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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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いざ、物語へ 十二

 鬼の不意打ちがあるかどうかわからないが。一同、大事を取って陽が沈むと同時に寝入った。

(ふたつの月を見たいけど……)

 貴志はそう思いつつ、状況が落ち着くと同時にひどい脱力感と眠気を禁じえず。惜しみながら眠りについた。

 と言いたいところだったが、気が張りすぎて寝るに寝られない。

「すう、すう」

 と寝息はする。香澄だった。彼女は鞘に収まる七星剣を横に、仰向けになり胸に手を合わせて静かに寝ている。

「一番寝なさそうなのが寝てら」

 船縁に背をもたれかけさせて、甲板に腰掛ける源龍はおかしそうにつぶやいた。

 その隣には羅彩女がいる。

「まあねえ。月がきれいだねえ」

 とつぶやく。

 夜空には星々がきらめき、満月と三日月も光っている。

 貴志はふたつの月を見上げている。帆を張る柱の見張り台に上って、夜空を見上げていた。

 マリーとリオンとコヒョは、香澄と同じ船室内にいて、眠れないながらも横になっている。

 体力を少しでも温存させるためであるが、香澄と一緒にいる方が心強い。たとえ寝入っていても、いざとなればすぐに起き上がって危機と戦ってくれる信頼感があった。

 そんな船室の方に目を向けるのは、貴志だった。柱の見張り台に上って、物語の中で語られるふたつの月を見て、感慨深くはあったが。

 状況が状況だけに素直に喜べなかった。

 ふと、なぜか、自分と、マリーとが一緒にふたつの月を見上げて。

「月がきれいですね」

 とささやき合う絵が脳裏にうっすらと浮かんでいた。

(何を考えているんだ、僕は)

 今彼女は香澄と同室だから、何も心配ない。

 しかしなんだか変に心にひっかかるものがあるのを禁じ得なかった。

(こんな時に)

 今は試練と戦わねばならぬ時だ。そんな時にと。自責の念もあった。

 そのせいか、最初ふたつの月を眺めて喜び、今は足りなさを覚える自分に自責の念があった。

「なんか浮わついた感じだねえ」 

 変に落ち着かない感じの貴志を見上げて、羅彩女はぽそりとつぶやく。

 あこがれの人海の国に来られたはいいが、状況が状況だから複雑な気持ちになっている葛藤があるのかどうかと、そんなことを考えた。

「ほっとけよ」

 源龍はぽそりとつぶやき。背を船縁から離すと、そのまま甲板にごろりと横になり。

 そうだねえと、羅彩女も同じように横になって。

 眠くなかったのがうそのように眠たくなって、ふたり寝息を立てて寝入ってしまった。

 源龍も羅彩女も歴戦の戦士なので、咄嗟に起きられる自信はあったが。

 貴志だけが眠られずに、見張り台で夜空を見上げていた。

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