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13 魔女の元へ

 その日のこと、私が庭園に出ようとしていた所、同じく外に出ようとしていたファーディナンド殿下とバッタリ出会いました。


「シェアーか、お前も外出するのか?」


「私は庭園を散歩しようと思っていた所です。ファーディナンド殿下はどちらに行かれるのですか?」


 たしか今日はファーディナンド殿下のご公務は無かったと記憶しています。


「あぁ、少しな……」


 そう言って目を逸らしながら不自然に言いよどむファーディナンド殿下。

 その様子をみて私はピンっと来てしまいました。


「もしかして……女性の所ですか?」


 ファーディナンド殿下のプライベートに踏み込むべきでは無い、と頭では理解しているのですが興味がそれに打ち勝って思わず聞いてしまいます。


「……シェアーの想像してることとは違うぞ」


「あら、どう違われるのですか?」


 そう言われてもファーディナンド殿下は即答せずに押し黙るとその時、一緒にいたユリエル卿は「フフフ」と笑いだした。


「違わないですよね、ファーディナンド殿下」


「ユリエル、お前!」


 やっぱり、そう言う事ですか。


「まぁ!やっぱりそうだったのですね。シュヴァーベンにファーディナンド殿下がお忍びで通われるほどご寵愛を受けた女性がいらっしゃるとは思いませんでした」


「正確に言いますと女性に会いに行く、という所のみ正解です。ですが寵愛を受けた女性がいる、という所は不正解です」


「どういう事でしょうか?」


「正式な公務とは違いますか非公式に会いに行かれる方がいてそれが女性だと言うだけです。まぁ公務の一環と言っても差支えないと思います」


 そして「ファーディナンド殿下には女性遊びをする暇などありませんから」と、私を安心させるように言いました。


「シェアーは私をそんな目で見ていたのか?……それにユリエル、勝手に口を挟むのは辞めろ」


「申し訳ありません、ファーディナンド殿下。シェアー殿下を安心させようと思いつい口を挟んでしまいました」


「……まぁ良い。折角だシェアーも一緒に来るか?」


 え、良いの?


★★★★★


「魔女、の元に参られるのですか?」


 馬車の中で私はファーディナンド殿下の行く先を教えられました。

 魔女と言えば悪しき象徴ですよね。

 少なくとも多くの物語の中ではそうです。

 歴史の陰に隠れながら、様々な策謀を巡らし、そして何時かは物語の主人公に打破されるべき存在。

 というのが物語の定番です。

 ですがファーディナンド殿下が会いに行かれるという魔女は違うようです。


「これから訪れる場所に住まう者は魔女と呼ばれてはいますが、それはあくまで通称みたいなものです。実際の役割は王族に仕え、様々な知識や助言を行う者達ですね」


 ユリエル卿はそう説明してくれた。

 そんな人達がいるんですか、まったく知りませんでした。


「そんな方が魔物に襲われる可能性のある森にたった一人で住まわれているんですか?」


「私も詳しくは知りませんが、昔からそこに住まわれているので何かしらの対策をしているのでしょう」


「それもそうですね」と私は頷く。


 その程度の事が出来なければ恐らく『魔女』とは呼ばれないのでしょう。

 そんな事を話している間に馬車が静かに止まった。

 たどり着いたのはとある中規模の建物。

 ここに魔女さんがいるのね。

 私はファーディナンド殿下らの後に続き建物に入りました。

 そしてある部屋の前でユリエル卿は扉をノックすると、内側から「入って良いですよ」と声が聴こえました。

 その声に誘われるようにユリエル卿は扉を開くと、まず聴こえて来たのが刃物を研ぐような音、そして一瞬遅れて薬草の独特の臭いがしました。

 部屋の中に入るとまず目についたのが沢山の棚に置かれた薬草や薬品、そして何に使うのかわからない様々な道具です。

 そして部屋の暖炉の前にある机にはフードを被った人の姿があります。

 どうやらこの人が刃物を研いでいたようです。

 バタンと部屋の扉が閉じられると、それを合図にするようにその方が振り向きました。


「久し振りですね、殿下――おや?そのご令嬢はどなたです?」


「そうだな久し振りだ、こちらはシェアー。シェアー紹介しよう、魔女レアだ」


 紹介された魔女――レアさんは直前まで研いでいたと思われる刃物をキラリと光を反射させながら机に置くと、深めに被っていたフードをパサリと音を立ててとります。

 その姿をみた私はとてもとても驚いたのでした。

 肩まで伸びるブルネットの髪に、髪と同じ色のキリリとした瞳、そしてまだ成熟しきっていない様な体型をした女性だったからです。

 年齢はどうみても私より若く見えます。

 驚いたのはその容姿だけではありません。

 上半身はなんて事の無い腰まであるフードなのですが、その下に身に付けていたのは膝がはっきり見えるくらい丈の短いプリーツスカートだったのです。

 こ、この娘が魔女!?

