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IRON TALE  作者: 貫井べる
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3話

宿の一室で、サクラとアグニは昼間の出来事について話していた。

「攻撃を受けたのに、それらしい弾丸は見つからなかった。

なあ、サクラ……お前、何を撃った?」

「何て言ったらいいか……人でも"魚"でもない、でも人にも"魚"にも見える何か、でしょうか。

口から何か吐き出して飛ばしてるようでしたが」

ベッドに身を投げ出したサクラは、もうひとつのベッドに腰かけて携帯デバイスを操作しているアグニへと正直に伝え、そして問う。

「アグニさんならご存知ですか?」

「……サクラ、この世界にも知らなくていい事は山ほどある。

"人みたいな魚"もそのひとつだ」

「あ、その言い方……アグニさんはご存知ですね。

それもかなりエグい話を」

サクラは天井を見上げたまま話し続け、アグニも顔を合わせようとはしていない。

「深く探りはしませんよ……ただ、敵なら人でも"魚"でも保護動物でも撃つ事に変わり無いので」

「今回はその程度で考えていてもらえると助かる。

だけどさ……前から思ってたけど、そういうところの思い切りが良すぎるぞお前」

「こっちの世界、わからない事を無理に考えてる暇がないので……殺さなきゃ殺されますからね」

サクラの言葉にあるのは『諦め』だ。

アグニもその事を深くは追及しようとはしなかった。


アグニはただ、考える。

何故こんな場所に"鰭無し"がいるのか、と。




3話 その秘密、探るべからず




そこは廃墟と化したかつての街。

そこは"旅団"のアジトのひとつ。


"旅団"でも昼間の襲撃について話す者は当然いた。

「"ヒーロー"クラスが2人も……よほど重要な物資を積んでいたのだろう。

それに何者かによる無差別な攻撃もあったとなると、今回は運が悪かったとしか言えないな」

ガットはユキから詳しい話を聞いていた。

実際には護衛として同行できるのが2人しかいなかっただけで重要性の全く無い一団だったのだが、ガットは当然それを知らない。

だがユキへのフォローとしてあえてそのような仮説を口にしていた。

「早ければ今夜にも襲撃事件の情報が公開されるだろう。

我々以外の襲撃者についても要注意情報として公表される筈だ」

「だったら次からはそっちも警戒してくださいな

人も"鎧"もまとめて"回収"するの、流石に負担が多すぎるんですわ」

そう言ったのは"境界の魔女"。

夜空の下、携帯デバイスの灯りに照らされたその目元には疲れが見える。

「今まで遭遇しなかったのはただの幸運。

今日あそこで遭遇したのはただの不運。

ユキちゃんは何も気にしないでおいて」

「はい、わかりました」

ユキはそう答える。

しかしユキが気にしていたのは、彼女と目の前で撃ち合った相手──いや、あれは撃ち合いとは呼べないだろう。


相手はただの"サーペント"だった。

最も安価で最も流通している"鎧"だ。

見た目にはわからない調整はしているのかもしれないが、それでもあまり極端なカスタムはしていないだろう。

強いて言えば拳銃の威力が極端に上げられていたという程度で、単発式のロングライフルも軍の狙撃手が使用する一般的な水準と予想できる。

だが、その相手にユキはろくに引き金を引く事すらできなかった。

あれはユキの行動を読んだうえで誘導し、行動をコントロールする戦い方だ。

戦いが長引けば長引くほどその影響を受けるが、かといって短期戦に持ち込もうと焦ればそれこそ思うつぼだろう。

あの"ヒーロー"が相手では"鎧"の性能差も意味を為さないと、ユキはそう感じていた。


「さて、ここで解散としようか。

"魔女"殿も今日は無理をして貰った……感謝する」

「はい、それじゃあ失礼しますよ」

"境界の魔女"は真っ先にその場を離れる。

その足音が遠ざかるのを確認し、ガットはユキに訊いた。

「……さて、本当に相談したかった事を聞こうか」

「お見通しですか」

ユキはここに来てこの"旅団"のリーダー格の1人であるガットという男への警戒を強めた。

この男もまた他人の考えを見透かしているかのような言動を取ってきた。

もしも敵対する事になったら厄介だろう。

だが──

「……実戦経験の無さを痛感しました」

ユキは正直に話した。

「"魚"との戦いはシミュレーション通りになりましたが、"ヒーロー"の相手はろくにできませんでした」

「それは仕方がない。何て言うか……推測される相手は、この国でも特に厄介──」

その時、ガットの携帯デバイスに情報が送られてきた。

「失礼……これは、"魔女"殿!」

「ああ、避難民が"魚"に襲われてる!」

携帯デバイスから"境界の魔女"の声が答える。

「どこかの街がヤバい事になってる!」



砂の平原を駆けるトレーラーの一団。

それを追いかける巨大な"魚"。

そこに護衛の"鎧"は存在せず、追い付かれるのも時間の問題だろう。

しかしそこに別の方向から近付くトレーラーの一団が見えた。


「ペネトレイト、操縦支援システムのリミッターを解除しろ」

「また痛覚遮断に利用するのか」

ガットとその愛機のAIが言葉を交わす。

「構わないだろ。

リニアカタパルトを起動、射出用意」

トレーラーの1台の荷台が変形し、ガットの"鎧"が──徹底的にカスタムされ尽くした"ヴァイパー"が星明かりの下にその姿を現す。

「行くぞ!」

その"鎧"がトレーラーから射出され、宙を舞い、彼方にいた筈だった"魚"の頭にその手の槍を深々と突き刺した。

一撃で"魚"は沈黙し、ガットは砂の上に着地する。

「助けに来た!」

「貴方は──」

「話は後だ!どこの街から来た!」

ガットは避難民達へと問う。

「ア、アルガレイドから……」

「避難民の護衛は私がする!

