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IRON TALE  作者: 貫井べる
34/41

32話

その街は数多の争いを繰り返してきた。

争乱の中で強き者が生き残り、後の争乱で死ぬ。

争いの連鎖はただ無慈悲に繰り返され、より強き者が国を統べるに至った。

そう、そこは修羅の国。

此度もまた、束の間の平穏が訪れ、そして去って行くだろう。




32話 鋼の物語




戦いを終え、人知れずグレンは戦場を離れていた。


グレンは以前から行商団を襲撃するなど人へ危害を加えていた。

それが今更になって人と共に戦ったとしても、何の償いにもならない。

"英雄"と呼ばれるのは自分ではない──グレンはそう考えていた。


そんなグレンの足元に銃弾が飛んできた。

グレンは立ち止まり、振り返る。

流れ弾だろうか。

しかし、懐かしくもある。

グレンのかつての宿敵は、1対1でやり合う合図として足元を撃ってきた。

もしもその相手がこの世界にいたとしたら、次は頭を──

その考えに至った瞬間、グレンは屈んで飛んできた弾丸を避けた。

「そうか……お前もこっちに来てたのか!」

グレンは次々に飛んでくる弾丸をかわす。

それは撃つ側とかわす側の高度な読み合いだ。

「なあ、ブロッサム!」

グレンが口にしたその名は、かつて地球にいた頃にゲーム"ボーダーユニオン"でグレンを世界一の座から引きずり下ろした唯一の相手の名だ。

グレンもまた無数の火球を吐き、遥か彼方に着弾し連続で爆発を巻き起こす。

その爆炎と砂煙を突き破って姿を現した1機の"鎧"は更に弾丸を撃ち込んできた。

避け、前進し、撃つ、その繰り返し。

そして先に直撃を受けたのはグレンだった。

「……なるほどな」

グレンは立ち止まった。

というのも、グレンの肩に当たったその1発だけがペイント弾であり、確実にその1発だけを狙って当てた事が明らかだったからだ。

「やっと、昔の速さに追い付きましたね」

気付けば相手は声が届く距離にまで接近していた。

「久しぶりに楽しませてもらいましたよ、四条グレン」

「……そういう事かよ、お前」

グレンは対峙している相手が何者か、改めて理解した。




"魔女"達は戦いの後、フェルノの地に帰っていた。


中立都市のひとつ、サヤの街。

そこでカノープスは薬草店での買い物を終え、店の前でカペラと再会した。

「やっぱり、また生き残ってたんだね」

カペラから先にカノープスへと声をかけた。

「……やっぱり、私の"呪い"で死んでくれないんだ」


カペラの持つ死の呪いは、対象となった相手に死の運命を呼び寄せる。

かつてその力を暴発させられた幼いカペラは故郷を亡ぼしており、その力を恐れていた。

しかし後にその力をまともに受けても生き延びたカノープスにカペラは執着するようになり、自身の呪いで殺したいという歪んだ欲求を抱き続けていた。

先の戦いでもカペラはカノープスを呪い、『エクスシアを殺した結果として激昂したブロッサムに蹂躙される』という運命を呼び寄せた筈だった。

しかしカノープスは幸運な事にエクスシアとガットに敗北し、死を免れてしまったのだ。


「私の為の終わりを迎えてくれないんだ」

「そりゃ、運だけは誰にも負けないからな……」

カノープスはカペラの頬に触れる。

「お前の呪いが誰も殺さないように、殺したくない奴を殺さなくていいように、一生私が背負ってやるよ。

お前は"予見の魔女"でいればいい……前にも言ったよな」

「悪いね、店の前でやらないでもらえる?」

横から2人の邪魔をしたのはベラトリクスだった。

「あ、すみません」

2人はすぐ脇に避けるが、ベラトリクスは店に入ろうとはしなかった。

「会えて良かったよ。

"剣の魔女"から伝言がある」

そうベラトリクスは告げた。




アーシズ・ブロッサムはシュライク王国の王都を後にした。

