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IRON TALE  作者: 貫井べる
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5話

シュライク王国軍は近隣の街からアルガレイドへと兵を派遣していた。



サクラは滞在していた街から派遣された兵達と共に、アルガレイドの近くへ到着した。

「もう完全に廃墟ですね……」

砂丘の上、トレーラーの上からサクラが街の様子を見る。

2年前に"魚"に飛び越えられた当時より高くなった街壁に阻まれ地上付近は見えないが、建物が所々で崩れている事ははっきりわかる。

「もう暴動は鎮圧されたか、街が制圧されたか……

どちらにしてもこの落ち着き方は不自然です」

「状況説明、感謝する。

もうひとつ、電波塔はやはり破壊されていそうか?」

「はい、徹底的に」

指揮官へのサクラの報告は続く。

「近距離の通信は"鎧"やトレーラー同士でも大丈夫ですが、離れてしまったらダメですね」

「現に他の街から来た部隊との連絡は取れていない。

予測はできていたから突入時間は決めていたが……」

「あと10分ですね。

私達は時間までこの場で様子を見ます」




5話 その再会、喜んではならず




街に突入したサクラ達はその異様な光景を目の当たりにした。

「街門の護衛も殺されていたが……まさか皆殺しとは」

転がる"鎧"の残骸に、隊長がそう口にする。

しかしサクラが感じた事はそれだけではなかった。

「"鎧"同士でこれだけ派手に"鎧"を壊せるのでしょうか……銃でも刃物でも鈍器でも普通はこうなりませんよ」

「つまり"魚"も入ってきている、と?」

「可能性は否定できません。

何しろ街門の守りを失って──」

その時、先頭の兵から停止の合図があった。

「どうした?」

「"魚"です……右折した先、"鎧"同様に残骸のような状態です」

隊長に報告するその声は、見てしまったものに対する怯えを隠せていない。

「直進して行政区域まで進め。

この状況ではそうするしかない」

隊長はそう指示を出す。

「ただし生きた"魚"がいたら迂回する」

「了解です」

先頭の兵はまた進み出す。

その一団の最後尾についていきながら、サクラは件の"魚"の残骸をちらりと見る。

30メートル級の"バラクーダ"らしき"魚"が頭を力一杯に抉り取ったような惨状で横たわっていた。

「……おかしいですね」

サクラは数個目の中継アンテナを置き、街の外にいるアグニに連絡する。

「"魚"の仕業だとしたら死骸が食い荒らされていないのは変です」

「あの死骸だけじゃないだろ?

街全体が明らかにおかしい」

送られてくる映像を見ながらアグニはそう口にする。

「これはどちらかというと──」

その時、居住区域の一角で破裂音と轟音が響き渡った。

「戦闘の発生を確認!

予定を変更し援護に向かう!」

隊長の指示で一団は一斉に進行方向を変えた。




アスラは"聖帝"の屋敷近くで王国軍の部隊をひとつ壊滅させていた。

左右の手に握った2丁の小型の銃は先端にスパイクがついており、グリップがかなり前方についているせいでまるで拳の一部のようになっている。

そしてそんな彼女に銃を向ける"サーペント"と"ヴァイパー"の一団。

「あー、これは本格的な派兵だな。

他の街に辿り着いた避難民でもいたか?」

「だから言っただろ!

