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IRON TALE  作者: 貫井べる
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外伝5

その日、アークトゥルス・ネクストシートはいつも通り娘のカノープスを街の保育所に預け砂漠へ狩りに出かけていた。

「いたいた、予想通りだ……」

電動式の"鎧"の背に腰かけ、アークトゥルスは双眼鏡で遠くを見ている。

「アレン、行くよ」

「承知」

"鎧"に乗っていた男性はそう答え、銃を手にした。




外伝5 断頭台




その日、アグニ・ブレイズアーツは複数の街の評議会からの依頼で砂漠の調査に来ていた。

何でもその一帯では行方不明事件が多発しているらしく、その原因である『未知の"魚"』を特定したいとの事だ。

「『未知の"魚"』、ねぇ……揉み消すつもりだよなコレ」

アグニにはその真意はお見通しだ。

"魔女"の仕業であったとしてもあくまでも『"魚"の仕業』として『処分』しろという命令だ。

トレーラーを運転しながらアグニは砂丘の合間を見つめる。

評議会がそのように見立てているとはいえ、人食いの巨大な"魚"が実際にいる可能性もあるため警戒は怠れない。


その時、アグニのすぐ隣の砂丘が吹き飛び、アグニのトレーラーも浮き上がった。

「おい、いきなりだな!」

アグニは運転席から飛び出し、砂の上に着地する。

トレーラーは横転し、轟音が響いた。

「この威力、"魔女"だな!」

「おいおい、反応が早すぎないか?」

遠くの砂丘の上にその"魔女"は立っていた。

「普通、トレーラー転がしたら暫く動けないだろ?」

「悪いね、普通じゃなくて」

アグニは相手の手にした武器を注視する。

それは長さ2メートル程の長い柄に幅の広い刃をくくりつけたような物だ。

「見慣れない顔だね……まだ前科は無さそうだが、これが初犯でもなさそうだ」

そう口にし、アグニは虚空から細身の剣を抜いた。

「私はアグニ・ブレイズアーツ。

ここらで多発してる行方不明事件の犯人を始末しに来た」

「そりゃ、どうも……迷惑かけてるみたいだねぇ。

私は"断頭台の魔女"、お前が探してる相手だよ」

相手の"魔女"──アークトゥルスはそう名乗る。

「その目的なら1人で来たんだろう?

よっぽど腕に自信があるらしいな……大当たりじゃないか」

アークトゥルスは武器を構えるが、その瞬間にアグニは上空から巨大な剣を出現させ射出した。

その高速の奇襲をアークトゥルスは手にした武器で弾き飛ばす。

「今のを防ぐか」

アグニは手にした剣をアークトゥルスに向ける。

「反応も早いし、何より今の威力に耐える腕力と強度。

レベル7か?」

「ああ、今のはそういう威力だったか。

つまりお前、それ以上のバケモノか」

アークトゥルスは手にした武器をアグニへと投げつけた。

アグニは無数の剣を出現させ壁のようにして攻撃を防ぎ、すかさず上空から剣を射出する。

しかしアークトゥルスの武器は回転しながらアグニの攻撃より速くその手元へと戻り、アークトゥルスはそれを受け止めた勢いのまま回転させてアグニの剣を防いだ。

「随分と出し惜しみするじゃないか」

アークトゥルスはアグニが防御に使った剣を見る。

数本は確かにアークトゥルスの攻撃で刀身を切断されていた。

「普通の相手は威力を上げてくるんだけど、お前はそうしなかった……防御には数を使い、隙を狙って反撃してきた。

1発の威力は変えられないか?」

「ああ、応用ができない能力でね……とはいっても、そこらの街壁なら基礎ごとぶち抜けるんだけど」

アグニもアークトゥルスもお互いの手の内を探り合う。

アグニから見るとアークトゥルスは速度も威力も高い極めて効率的に戦う手段を用いている。

逆にアークトゥルスから見るとアグニは瞬間的に大質量を召喚するデタラメな能力の持ち主だ。

どちらも能力そのものは単純であり、どう相手に隙を作るかの戦いになっていた。

だが、

「あー、面倒臭ぇ」

アグニは砂の上に剣を突き刺し、その柄を椅子替わりに腰かけた。

「"断頭台の魔女"って言ったっけ?

