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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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求める戦い、求めぬ戦い 六

 無数の『怨』の字は竜巻のようになって船を囲み、さらには空まで覆い隠してしまった。海も見えない。

 全く視界が効かず。ただ竜巻のように回る赤い『怨』の字ばかりを見せつけられる。

「怨みの念がすごすぎて、生ける者全てを怨んじゃってるよお~」

 コヒョが貴志の足にしがみつけば。リオンももう片方の貴志の足にしがみつき。

 マリーは不安そうな面持ちで貴志の背中に寄り添う。

「生ける者全てを怨むって」

 そんな理不尽な、と思ってしまうが。自分が同じ立場なら、そうするかもしれないと考えた貴志だった。

「冗談じゃねえ、やられたのはひでえと思うが、とばっちりはごめんだぜ」

「ほんと、ほんと。怨むなら鬼を怨みなよ」

「だから怨念なのよ」

 思わず愚痴の出る源龍と羅彩女に言い聞かせるように香澄は声を張らせて言う。

 ごおぉ~~。

 という風の唸りが聞こえる。いや、それは風の唸りか、それとも『怨』の字の発する念の声か。

 一同、胸の内から沸き起こる得体のしれない恐怖を禁じ得なかった。香澄ですら、七星剣を構えたまま、額に汗をにじませる有様だった。

(斬るのは簡単だけれど……)

 『怨』の字が秘める無念さは晴れず、亡者の世界をながきにわたり彷徨うことになるだろう。

 やむを得ない、と思った時。空を覆い隠すほどの無数の『怨』の字が、ばらけてゆく。風があるようには感じられないが、まるで風に散らされるように、ばらけてゆき。空が見えてゆく。

 が、しかし。

 その空は曇天だった。

 どうも様子がおかしい。

 船は海の上にあって、多少は揺られていたはずなのだが。その揺れが停まった。まるで座礁でもしたかのように。

 『怨』の字はばらけて散らばり、風か何かに流されてゆくようにどこかへと飛び去ってゆき。ついには、曇天の空の彼方に消え去ってしまった。

「ここは……」

 視界が効くようになって、一同周囲を見渡してみれば。

 ごつごつした灰色の岩盤がむき出しの地面。その上に船があった。

 遠くには岩盤そのものが盛り上がったような岩山が見えた。木はおろか雑草のたぐいも見当たらない。岩盤の世界だった。

「まさか、鬼の国?」

 貴志が言えば、香澄やマリーは頷いて応える。

「もうなにがなんだかわかんない、しっちゃかめっちゃかだなあ」

 貴志は短槍を構えつつ、周囲を見渡す。話に聴く通りの、不毛の地っぷりに驚きを禁じ得ないが。わけもわからぬままに異なるところへ連れていかれる問答無用な展開にも、複雑な気持ちを禁じ得なかった。

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