最低限の補助要員を残し他はアルガレイドへ迎え!」

ガットの判断は早かった。


ガットに置いてきぼりを食らっていた"旅団"の一行は、1台のトレーラーを残して避難民達の来た方向へと走って行く。

「街で暴動が起きた……"聖帝"の信者によるものらしい」

ガットから通信で詳しい話が届くが、その内容は壮絶なものだ。

「"聖帝"といえば人と"魚"の共存を掲げている……信者が街へ"魚"を侵入させようとした事件はいくつの街であっただろうか」

「つまり暴動の具合によって相手が人か"魚"かが変わる訳か……」

隊長は嫌そうな感情を隠そうともしない。

一行は砂丘の間を走りながら既に戦う準備をしており、隊長と同じくこの先の戦いがとても嫌な戦いになる事を予想している。

「場合によっては最低限の人民を救助して即撤退も視野に入れるべき──」

「ちょっと、砂丘の向こうに誰かいますよ」

通信で"境界の魔女"が警告する。

「トレーラーが1台……1台だけですな。

1台だけとか普通じゃないとしか──」

「おい、お前らシュライク王国の軍隊か?」

砂丘の向こうにいる相手が拡声器で訊いてきた。

向こうもこちらに気付いていたようだ。

「違うならこの先に向かうな。

すぐに引き返せ」

「……悪いが、この先で起きている事は承知している。

民間人の保護が目的だ」

隊長が答える。

ちょうど一行の隣の砂丘が終わりに近づき、相手側のトレーラーもその向こう側に姿が見えてきた。

「そうか、それじゃあ──」

相手のトレーラーの後方から1台の"鎧"が飛び出す。

「消えて貰うぞ」

「迎撃するぞ!」

隊長の命令で数機の"鎧"が飛び出す。

しかし相手は瞬く間にその全ての胴体を潰し、バラバラにしてしまった。

「引き返す奴までは殺さない」

そう宣言する相手の"鎧"は両手にサブマシンガンを持ち、その先端にあるたった今"鎧"を力強くで解体した無数のスパイクを次の相手へ向ける。

"旅団"の一行もまた残りの"鎧"を全て出していた。

「そうか、それが答えか──」

相手の"鎧"はいつの間にか背後にいたユキの銃撃をかわす。

銃撃をかわされたユキはというと、すぐに相手の反撃に蹴り足を合わせる。

突き出された銃を蹴り、ユキは一気に距離を取った。

「なんてパワー……」

ユキは相手が突きに合わせて手首を捻った方向へと"鎧"が回転する状態でも何とか着地し、その不安定な姿勢からも銃撃を続ける。

相手は散弾による広範囲への攻撃を避けるように大きく移動し、他の"鎧"へ接近する。

味方を巻き添えにしかねないその状況でユキは素早くスラッグ弾を装填し、味方と相手の間に撃ち込んだ。

「へぇ、器用じゃんか」

相手は急転回し、ユキに銃口を向ける。

ユキはただ、隣の砂丘の上から飛び降りてきたガットに気付かれないよう注意を引くために次の狙いを定める。

だが、ガットの叩き付けるような槍の一撃は何もない砂地に突き刺さった。

「何故お前がいる、シュライク・ガット!」

砂煙が舞う中、相手はガットの名を口にする。

「お互い様だろう、トライサード・アスラ」

ガットもまたアスラの名を口にした。

それまで戦っていた相手──アスラはガットに問いを返された事で事情を理解したようだ。

「お前も話したくないっていう事か……」

「そういう事だ。

それに我々が出会った以上、これ以上の戦闘は国際問題に繋がりかねない」

ガットは槍を引き抜き、構える。

