愛国 三
「そうそう、それそれ。さすが貴志さんは頭いいね」
リオンが笑顔で褒め、貴志はやや照れを見せる。
「それで、帷国を治める悪王は、なんという名なんだい?」
「陽山君っていうよ……」
などなどの話を一同繰り広げながら、船は空を、まるで水面に乗るかの如く、雲の上に乗り、浮かぶ。
「ああ、やっと落ち着いたわ……」
船室から出てきたマリーは一同を優しげな面持ちで眺めて言い、円座にくわわる。
この女性、この面々の中で一番の年長で、年頃の娘もいるのだが。根は優しく、裏を返せばひ弱な面は否めず、修羅場を渡るに不向きな性格であるが。それでもあるかなきかの勇気を振り絞って、一同と共に修羅場を駆け抜けてきたものだった。
その年頃の娘は、虎碧といい、龍玉なる女侠と流浪の旅をしているが。さて今どこにいるのやら。
「虎碧も帷国にいるかしら……」
と、ぽそっとつぶやいた。世界樹はそれらをなんだかんだで修羅場に放り込んだものである。虎碧と龍玉も、世界樹に導かれて、帷国に来ているかもしれなかった。
高く昇っていた陽は傾きつつある。それを眺めるように、船は不動となり、雲に浮かぶ。
「まあ今日は休んで英気を養い、明日地上に降りよう」
と、コヒョとリオンは言い。一同頷き、船室に入って蓄えの糧食を食ったり、休んだり、星空を眺めたりして、思い思いに過ごした。
翌朝、雲に浮かぶ船は動き出し。雲の中に沈んで、その下に出れば。昨日と同じように、下界は曇天に覆われていた。
そうかと思えば、雨が降ってくる。
一同船室に入って雨露をしのぐ。
霧もかかってくる。
船は雨と霧に隠れるように降下してゆき、川幅のある大河に着水した。
「ここはどこかわかるかい?」
「えーとね、ちょっと待ってね」
コヒョは手のひら大の厚紙を手にして、それをじっと見据えている。通心紙というもので、これでいろいろ知ることが出来るという。
見れば通心紙には地図らしきものが映っている。
「ここは帷国の都・景から少し南にある南水という河だね。僕らの船は南水に浮かんでいる。南岸には南景という城がある」
雨が船をたたく音が船室の中にも聞こえてくる。
「南景とは?」
「都の南を守るためにつくられた城だね。都の東西南北を守るため、それぞれ、東景、西景、南景、北景とあるよ」
と、コヒョは通心紙を眺めて言う。
「異世界でも、僕らの世界の大陸みたく、中原があって。その中原に都を置いてるのは同じだね」
リオンも通心紙を手にして、じっと眺めている。




