愛国 五
そう言われても、慶子義は眉ひとつ動かさない。他の面々があれこれ思うに任せて発言する中、そういえばこの男は無言のままだったが……。
「申し訳ないながら、それがしにも、手立てはありませぬ」
と、期待外れなことを漏らす。
「そんな、ご謙遜を」
「いいえ、謙遜ではありません。出来るものなら、もうとうにお諫め申し上げていますが。我が心の臆病に負けて……」
「慶子義殿すら手立てがないとなれば、我らにも打つ手はありませぬ」
「なっさけねえことを言いやがるぜ」
源龍は見ながら苛立ちをあらわにする。
「ああ、お国の難、いかにせん、いかにせん」
はらはらと泣き出す者まで出てきた。大の男が国難に手をこまねいて泣き出すなど、恥辱ではあるが、そうも言っていられないほど、焦燥感は禁じ得なかった。
「お国の難を払い、上下万民に安寧をもたらす大丈夫はいずこにか」
男たちの中で一番おいおい泣くのは、白い髭を顎から生やす、ここで一番年長の老人、甲芭之であった。慶子義は弱ったように眉をひそめて、
「甲芭之殿、不甲斐ないそれがしをどうかお許し願いたい」
そう、許しを乞うた。
「ううむ。いや、それもまたやむを得ぬこと。無様なところをお見せして、それがしも申し訳ない」
「今日のところはここまでにし、続きはまた明日にいたしましょう。……そうそう、甲芭之殿」
「なんですかな?」
「甲芭之殿とはまこと久しぶりにあいまみえたゆえに、酒でも一献酌み交わしながら、積もる話もと思いますが。よろしいか」
「おお、そこもとにそう言っていただけるなら。ご厚意にお甘えいたしましょう」
「では、家中の者に命じて、宴の支度を」
「いやいや、宴など、たいそうなことは無用。そなたとふたりきり、余人をまじえず、ゆるりと話をしたいが」
「わかりました、そうおっしゃるならば」
「しからば、それがしらは、これにて」
「はい、ありがとうございました」
他の男たちは部屋を退出し、慶子義と甲芭之のふたりきりとなり。召使いが酒やつまみを持ってきて、ふたり杯を酌み交わし、酒でのどを潤せば、心も潤う気持であった。
「なんだこりゃ、こんなの見せてどうしようってんだ」
大の男が雁首並べて愚痴を吐くだけのことだった。そこからさらに、男同士か酒を酌み交わすところを見て、どうしようというのか。
源龍はそっぽを向いて、船室の隅で寝転んでしまった。羅彩女も、思わずあくびをしてしまい、源龍のそばで寝転び。しかし貴志は、真面目に通心紙を見据えていた。香澄とマリー、コヒョ、リオンも。




