表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
43/47

風雲が呼ぶのは 九

 それに続いてマリーとリオン、コヒョも。やや遅れて羅彩女。ただ、戦いでは素早い動きを見せる源龍だが、この場面においてはなんだか動きが鈍い。

 それを見て、香澄は源龍に一緒に跪くことをふたたびうながす。

「……」

 源龍は鈍い動きで膝を折り、皆と一緒に跪く。

(こういうの苦手なんだよなあ)

(子供じゃあるまいし)

 源龍の渋々さを見て、羅彩女は内心苦笑する。

 空は晴れ。雲が思い思いに青い空を泳ぎ。鳥のさえずりが耳をなで、そよ風が頬を撫でる。

「まあまあ。ここではなんじゃから、外の庵までゆこうか」

 元煥はくるりと背を向け、つかつか歩き出し。側近の僧が他の僧にそれぞれの持ち場に戻るよう促し、ばらけてゆく。

 一同は立ち上がり、元煥の後をついてゆく。

 異変に対しやけに冷静な僧たちを見て、羅彩女が思わず小声でつぶやく。

「落ち着いたもんだねえ」

「仏道修行をする者が、何かにつけていちいち驚いていてはいかんわい」

「あらやだ、聞こえてたの」

「地獄耳だな」

 源龍は貴志が驚くようなことをあっさり言ってのける。

「はっはっは。浄土の耳といってほしいところじゃ」

「ふん、あいかわらず食えねえ爺さんだぜ」

「お褒めにあずかり光栄じゃ」

 元煥は闊達に笑い。源龍も源龍で、悪い気はせず。むしろ楽しげであった。

 一同は石窟からしばらく歩いて、寺坊の中にいた。

 ここ慶群の光善寺には石造りの石塔もあった、慶群は良質な花崗岩の産地であり、その花崗岩を用いて建造された建物も多かった。

 そこからさらに歩いて、門をくぐり境内を出れば、来客用の庵があった。この光善寺は基本的に男女別々に分かれ、顔を合わせることもない。というところだ。それゆえ男女入り混じる集団が境内にいるのは、禁忌破りなことでもあった。

「法主がわしでよかったのう。でなければ、何をされたかわからんぞ」

「言ってくれるじゃねえか。オレたちに手を出したら、骨が折れるじゃすまねえぞ」

「おお、怖い怖い」

 と、怖くなさそうに元煥は言う。

 ともあれ、一同庵に入り。円座で座り。貴志はこれまでのいきさつを話した。

「人海の国の物語とな?」

「え、ご存知ありませんか?」

「いや、知らぬなあ」

 貴志は絶句した。人海の国の物語は広く読まれており、教養豊かな元煥が知らぬはずがない。

 とはいえ、察しのよい元煥であった。

「話から察するに……。滅ぼされて、忘れ去られてしまったということか。酷いことじゃが」

 鬼どもの無分別な暴力は、人海の国を滅ぼした……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