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IRON TALE  作者: 貫井べる
33/41

31話

かつて1人の盗賊がいた。

彼は数多の配下を率いてアーシズ王国を脅かしていた。

しかし盗賊団はたった1人の少女に敗北してしまった。

それもほぼ一瞬のような短時間での出来事だ。

壊滅的な被害を受けた盗賊団は王国軍に捕らえられてしまった。

国王は寛容で、生存した団員は王国軍で仕事を与えられた。

しかし首領であったその男だけは見せしめとして砂漠へと追放された。


男は与えられた"鎧"に乗り、砂漠をさ迷った。

王国に戻ることなど考えもせず、オアシスを探しながら東を目指した。

道中で頻繁に"魚"に襲われたが全て返り討ちにした。

そして数ヶ月後、奇跡的に砂漠を渡りきった。

いくつかの街で門前払いにされながらも、やがて荒野に囲まれたひとつの街に辿り着いた。

その街は"魚"の大群に攻め込まれ、街壁も突破されている有り様だった。

しかし男の目にはその"魚"の大群でさえ、あの時の少女と比べればちっぽけな存在にしか見えなかった。




31話 飛び立つ勇気




アリシアは数十人の"魔女"を引き連れてルスタッドを目指していた。

そこはヴァルナ帝国の帝都であると同時に、かつて"聖帝"が生まれた街であり追放された街でもある。

「止まってください」

アリシアの指示でついてきていた"魔女"達が止まる。

彼女達の進む先、荒野に1機の"鎧"が立っていた。

「待ちくたびれたぞ」

老人の声だ。

「ルスタッドは民間人の避難も終えた……完全な無人だ。

誰か1人だけでも落とせるだろうな」

「それはどうも、ご親切に」

アリシアはそう答える。

彼女だけは"魔女"達と異なり電動式の"鎧"で、望遠カメラで相手の様子を確認する。

相手はアスラとよく似た"鎧"だったが、武装は一切無い。

ただ大型の手甲だけが目立つ。

「それで、今お前達の目の前にいる皇帝が最後の首だ」

相手はそう告げ、歩きだした。

「帝都も、皇帝の首も、欲しいならくれてやる……出来るものなら力ずくで奪い取れ。

ただし、この先で死ぬ帝国民は私だけで十分だ」

「どうも、我々を甘く見ているようですね」

1人の"魔女"が前に出た。

彼女は剣を抜き、アリシアに申し出る。

「しかし1人で挑む気概は評価しましょう。

私が行かせていただきます」

その"魔女"は地上を滑るように皇帝に近付き、立ち止まった。

対する皇帝もまた立ち止まる。

そして2人は全く同時に大きく踏み込んだ。

"魔女"が剣を叩き付けるが、その剣は狙いを外した──いや、その降り下ろした腕が胴体ごと下半身から離れて宙を舞っていた。

皇帝の"鎧"は、"魔女"の身体をその身に纏った"鎧"ごと拳ひとつで貫いてしまったのだ。

静まり返った荒野に"魔女"の上半身が落ちる音が響き、遅れて下半身が倒れる音が微かにした。

「アスラから聞かなかったか?」

皇帝は拳を下ろす。

「ここの皇帝は、かつて"魚"の大群からこの街を守ったって」

皇帝はまた歩き出す。

まだ距離は遠い筈だが、数名の"魔女"が思わず後ずさった。

「"魚"より"魔女"よりもっと恐ろしい相手を知っている……そんな私に、本当に勝てるのか?」

「アスラさんもそれはご存知でした……ただ、未だにそれほどの実力とは思っていなかったでしょうね」

アリシアが答える。

「少なくとも20年は実戦経験が無い、と……そう仰っていました」

「そういえばそうかもしれんな……随分と長く"鎧"に乗ってすらいない」

皇帝は尚も歩き続けてくる。

「そんな老兵の1人にすら勝てないなら、この街を手に入れても守り通せないぞ」

「調子に乗るな」

1人の"魔女"がいつの間にか皇帝の目の前に現れ、剣を振り上げていた。

しかしその腕を高く上げたままその"魔女"は頭を失ってしまった。

「これで2人だ。

死にたい者から挑んでこい」

「なるほど、それなら……全員で行きましょうか」

アリシアには迷いは無かった。




その頃、サクラはアグニの運転するトレーラーでルスタッドを目指していた。

そのトレーラーは"境界の魔女"の力で通常より遥かに速く走っている。

「前方、誰かいます」

サクラが見つけたのは隻腕の男だった。


男は迫ってくるトレーラーを見据えた。

「彼女の邪魔はさせない……それが彼の願いだ」

男は無いはずの右腕を水平に上げた。


男にそれまで無かった金色の巨大な右腕が現れたのを見た瞬間、アグニはその力の正体に気付いた。

「あの腕はまずい!私がやる!」

トレーラーの上空に光の輪が無数に現れ、そこから巨大な剣が雨のように降り注ぐ。

しかし男は巨大な拳を振り回し、アグニの剣を全て消してしまった。

それでもアグニは剣を射出し続ける。

「どうしてお前がその力を持っているんだ!」

アグニにはわかっている。

それはリヴィア王国第4騎士だったゴルドが持っていた破壊の力──触れたものを粉々に分解し消し飛ばす力だ。

「なあ、どうしてだ!