 そ、それにこんなに脚を露出して恥ずかしくないのかしら!?

 ハッキリ言って一般的な下着より足を露出してる状態です。

 同姓の私でもついつい視線を向けてしまう格好なのに、男性の好奇な視線――すばり言ってしまえばファーディナンド殿下たちがいやしい視線を向けてるんじゃ……と思いながらファーディナンド殿下の顔を横目で確認しますが普段と特段変わった様子はみられませんでした。


「ふーん、シェアーって王女殿下でしょ?ファーディナンド殿下と婚約したっていう」


「ほぅ、知っていたのか」


「そりゃぁねぇ。私だって耳はあるし、領内はその話題で持ち切りですもの」


 そう言ってからレアさんは私の方に向き直る。


「私はレア。魔女と呼ぶ人もいるけど好きに呼んでくれて構わないから。宜しくね、シェアー王女殿下」


「し、シェアーと申します、私こそ宜しくお願いします」


 ついレアさんの下半身に目が行きしどろもどろになりながらも挨拶をする。

 私のそんな視線を知ってか知らずか、レアさんはファーディナンド殿下に向き直りました。


「で、今日はどんな用事できたの?……まぁ大体推測は付いてるけれど」


「……最近頻発している魔物の襲撃についてだ。何か知っているか?」


「やっぱりその話なんだ。じゃ長くなりそうだから向こうの部屋で話そうか」


 そう言ってレアさんは奥の部屋へ私達を誘いました。

 そしてソファーに私達を座らせると、レアさんはどこからか用意したお茶を私達に出した後、正面に座ります。

 勧められるまま口をお茶につけました。


「変わった香りと風味があるお茶ですね」


「ん?えっとね。それは香り付けに薬草を使っているんだよね」


「えっ!?薬草?お茶にですか?」


 私は驚いて思わず聞き返します。


「うん、これはホンの香り付け程度にしか使ってないけど、薬草はね、薬の原料になるだけでなく料理なんかに混ぜると食当たりを防いだり、食物の消化を助けたりする効果もあるんだ」


「お料理に薬草を使う事があるなんて初めてしりました」


 薬草がお料理に合うなんてビックリです。


「まぁね、薬草は薬の原料として使うのが一般的だし、薬草そのものが高めで料理に使うにはちょっと勿体ないと思う人も多いからね」


 そしてレアさん自身もお茶を口に付け「でもこの香り悪くないでしょ?」と言って微笑んだ。


「はい、とてもとても美味しいと思います」


「でしょ?これは師匠の直伝レシピなんだ。それで?本題は魔物の襲撃についてだっけ」


「そうだ、先程の口ぶりからは何か知っているようだったが何を知っている?」


「そうねぇ。本当はもっともったいぶりたいけれどそうも言ってられないか。私が知っているのは最近起っている魔物の襲撃は人為的に起こされている可能性が高いって事かな」


「えぇっ――!」


 レアさんの予想もしなかった言葉に私は思わず大きな声を出してしまい、周りの目が私に注がれてしまう。

 私は慌てて手で口を抑えて声を抑える。

 レアさんは魔物の襲撃が人為的と言いました。

 一体どういう事なのでしょうか?


「それで、レアは何をしっているんだ?」


「うーんと、魔物は瘴気から生まれるのは知っているわよね?」


 私達は勿論とばかりに頷く。

 魔物が瘴気から生まれるのはこの世界では常識です。

 正確には瘴気が一定より濃くなるとそこに住まう動物が瘴気に蝕まれ、魔物化すると言われています。


「そして瘴気が濃くなるほど魔物が生まれる速度が上がり、その上強くなるんだけど」


 そう言ってレアさんは手に持った書物をパラパラと捲ると、足を組み替える。

 私はそれを見て思わず目を逸らしてしまった。

 だってだって……。

 レアさんが足を組み替える時に短いスカートから太ももの奥が見え隠れしてコッチまで恥ずかしくなってしまったのです。

 まずいですよ!

