽毬を先頭にエスカレーターを何回か乗り継ぎ目的のフロアにたどり着く。

 PCの本体をはじめ、あたり一面がその関連商品で揃えられたフロア。


「さて、ここが目的地ですか?」


 要が陽毬に聞くと首を縦に振る。


「はい、マウスパッドのコーナーは……あ、あそこですね」


 ぞろぞろと移動すると、一つの通路が全てマウス関連の商品で埋め尽くされていた。


「こ、こんなに種類があるんですね……」


 傍目に見たらどれも同じように見えてしまい、そもそもが機械に疎い綾が混乱する。

 近場にあったマウスのサンプルを手に取ってみるが、何が違うのかわからない。


「まあ、正直興味ないと全く同じものに見えてしまいますよね……ちなみに綾先輩が今お持ちのマウスは結構人気のゲーミングマウスですよ」


「違いがわかりませんね……」


「あははは、ぱっと見はわかりませんよね。右手に持ってるのが右利き用。左手に持ってるのが左右対称です」


「言われてみると……確かに……」


「陽毬さん! 陽毬さん! マウスパッドはどれを買いますの!?」


 先に進んでいたレシュリアの声に陽毬は振り返る。文香と要もマウスパッドのコーナーにいた。


 ほぼ黒一色の売り場。触った感じだとどれも同じに見えてしまう。


「このマウスパッド。インペリアルナイトって名前でめっっっちゃかっこいいですわ!!」


 レシュリアが手に取った製品は、右下に小さく甲冑と剣の紋章が入れられたマウスパッドだった。値段はなんと驚異の一万超え。


 目をキラキラと輝かせたレシュリアに要が事前に釘を刺す。


「レシュリア様、お小遣い減額中の件をお忘れなく。陽毬は探していたもの、見つかりましたか?」


「えーと……私が今まで使っていた型番の製品は絶版なんですよね……それの後継製品は……あ、ありました! これです!」


 目的の商品が見つかり手に取る陽毬。


「とりあえず最低限の目的はこれで達成したかしら……あら、これは?」


 文香の視線の先にはアームサーポターが売っていた。気になった文香がサンプルを手に取る。


「怪我用のサポーターと違って、ガッチリと固定される物ではないのねぇ」


「そうですね、主にマウスを動かす時の摩擦の軽減。そして腕全体を適度に締め付けて疲労感を抑える目的の商品なんです」


 キーボードとマウスによって操作するゲーマーにとって手首から腕に不調はパフォーマンスに関わる。


「実はこれ私気になっているんですよね……ちょっと試しに着けてみようかな」


 そう言ってアームサポーターのサンプルをつける陽毬。その状態でお試し用のマウスを動かしてみる。


 鋭いながら滑らかな動き。そして精密機器のようにビタっと止まる腕。その姿にレシュリアが興奮する。


「陽毬さんすごいかっこいいです! プロゲーマーみたいです!」


「いや陽毬さんは、実際に元プロじゃない……」


 文香の指摘は気に求めずに、フンスフンスと荒い鼻息のレシュリア。


 先程のマウスパッドに比べたらアームサポーターはまだお安い。


 形から物事に入るレシュリアの琴線にビンビンに触れる。


「かなりいいですよこれ。私これも買います」


「な、なんと、そんなにいいものなのですか……決めましたわ……! 私もこの商品を買いますわ!」


「レシュリア様。再三ですが——」


「減額の件はわかってますわ! でもこれは必要経費ですの!