あんたらの相手、疲れそうなんだよね……だからといって未解決のまま退く訳にはいかない。

だけどあんたらの首を取れと言われてる訳じゃないからさ、こんな事やめてどこか遠くに行ってもらえない?」

アグニは問う。

「というより、目的は何?」

「目的……目的、か。

私の目的は、殺し合いだ」

アークトゥルスは答えた。

「悪いが、頼まれた程度じゃ辞める事はできない……場所を変えたって、辞めなきゃどうせまた来るんだろ?」

「ま、そりゃそうだな……交渉は決裂か」

アグニはそう口にすると、背後の砂丘目掛け空中から無数の剣を放った。

「気付いていないと思ったか?」

砂丘が消し飛び、砂と一緒に"鎧"の残骸が宙に舞う。

「……アレン?」

アークトゥルスは思わず声にした。

「おい、アレン!生きてるか!

生きてるなら──」

「生きてる筈が無いだろ?」

アグニは冷たく言い放つ。

「殺し合いと言ったのはお前だ……その殺し合いの場で銃を向けたって事は、殺される側になる覚悟くらいしてるだろ?」

ゆっくりと立ち上がり、アグニはアークトゥルスを指差した。

「来いよ、望み通り殺し合いに付き合ってやる」

その瞬間、アークトゥルスは手にしていた武器を投げつけた。

アグニは空中に出現させた剣でそれを防ぎ、更に上空から無数の剣を降らせる。

アークトゥルスは前進しながらその攻撃をかわし、戻ってきた自身の武器を手にすると大きく振りかぶる。

アグニは更に周囲から剣を射出するが、アークトゥルスはそれも全て防ぎきるとアグニに直接斬りかかった。

首を狙った一撃をアグニは無数の剣で防ぎ、アークトゥルスは即座に横に跳んで上空からの剣を避ける。

アークトゥルスは再び首へと刃を叩き付けようとするが、やはりアグニは虚空から剣を出現させて攻撃を防ぐ。

そこへアグニは低い位置から剣を放ち、防御したアークトゥルスの身体を宙に浮かせた。

更にアグニは無数の剣でアークトゥルスを防御ごと弾き飛ばしてしまった。

「しかし、レベル7の力も集中し纏う事でこれ程とはね」

着地したアークトゥルスへ、アグニは尚も無数の剣を放つ。

「鉄と同等の"仮想質量"も鉄を強化すれば防げてしまう」

アークトゥルスは絶え間無く遅い来る剣を弾きながら前進するが、アグニは攻撃の手を緩めない。

「どれだけの物量でも身体強化で速くなれば対応できてしまう」

アークトゥルスの歩みがゆっくりになる。

「どれだけの速度で放っても強化された動体視力でタイミングを合わせられる」

そしてアークトゥルスの足が止まる。

「だったら消耗戦だ……一番つまらないやり方だけどね」

とうとうアークトゥルスの足が下がり始めた。

「"断頭台の魔女"、あんたは確かに強い。

その研鑽された能力、限り無く極限に近いんだろうね……研究者としては羨ましいよ」

アークトゥルスの周囲や上空に光の輪が無数に現れる。

「残念だよ」

一斉に四方八方から剣が射出され、アークトゥルスを砂埃が飲み込んだ。



アークトゥルスは四肢を失い、霞む空を見上げていた。

「いや、本当に強かったな……」

アグニはアークトゥルスを見下ろす。

「あんたがしてきた事も、今日のこの事も、いくつもの街の評議会が揉み消すつもりでいる。

あんたもまた『"魚"の被害者の1人』として片付けられるだろうね……」

腰を下ろし、アグニはアークトゥルスの顔を覗きこんだ。

「もうひとつの名を教えろ。

誰かに遺言があるなら伝えてやる」

「哀れみか……?」

アークトゥルスは消え入りそうな声を捻り出す。

「私は"断頭台の魔女"……それが私の誇り、全……て……」

声が消え、アグニは立ち上がった。


アークトゥルス・ネクストシートの名をアグニが知る事は無かった。

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