 これじゃ何かのタイミングで下着がみえてしまいそうです。

 チラリと横目でファーディナンド殿下の様子を確認しましたが、別にまったく気に留めた様子がありません。

 ドギマギしているのは私だけのようでした。

 しかし、そんな私の心配を余所にレアさんは大事な話を続けています。


「定期的に瘴気が濃くなりやすい時代がくるのは10年おきで、今の時期はそれに合わないんだよね」


「でもそれがなぜ人為的じゃないかと疑う事になる?なんらかの要因でその周期が早まった可能性もあるんじゃないのか?」


「その疑問はもっともだよね。私も適当に言っているわけではなく実際に森に入って調べてみたんだ。所でなぜ瘴気が生まれるかこの中で知っている人はいるかな?」


 レアさんはまるで学生に講義する先生のように私達を見回し、誰も答えないのを確認して話を続けました。


「動物を魔物と変化させる瘴気は地の底から湧いてくるんだよ。その瘴気を発生させる場所は川や湖のように固定されていてその流れを識者は瘴脈と呼んでいるけどね」


 そう言ってレアさんは立ちあがると本棚から地図を取り出し、私達にみせるように机の上に広げました。

 その地図上には幾つかの場所に色がつけられています。


「この地図上で色の濃くなっている所が瘴気が濃くなりやすい場所なんだけど、それは今回魔物の襲撃が頻発している場所とは掛け離れているんだ」


 そして地図上の〇で囲まれた場所を指で指し示しました。

 そこはシュヴァーベンの一部地域です。


「この場所で自然に魔物が発生する可能性は0なんだよね。理由は簡単でそもそも瘴脈が無いから。なのに魔物被害が発生しているのは事実。つまりこれは――」


「だから誰かが人為的に魔物被害を起こしている、という事か」


「うん、その通り」


 レアさんは「良く出来ました」と言わんばかりに口元を綻ばせる。


「で、でも人為的に魔物被害を起こすなんてそんな事可能なのでしょうか?」


「まぁシェアー王女殿下の疑問はもっともだよね。でもそれは可能か不可能かっていったら可能なんだよねー」


 そう言ってレアさんは再び立ち上がると本棚から一冊、表紙が真っ黒な本を取り出した。


「それは……?」


「この本はね。人為的に魔物を創り出す方法が書いてある本だよ。正確には瘴気の無い場所に、一時的に瘴気を創り出す事が出来る方法が記されてるんだ」


「そんな事が出来るのか」


「出来るんじゃないかな、私は試したことないけど。私の師匠は小規模に何度か試したことがあるみたい――あ、これはナイショでお願いね」


 そう言ってレアさんは小悪魔的に微笑みました。

 なんでもこの本は古の大魔女と呼ばれる人が執筆したと言われる禁書らしいです。

 ですが一度本となった以上、少数ながら外部にも出回っている可能性があるそうだ。


「レアの考えは分かった。それで、お前ならこの問題をどう対処する?」


「うーん、そうだねー。一度創り出された瘴気は自然に消えるのを待つしかないと思う。大事なのはこんな大それたことをしでかした犯人を見つけ出す事じゃないかな」


「犯人の目ぼしはついているのか?」


「今はわからないけど、この瘴気を生み出す薬品を作るにはかなり特殊な材料が必要なんだよね。そっちのルートからある程度絞り込めると思うよ」


「だ、だったら早く絞り込んで犯人を見つけないと」


 私は慌てて叫びました。


「まーまー落ち着いてよ、シェアー王女殿下。絞り込むにしてもある程度時間を貰わないと」


「で、でもレアさん!」


「そうだシェアー落ち着け。今すぐに解決出来るとは私も思っていない」


「ファーディナンド殿下まで……」


「今回の魔物の襲撃は王国で広範囲に起っている。これほど大規模に事を起こせる以上、犯人は個人ではないだろう」


「その意見には私も賛成するよ。もう少しばかり時間を貰えば詳しいことがわかるんじゃないかな」


 レアさんはお茶を飲みながら足を組み替えると、私を諭すようにそう言われたのでした。

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