 ——そうですわ! このアームサポーターに娯楽遊戯倶楽部のイニシャルGY"K"を使って、GYKゲーミングって文字を入れましょう! そして私たちチームのユニフォームにしましょう!」


「レシュリアぁ……クラブはKじゃなくて、Cよぉ。まあでもユニフォームの件は面白そうね」


「GYCゲーミング……いいですね。文字入れサービスもありますし、みんなで作りましょうか」


 文香と陽毬もノリノリなところを、綾が冷静に指摘する。


「お嬢様方、こちらをご覧ください。文字入れサービスは一週間のお時間がかかるとのことです」


「あら本当ねぇ。本番は来週だし。文字入れは難しいかしら」


 文香の言葉にショックを隠せないレシュリア。人目もはばからず、ステレオタイプの駄々をこねる。


「いやだいやだですわ! ユニフォームを作りたいですわ!」


 チラリ。と要の方に視線を向けるレシュリア。それに気付いたら要はいや知らんとばかりにプイッと視線を逸らす。


「かーなーめー! 何とかしてくださいまし!」


「いやいやレシュリア先輩。文字入れがなくとも、みんなでつければユニフォームっぽくないですか?」


 歳下の陽毬が至極真っ当な意見で諭すも、レシュリアは止まらない。むしろギャーギャーとさらに喚く。


「はぁ……はいはい、もうわかりましたよ。少々お待ちください。今から業者に交渉します」


 せっかくの公休なのにと、要は頭を抱えた。




「皆さん、私の買い物にお付き合いをありがとうございました」


 店の入り口で陽毬が頭を下げる。


「いえいえ、お気になさらずに。私達が好きで着いてきたのですから。ところで要。アームサポーターの進捗は?」


「業者の方に無理を言って急ぎで仕上げてもらってます。明日には当家の方に納品されるかと。週明けの月曜日に学園へとお持ちしますね」


「レシュリアぁ。ここまでお膳立てしたのだから大会当日は足を引っ張らないでよぉ」


「まったく、言われなくてもわかってますわ! ……後何か見てまわりたい方はいらっしゃいますか?」


 レシュリアがみんなに問うと、綾がモジモジとした態度で答える。


「……あ、あの。その……せっかくですので、私は私用のモノを買いに行きたいのですが」


 なんとも曖昧な表現だが、レシュリアと文香はすぐに察しがついた。文香が嬉々として尋ねる。


「あ、もしかして『しょーぐんさんとぐんし君』の新刊——」


 その瞬間、綾が文香の口を塞ぐ。正確にはまるで頭部へのアイアンクローのように握り潰していた。


 綾の瞳には光がなく、ただ黒い渦がうごめいているようだ。


「フゴォーフゴォー」ともがく文香。綾の腕を必死にタップする。


「あ、綾! 文香様が! 窒息死しますよ!」


「ああ、大変申し訳ありません。つい脊髄反射で……」


「ありがとうございますぅ要様ぁ。わ、わかったわ綾。ここからは自由行動にしましょう」


 怯えた目で震える文香。


「えーと……じゃあ私。追ってる漫画の新刊があるので、本屋に買いに行ってきますね」


 陽毬の発言に綾が焦る。


「ひ、ひひひ陽毬さんも。ほほほ、本屋に?」


「も? 綾先輩も何か欲しいものがあるんですね。でしたら一緒に行きましょう。場所わかりますか? 私案内しますよ」


 こちらですと言って、先に歩き出す陽毬。


「綾……その。陽毬は……」


「ええ、要くんわかってます。勝手に隠しているのは私なので……」


 麗人、柚木綾は『しょーぐんさんとぐんし君』という戦国時代を題材にした少年漫画の熱心なファンである。このことは陽毬以外の面々には周知の事実だ。


 キャッチーなタイトルとは裏腹に、漢(綾曰く男ではないらしい)同士の熱い友情を描いたこの作品は紳士よりも淑女のファンが多く、二次創作も非常に盛んだ。


「ま、まあ陽毬さんは誰かに口外するようなタイプじゃないと思うわよぉ」


「ええ、まあもちろん……文香様と違って根がお優しい方なのはわかってます。

 はあ、こんな場所ですし、私と要君は一応護衛も兼ねてますので、私が陽毬さんの護衛にまわりますね」


 げっそりとした顔で先をいく陽毬を追いかける綾。その背中を見送った後、要がレシュリアと文香に向き直る。


「さて、我々はどういたしましょうか」


「私、行ってみたいところがありますわ!」


 レシュリアがそういうとニヤリと笑う。


「ゲームセンターとやらに行きますわよ!」

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