「本当に良いのか?」

彼女を呼び止めたのはミード王子だった。

「貴殿の活躍は父上の耳にも届いている」

「良いんです、私は旅に出たいので……」

ブロッサムはそう答える。

「それに、この街には母が──」

「見つけたぞ!」

その時、王宮の方から1機の"鎧"が走ってきた。

「ブロッサム!トライサード・アスラを下したらしいな!」

「すみません王子、もう逃げます!」

ブロッサムは合流予定の行商団を待たずに砂漠へと飛び出した。

「どれだけ強くなったか見せてみろ!」

「お母様とは嫌です!殺される!」

追いかけてくるのは母のアーシズ・エクスシアだ。

しかしそんなエクスシアの"鎧"は街門を飛び出した瞬間に真横から蹴り飛ばされた。

「師匠、すみません……」

エクスシアの"鎧"にライフルを突き付けたのはサクラだった。

「サクラ……さん……?」

「はい、私です」

サクラはそう答えると、ブロッサムに拳銃を向けた。

「ただ、戦闘は続行です。

手加減しないでくださいね」




数日後、ヴァルナ帝国は避難していたルスタッドの住民が帰還していた。

しかしそんな帝都が大騒ぎになっていた。

というのも、帝都の外の荒野に黒い"竜"が現れたのだ。


荒野の真ん中に鎮座する小柄なその"竜"へ、リヒトはひとりで近付いていった。

「遥か昔より、黒き"竜"が現れると言い伝えられている。

貴殿がそうか」

「ああ、言い伝えられているだろうな……

問おうか、今の時代に烏丸ツバサという者はいるか?」

"竜"は人の言葉で答え、そして問う。

その問いにリヒトは迷い、そして答えた。

「……烏丸ツバサは今の時代にいる。

ただ、本人が呼ばれて来るかはわからない」

リヒトは身構えた。

「そうか……ならば力ずくでも、出てくるように仕向けるしか無いな」

"竜"も腰を上げ、後ろ足で立ち上がる。

「それに、だ。

貴様は私と戦いたがっているように見える」

「ああ……"伝説"を斬れる機会など、滅多に無いだろうからな」

リヒトはコックピット内で笑った。

「ヴァルナ帝国軍第1師団長、神楽坂リヒト。

私が新たな伝説となってやろう」

「……リヒトか?」

"竜"はその名に反応した。



その頃、サクラは牢獄のツバサを訪ねていた。

「烏丸ツバサ……はじめまして」

「ああ……"不死身のサクラ"か。

声だけは"鎧"越しに聞いたな」

ツバサは独房の奥に踞っていた。

「……昔さ、ガキの頃。

東京で1人の女の子が行方不明になって……同い年だったからよく覚えてるよ。

確か名前はサクラ……こっちの世界に来てたなんて思ってもいなかった……」

ツバサはサクラに問う。

「こっちに来てまだ短いんじゃないのか?」

「まだ2年半くらいですね。

貴方はだいぶ長いと聞きますが」

サクラはそう答える。

「そういう貴方はロボット競技で話題になっていましたね。

"期待の新人"とか"神童"とか言われていました」

「そういやそのくらいの時期だったな……その後に違った意味で有名になったんだが、それは知らないよな」

「ええ、知りません」

サクラは断言する。

「貴方の事は殆ど知りません。

だからこそ、この目で見て耳で聞いた範囲でしか貴方を評価していません。

それでも、私は貴方を外の世界の探索チームに迎え入れたい。

シュライク、ヴァルナ、リヴィア、フェルノ……その外の地を探索するチームの一員に」

「皇帝からも聞いたよ……でも、俺はもう──」

その時、牢獄の入口が騒がしくなった。

「リヒト殿!それだけは──」

「全ての責任は私が取る!通せ!」

その声と共にリヒトが独房の前に転がり込んできた。

「ツバサ殿!今すぐ来てほしい!」

リヒトは独房の鍵を剣で斬って外し、乱暴に扉を開けた。

「サクラ殿、話の途中で申し訳無い!」

慌ただしくリヒトはツバサの腕を掴み、独房から引きずり出した。

「"レイヴン"を1機出せ!

