愛国 七
「南景を預かる慶子義は、戦覚悟で王を諫める気なのね」
香澄が言い、貴志は頷く。
それで、甲芭之は、
「王は謀反の気を察して、この、甲芭之って臣下を慶子義の集まりに来させていたんだ、ってところかな」
いかにしてその陰謀は察せられたのか。
「誰かある!」
と、慶子義は召使いを呼んだ。
「お呼びでしょうか」
と、老齢の男の召使いが来るや。慶子義は甲芭之から奪った匕首を投げつけ、その刃は召使いの額に突き刺さり。鮮血をほとばしらせながら、召使いはどおと倒れて、息絶えた。
「っや!」
「父の代より仕える忠義者だが、王に逆らうのはよほど恐ろしかったのだな。その心情、わからぬではないが」
「むむむ、見抜いておったか」
「このところ、様子がおかしいのでさぐらせてみれば。残念ながら、ああ……」
慶子義ははらはらと涙をこぼした。
「幼少の頃より私のことをたいそうかわいがり、期待を寄せてくれたこの者を討つは、やはり忍びない」
召使いは甲芭之に通じていたのだ。慶子義に対して不忠でなく、国と王に忠であるがゆえに。
「誤った愛国観は人を誤らせる。そして国を誤らせる。このようなこと、止めねばならぬ」
そして他の者を呼び、事情を話し、手厚く弔うよう命じた。
甲芭之は意を決して言う。
「その覚悟、しかと受け止めました。やはり、そこもとを討つならば、暗殺ではなく、戦場にて」
「大義親を滅すという。これもまた忍び難きものであるが、大義のためである。もし戦場にてお会いしたなら、心ゆくまで勝負を決しましょうぞ」
慶子義は涙をぬぐい言う。甲芭之は頷く。
また別の者を呼び、
「丁重にお見送りせよ」
と命じ。甲芭之は、では、と退出した。
そこで通心紙はただの厚紙にもどった。
「マリーは見なくてよかったわね」
香澄は苦笑しながら言う。もし彼女が、慶子義が召使いを殺すのを見れば、卒倒することは間違いなかった。
逆に、そういう物騒なことに慣れている自分に苦笑もする。
「なんだよ、面白そうなことになってきたじゃねえか」
源龍はにわかに元気になっていた。
「遊びじゃないんだよ」
羅彩女はたしなめるが、源龍に利くわけもない。見よ、その目の輝きを。
それで、これからどうするのか。
マリーを呼び戻して、一同船室で円座し、互いに顔を見合わせ。色々話し合って、
「南景にゆこう」
という結論に達した。
やがて、雨も小降りになり、やんだ。
翌朝、というにはまだ暗い。草木も眠る丑三つ時を少し過ぎたころ。
夜闇まだ世を覆い、人目の心配はなく。船を岸に着け、一同地に降り立った。