"聖帝"に逃げられた事がわかってるんだから殲滅だけにしておけって!」

制御AIのオルトロスが文句を言うが、アスラは全く気にしていない様子だ。

「ま、どうせ証人は全員殺せば良いだろ?」

"鎧"と"魚"の残骸が広がる中、アスラは銃を構えている一団に向かって問う。

「撃ってこないって事は、この状況でまだ戦わずに済むと思って──」

「全軍撤退!第2王子の指示です!」

少女の声が拡声器で街に響き渡った。

同時に、アスラは一瞬で距離を詰め数台の"鎧"をひと蹴りでなぎ倒した。

先頭の1機は胴体が千切れパイロットの残骸を撒き散らし、更に2機が明らかにパイロットが生きていられない程に胴体が潰れてしまう。

「こいつ──」

隊長機らしい"ヴァイパー"が引き金を引こうとするが、その右肩にアスラは右の銃口を押し付けて手首を捻り、一撃で腕をもぎ取ってしてしまう。

そのまますれ違い様にコックピットを撃ち抜き、次はロングライフルを構えて前進してきた相手に左の銃口を──

その相手は逆にアスラの銃に右腕を押し付け、手首を捻る方向に合わせて腕を回転させ、更に後方に跳んで完全に衝撃を逃がしきった。

「おい、アスラ!」

オルトロスが警告する。

相手はすぐにアスラの足元へと弾丸を撃ち込んでくる。

アスラはそれを跳んでかわし、跳び蹴りでその相手を狙う。

相手はアスラの蹴り足に蹴りを合わせ、足裏の旋回ユニットの回転方向も合わせ、アスラの蹴りの威力を利用して先程よりも遠くへと跳んだ。

「お前、まさか──」

アスラは更に空中から撃ち込まれる弾丸を避けるように後退し、相手が着地した瞬間に前進に転じる。

「"不死身のサクラ"か!!」

サクラは答えもせず、すぐに引き金を引く。

空中の不安定な姿勢からの銃撃とは違い精密な狙いで撃ち出された弾丸を、アスラはその安定した弾道を先読みしながら紙一重でかわしていく。

しかしサクラはアスラが十分に近付いたのを見計らって拳銃を抜き、近くの建物を撃った。

「アスラ!こいつは──」

オルトロスが警告する頃にはもうサクラは左手だけでロングライフルの引き金を引いていた。

弾丸は飛び散った建物の破片に接触し、僅かに弾道が変わる。

それはアスラが回避しようとしていた方向へ、正確にコックピットの位置へと飛んでくる。

「危ねえ!」

アスラはギリギリのところで踏み止まり、弾丸は右肩を掠めていった。

「こいつ、照準を読まれてる事を理解してる!」

「むしろ読ませてるんだろ!

おまけに今ので弾を見てから避けたのも気付いた筈だ!」

オルトロスへとアスラは言葉を返しつつ、更に数発の弾丸をかわす。

「だからって誘いに乗らなきゃジリ貧だ!」

サクラが右手で腰から新しい弾倉を抜いた瞬間、アスラは一気に前進した。

しかしサクラはライフルから落下させた弾倉を蹴ってアスラの方へと弾き飛ばす。

大型の弾倉がアスラの視界に死角を作る。

一瞬だがその死角に入った瞬間、サクラは装填したまま残してあった弾丸を撃った。

完全な死角からの銃撃をもアスラは弾倉を貫通してきた弾道を目にしただけで避けるが、回避の瞬間にその前進が止まる。

そしてサクラは左手だけでコッキングレバーを引きながら右手の弾倉をライフルに装填し、引き金を引いた。

今度は一瞬だけ動きの止まったアスラへ、一瞬前より遥かに近距離でその視界を遮る空中の空弾倉へ、見えない弾丸が飛ぶ。

それでもアスラは弾倉に着弾した瞬間に右腕を振るい、タイミングだけを合わせて貫通してきた弾丸を弾いた。

しかしその防御に気を取られ、サクラの接近への対応が遅れた。

「やっべ──」

アスラはサクラの蹴りを両腕で防御するが、その威力で弾き飛ばされてしまう。

「オルトロス!ネットワークに接続しろ!」

アスラが殆ど叫ぶような声で指示する。

「全リミッター解除!