師団長用の予備機がある筈だ!」

「……何、今の」

あっという間の出来事にサクラは何も口出しできなかった。



帝都の正面街門に1機の"レイヴン"が移動されてきた。

そこにツバサが乗り込もうとするが、その目の前に皇帝の"鎧"が立ちはだかる。

「誰がこれを許した!」

「私が許可した!」

皇帝へとリヒトの"鎧"が突っ込む。

「今回ばかりは陛下であっても邪魔はさせません!」

リヒトは皇帝を取り押さえる。

それを無視し、ツバサは街門の外で待っていた"竜"を見上げた。

「……カエデか」

ツバサにはその"竜"の正体が一目でわかった。

それはかつてツバサが最後まで勝てなかった、宿敵にして最高のパートナーの名だ。

「人間の器がそんなに狭かったか?」

「何万年待つかもわからなかったからな……こうでもするしかなかったよ」

"竜"は──カエデはそう答える。

「まあ、待ったところでお前と会えるかはわからなかったがな」

「それもそうだ……だが、会えた。

だいぶ待たせたようだがな」

そう答えたツバサへとカエデは問う。

「この世界でも暴れてるんだろ?

地球でおあずけ食らった決勝戦、ここでやるしか無いよな?」

「ああ、やるしか無いな」

ツバサは"鎧"に乗り込み、左右の手に2丁のライフルを握る。

「ルールはどうする?」

「私らに必要無いだろ?」

カエデも後ろ足で立ち上がり、両前足の爪を剥いた。

「おい!カメラ回せ!」

「ネットワーク繋げ!他の街にもだ!」

騒ぎを聞き付けて街壁の上に集まっていた野次馬の中で地球人達が騒ぎ始める。

「烏丸ツバサと白峰カエデの一騎討ちだぞ!」

「しかもノールールマッチだ!

世界大会よりヤバいもん見れるぞ!」

「……何これ」

地球出身ではない者達には事態が理解できなかった。




翌日、サクラはルスタッドの街壁近くのカフェのテラス席にいた。

「ええ、グレンさんも良かったですよ……負けるかと思いました」

携帯デバイス越しに連絡している相手はアグニだ。

「その『負けるかと思った』ってさ……アスラ殿にも言ってたけど、70点くらいだったりしない?」

「ええ、実際に負けた訳ではありませんから」

サクラはアグニの言葉を否定しない。

「でも暇潰し以上にはなりますよ」

「それで、本命の烏丸ツバサは?」

「あれはダメでした」

サクラは残念そうに答える。

「昨日、彼の本気の戦いを目にしました。

あれは相性が悪すぎます……一方的な敗北は一方的な勝利と同じくらい楽しくないですよ」

「……サクラの敗北宣言、はじめて聞いたな」

アグニにとってサクラの言葉はあまりにも意外すぎた。

「それで、探索チームのスカウトは?」

「順次、声をかけています。

ブロッサムさんはやはりバックアップ用のコンピュータが別途必要になりそうですが承諾してくれました。

グレンさんは……リヴィア王国の防衛戦力が不足している今は無理との事。

ただし将来的な参加は約束してもらえました」

「こっちも"魔女"達のスカウトは順調だ。

"時計の魔女"も声をかけて回ってくれている」

「時計の……ああ、ベラトリクスさんでしたっけ」

サクラは少し思い出すのに時間がかかった。

「でも確か彼女、剣が折れていましたよね……カノープスさんも。

"魔女"の剣って折れても能力に影響は無いんですか?」

「んー……依存度は人それぞれって感じ。

ただ"時計の魔女"なら時間を巻き戻して修復できるし、他にも修復魔法使える"魔女"に頼むか打ち直すかで"賭博の魔女"みたいな依存度が高い"魔女"も復帰できるな」

「あ、じゃあ大丈夫そうですね」

アグニの答えでサクラは納得したようだ。

「カノープスさんやカペラさんみたいな探索向きの"魔女"は何人いても困りません。

探索チームを複数組む事も可能になるかもしれませんからね」

「後は烏丸ツバサの返答と、ガット王子のところから何人来るかだな」

「ああ、噂をすれば……」

サクラは街中を歩いてくる少女に気付いた。

「アグニさん、また後で」

サクラは通信を切り、その少女に手を振る。



ユキはサクラがルスタッドに滞在している事を聞き、1人でこの街に来ていた。

既に探索チームの話はガットから聞いている。

しかし、それよりも大切な話をしに来た。

そして、街壁近くのカフェでサクラの姿を見つけた。

「探しましたよ、サクラさん」

「私も待っていましたよ、ユキさん」

2人はそう言葉を交わした。




これは後に数多の伝説を残す2人の少女の物語の、そのほんの始まりのお話。


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