「貴方が許すなら、我々は手を引こう。

ただ、民間人の保護は頼みたい」

「手遅れじゃなかったらな」

アスラはそう答えたが、既に手遅れだと知っていた。




数日前からアルガレイドの街は大混乱に陥っていた。

軍内部での裏切りに民間人まで加わって街壁の一部の警備が無力化され、そこから"魚"が街に入り込んだ。

更にその混乱に乗じて街の中心にある行政区域への攻撃が始まり、昨日ついに議会へと暴動側の"鎧"が踏み込んでしまったのだ。


街の一角にある屋敷──その街の様子を見下ろせる高い建築物の窓から、スティグマはその様子を眺めていた。

「"聖帝"のお仕事は順調なようですね」

「やあ、エレノア……来ていたんだね」

スティグマは振り返りもせずそう答える。

椅子に腰かけたスティグマは普通の成人男性の体格だが、部屋の入口にいたエレノアはその1.5倍近い身長はありそうなうえにその身の丈程もある太刀を携えている。

「君みたいな女性にわざわざ来させてしまうとはね」

「いえ、良いのですよ……ただの暇潰しですから」

エレノアはスティグマの後ろに立ち、彼が眺めていた景色を同じように見下ろす。

「これが、貴方の手腕ですか」

「いいや、僕は何もしていないよ。

ただ勝手に僕の言葉を都合良く解釈した人間達が、勝手に暴れ出しただけだ。

僕は何も指示していないし、何も要求していない」

スティグマはやっとエレノアを振り返る。

「ね、人は愚かで醜いでしよ?」

「いえ、その人の業が美しいのですよ」

エレノアはそう断言する。

「自らの正義の為に戦い、その戦いの為に武力を進化させる……その姿が美しいではありませんか」

「君も悪趣味だね……でも君は僕の方が悪趣味だと思うのだろう?」

「この点は相変わらず意見が合いそうにありませんね」

「全くだよ……僕が醜いと思うものを、君は美しいと思っている。

これを見てもそう言うとは思わなかった」

スティグマはまた窓の外の争乱に視線を向けた。

「そうそう、今戦ってるのは基本的に戦える連中だからさ、戦えない連中はこの屋敷の地下の避難シェルターにいるんだ」

「飲料水に貴方の血を混ぜたと言いたいのですね」

「話が早い。だからそろそろ──」

「"聖帝"様!大変です!」

スティグマとエレノアが話すその背後、先程エレノアが開けたままにしていたその扉からひとりの少女が駆け込んできた。

「避難している人が何人も"魚"に!」

「ああ、アリシアか……良いんだよ、それで。

言っていただろう、"魚"はかつて人だった者達だと。

そして人はいずれ"魚"になると。

だから怖れる必要は──」

スティグマは振り返り、その少女を見た。

「アリシア、どうして君は人間のままなんだ?」

「え……」

スティグマは立ち上がり、少女へと歩み寄る。

「エレノア、頼み事をひとついいかい?」

「はい、もしもの時は無力化します」

エレノアは太刀に手をのばす。

「いや、それもそうだけど……この子を本国に連れて帰ってほしいんだ。

もしかしたらグレン以上の逸材かもしれないよ」

スティグマは自身の指先の皮膚を噛み切り、怯えて動けない少女の口に突っ込む。

「君は少しなら僕の血を飲んでまだ人でいられる。

なら、どれだけ飲ませれば"魚"に成れるのかな」

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