私に付いてこい!」

その瞬間、コックピット内のモニターの端に表示されていたアスラとオルトロスのシンクロ率が20%から100%まで急上昇した。

アスラは着地と同時に地を蹴って進行方向を変え、それを見た瞬間にサクラは急停止する。

サクラがアスラのリミッター解除に気付いた事は明らかだったが、アスラは構わず次の弾丸を避ける。

そのままアスラは再び接近へと転じ、既に目の前へと迫っていた弾丸を跳んでかわしながら前進し続ける。

それを見たサクラは再び拳銃を抜き、数発の弾丸をばら蒔くように撃った。

確実に当てるつもりでは狙ってはいない、しかし避けなければならない弾道──アスラはその隙間を縫うようにかわし、接近スピードは殆ど落とさない。

その異様な回避行動にサクラは即座に狙いを地面へと変え、路面の石畳を砕き不安定にする。

それを踏んだアスラが僅かにバランスを崩した瞬間にサクラはライフルを撃ち、回避したアスラは更にバランスを崩す。

しかしアスラはその不安定な姿勢からも強引に前進し続け、次に飛んできた弾丸をまた銃で弾いて弾道を逸らした。

「アグニさん!」

サクラは後退しながら問う。

「撤退状況は!」

「今すぐ退いても全滅はしない!早く逃げろ!」

アグニの答えを聞き、サクラは再び左手でライフルをコッキングしながら右手で腰から弾倉を抜く。

「もう少し持たせます!」

そしてサクラは引き金を引く。

「バカか!お前がいたら──」

アグニが何か言いかけたが、サクラが中継アンテナの受信範囲外に出てしまったのか通信が途切れた。

一方のアスラはもはやオルトロスとすら言葉も交わさず、ただひたすらサクラの銃撃を避けながら接近してくる。

そしてやっとサクラを射程に捉えたのか弾丸を撃ち込んできた。

サクラは地を蹴って脇道へ飛び込み、急停止すると逆にまた元いた通りへと飛び出した。

サクラのフェイントを予測し一瞬減速してからタイミングを合わせて付き出されたアスラの右の銃へと、その攻撃を誘ったサクラの蹴りが直撃する。

そしてサクラは右手で拳銃を抜くが、アスラは受けた攻撃の勢いで回転し、サクラの右肘へと左の銃を打ち付けた。

銃口の周りのスパイクがサクラの"鎧"の肘に食い込み、破壊し、腕をもぎ取る。

しかしサクラはその状態から左手のライフルを投げ、蹴り上げていた足でアスラの銃を踏み付けて跳んだ。

アスラはとっさに銃を手放してサクラの足裏の旋回ユニットの回転による破壊から銃を守ったが、銃は手から離れ飛んでいく。

そしてサクラはというと、もぎ取られて宙を舞っていた右腕から拳銃を回収して着地と同時に振り返りながら引き金を引く。

アスラはその銃撃を避けながら飛んでいった銃に追い付き捕まえるが、サクラもまた拳銃を投げ上げると先に投げていたライフルが落ちてきたのを受け止めながらコッキングする。

左手の銃を握り直しながら振り返りつつ右手の銃を撃つアスラへ、サクラは被弾前提でライフルを撃つ。

"鎧"の前方の装甲ならアスラの銃弾を防げるサクラとは異なり、一撃で貫通されるアスラは即座に右の銃の側面を銃弾に横からぶつけるように当て、ギリギリのタイミングで防御する。

だが弾かれた弾丸はアスラが握り直した直後の左の銃に直撃し、弾き飛ばしてしまった。

「やっべ──」

アスラの集中が一瞬だが僅かに乱れたその瞬間、サクラは近くの建物の柱を撃つ。

通り沿いの建物が崩れ、アスラを巻き込んだ。



瓦礫の中から立ち上がったアスラは、サクラのいなくなった通りを眺めた。

「あー、こりゃ完敗だな」

あっさりそう判断するアスラ。

「そもそも最初から、私の注意を自分だけに引くために接近してきたんだ。

相手をした時点で私の敗けだ」

「追うか?」

「いや、どうせもう私のしてた事もバレるんだ。

だったら無駄な消耗は避けるべきだろ」

アスラは口元の血を手で拭う。

「いくら私の身体でも、こんな無茶は控えたいからな。

でも、お前とメインコンピュータとリンクしても読み合いに負けるなんてな……」



トレーラーの荷台で、"鎧"の操縦席のサクラはトレーラーの運転席のアグニと話していた。

「危なかった……逃げ切れなかったら負けてました……」

「だから早く逃げろって言っただろ。

でも、おかげで十分に時間を稼げた」

アグニは運転しながら携帯デバイスで荷台内の整備用クレーンを操作する。

「しかし、あの動きは操縦する側の身体も持たないぞ。

AIのリミッター解除しなきゃできない動きだし、出来たとしてもそれで死なない身体で痛覚遮断しないと意識が飛ぶやつだ」

「できる人、1割もいないってやつでしたよね……"セカンドステージ"パイロットくらい稀少な」

「おまけにシンクロ率が低いとどんどん効率優先で人体保護が疎かになる。

映像を見た限り、あれはかなり制御ができてる……つまり──」

「アスラさんも"セカンドステージ"ですか……どうりで強い訳です」

サクラは制御AIに問う。

「ヴェスパイン、私も死ぬ気でやるべきでしたか?」

「いや、サクラの先読みは私には無理だ……それにサクラの動きは効率が良い」

「それってつまり、現状では勝ち目が無いって事ですよね」

「……今日はずいぶん悲観的だな」

ヴェスパインは少し寂しそうに言う。

「しかしサクラ、君はまだ強くなれるだろう?

機械の私と違って、人間の君なら」

「そう、ですね……」

サクラはただ、そう返す事しかできなかった。

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