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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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夢は覚めず 四

(はっ!)

 とする。頭の中で引っ掛かっていたのは、マリーだった。この女性であった。と同時に、流れて遠くへ行きそうなものが、一気に戻ってくる感じも覚えた。

 穴はいつの間にかふさがれて、何事もなかったかのように本棚がふたりを見下ろすようにたたずんでいる。

「ど、どうしたんですか?」

「また、色々とありまして……」

「ええ……」

 あの、悪戦苦闘のすえに勝利し、世の混迷を食い止めたと思ったのに。また、とは。

「……」

 マリーは落ちる際に思わず声を出してしまったが。召使いや警護兵たちが来ないのを見ると、幸い外には漏れなかったようだ。

「ああ、ごめんなさい、ごめんなさい。はしたないことを……」

 横たわる貴志の上で横たわるマリーは、相手の顔が間近にあって目が合って。急いでどこうとして慌ててしまい、余計に貴志の上でばたばたする羽目になって。

 ようやく立ち上がれた。

 もうその白面が真っ赤だ。

 貴志も気まずい照れを禁じえず、その貴公子然とした白面が真っ赤になってしまっていた。

「ああ、いえ」

 と言いつつ、貴志は卓の椅子を差し出し、座るようにうながせば。マリーは、お言葉に甘えまして、と腰かける。

 マリーは白い、頭巾のある外套を着ている。その下は、いずこの国の着物か、白い布を身体に掛けたような服を着ている。

 ともあれ、貴志は寝台に腰かけて。何事かを聞く。

 マリーは外套の裏側に手を入れ、外套の小袋からなにかやや長方形の厚紙を取り出した。

 その厚紙は見たことがある。表面にまるで鏡のようにものが映り、遠くの者とも話ができるという、通心紙という名の、不思議な厚紙だった。

「私があれこれ言うより、これを見ていただければ……」

 通心紙の表面に何かが映る。それは青空広がる爽やかな草原の風景で。草原には大樹、世界樹が聳え立っている。

 その周辺に緑の服を着た、肌の色も目の色もさまざまな子供たちがいる。子供たちは楽しそうに走り回っている。

 これは、ここではない別の、異世界の世界樹の日常風景だった。

 一見何事もないようだが。

 強い風が吹いて、世界樹の枝葉がざわめく。

 子供たちは何事かと世界樹を見上げる。

(魂の止まり木)

 ふと、そんなことを思い出した。

 障魔との戦い済んで、香澄がそう世界樹を語ったのだ。魂は渡り鳥のように、ひとつところにとどまれないもの。そんな魂の、旅の途中で立ち寄る止まり木なのだと。

 不思議な夢を見せられ、その夢の中で死んで、世界樹によって転生させられて。

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