表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
42/47

風雲が呼ぶのは 八

「お兄さま!」

 と、貴志を呼ぶ穆蘭の声。

「しばしのお別れです!」

 声に振り向けば、穆蘭は鵰ごと、消えていなくなってしまった。コヒョがなぜ刑天になっていたのか、話を聞くこともなく。

 と思えば、

「槍が……」

 甲板に置いた衛兵の短槍も、消えてゆく。

 次いで香澄の方を振り向いた。彼女なら何か応えてくれるのではないかと期待したが。

 何も言わず、首を横に振るばかり。

 源龍も羅彩女も、マリーもリオンも、子供の姿に戻ったコヒョも、何も言わない。

 まるで言葉がなくなったかのような、不思議な静寂。渦を巻く『怨』の字も、何の音も発しない。

 ただ、この静寂こそが『怨』なのだと、なぜかそんなことを貴志は考えていた。

 そして静寂ゆえに恐ろしいのだとも。

 貴志は懐から筆の天下を取り出した。筆は何の反応も示さない。今は何も書けなさそうだ。

 筆の天下をじっと見据え。瞬きをすれば。

 自分たちは石窟の中にいた。

 半円の出入り口から光が差し込み。その光が、石窟の中央に座す仏像を、壁に彫られた菩薩像を見せる。

光善寺クァンソンシだ」

 自分たちは、瞬く間に、異界の空を飛ぶ船から、暁星ヒョスン慶群キョングンにある石窟の中へと移されたのだ。

「ここは、あの寺か」

 源龍は不思議そうに言う。ふと自分を、他の面々を見れば、よそおいはそのまま。

「わっ!」

 驚く声。桶と布巾を携えた小僧が石窟に掃除に来たのだが、中に人がいるのを見て驚いてしまったのだ。それも、武装をしているではないか。

「大変ですっ!」

 と、桶を落とし水をぶちまけながら逃げ出してしまった。

「違う、違うんだよ!」

 貴志は苦笑しながら外に出る。他の面々も一緒に外出て歩き出すが。しばらくしてわいわいがやがやと人の声がしてくる。

 その人の声の中に、

「また何かあったんじゃのう」

 という、老僧の声も。

 法主の元煥ウォンファンだった。

「ご法主、李貴志でございます」

 貴志は先頭に立ち、小走りで人々の元までゆき。老僧、法主の元煥の前で跪いた。

 貴志は五男とはいえ宰相の子であり、李家は建国に功績のあった五大家のひとつで、王族でもあったが。貴志はもともと差別をせず人をひとしく敬う性質であったとはいえ、そんな位の高い者が法主に跪くのは、相当なことだった。

 それもそうで。元煥はこの寺の法主であると同時に、都の漢星ハンスンに招かれ王のまつりごとの相談に乗り、助言もするほどの人物であった。

 今現在、暁星が安定しているのは、元煥の働きもあった。なので、貴志の元煥を慕う心はとても深かった。

「おお、貴志殿。この様子だと、また何かあったようじゃの」

「……はい」

「源龍」

 香澄も元煥を見るや、源龍にうながしながら素早く跪いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