答えろ!スティグマ・シャルルエル!」

アグニはその男の名を──彼自身も忘れたその名を叫んだ。

その瞬間、

「お前が"聖帝"か」

トレーラーの荷台からサクラが飛び出し、引き金を引いた。

弾丸はアグニの攻撃を防いでいた右手を外し、防がれる事無く右肩を貫いた。

男の右腕が消え、その身体が荒野に倒れる。

「アグニさん、応急措置をお願いします」

サクラは落ち着いた声ではあったが、確かに普段の様子とは違った。

その威圧感にアグニは思わず身震いする。

「あいつには、全ての責任を取らせます」

サクラはトレーラーから先行し、倒れた男のすぐそばで止まった。

「スティグマ……それが俺の名前か」

大きく抉れた肩から血を流しながら男は口にする。

「記憶が無いのか?」

サクラは問い、そして一方的に告げた。

「なら都合が良い。

自分がこの世界の人達に何をしてきたのか、しっかり見て聞いて全て責任を取れ。

良い事も悪い事も、自分の過去と向き合え」

「……相当、悪い事をしていたみたいだな」

サクラの冷たい口調に男はその意図を察したようだ。

「選べる立場では無さそうだ……従おう」

男はそう答え、天を仰いだ。




皇帝は"鎧"の左腕を失いながらもまだ立っていた。

「どうした……まだやれるぞ」

「こいつ、ただ者ではない」

"魔女"達は皇帝と一定以上の距離を取っている。

既に10人以上の"魔女"が破れてしまった。


皇帝はかつて盗賊だった頃にアーシズ・エクスシアに敗北した。

成り行きでルスタッドを救い、国の英雄として迎え入れられ、先代皇帝の娘の婿養子となった。

そして成り行きで皇帝になった後もエクスシアに敗北した時の事は忘れておらず、より強い"鎧"を開発した。

それは非常にアンバランスで扱いの難しい"鎧"だったが、その性能はアスラが実証している通り圧倒的なものだった。


「では、こうしましょう」

アリシアは提案した。

「皆様は皇帝を無視して一斉にルスタッドへ向かってください。

私が皇帝を一瞬でも足止めできれば十分です。

何しろ、あの街は無人なのです……誰か1人でも奪えます」

「確かに、それが一番手っ取り早い」

"魔女"の1人が同意したのを聞き、アリシアは皇帝に向かって突っ込んでいった。

「誰も通さん!」

皇帝が残された右の拳を構える。

その瞬間、背後からの銃撃で"魔女"達は利き腕を撃たれた。

悲鳴があがり、"魔女"達は次々に荒野に転がる。

アリシアは思わず立ち止まり、振り返った。

"魔女"達は倒れ"鎧"も解除され、攻撃するどころではない。

そして遠くの荒野の真ん中に1機の"鎧"が立っていた。

「サクラさん……」

アリシアにはすぐにその"鎧"の主がわかった。

「トライサード・アスラは投降しました」

サクラは拡声器で呼び掛ける。

「国境での戦いは終結しました。

後は皆様だけです」

「ふざけるな……」

1人の"魔女"が無事な方の腕で剣を手にするが、その腕をサクラは容赦無く撃ち抜いた。

"鎧"も纏っていない生身の肉体へと"魚"の鱗をも貫通する弾丸が直撃し、その腕は吹き飛ばされてしまう。

「抵抗するなら、無力化するまで攻撃します。

今は投降してください」

サクラは弾倉を交換する。

その一瞬をアリシアは見逃さなかった

「……断ります」

アリシアは遠くのサクラ目掛け一気に加速した。

弾倉交換を終えたサクラは迷わずアリシアの"鎧"の両脚を撃ち抜き、転倒したアリシアはそのまま荒野を滑る。

しかしアリシアはまだ止まってもいないコックピットから飛び出し、"魔女"達と同じ"鎧"を纏った。

その空中のアリシアの両肩をサクラは撃ち抜く。

"鎧"が解除され墜落したアリシアだったが、肩から血を流しながらも立ち上がる。

そしてその身体が膨らみ"鰭無し"の姿になった。

その両脚をもサクラは撃ち砕く。

アリシアは倒れながらも短剣を投げたが、サクラは空中で撃ち落とした。

更にアリシアの身体が膨らみ背中から2枚の翼が生え"竜"の姿に成る。

しかし飛び立つ隙も無くサクラに両翼を撃ち抜かれてしまう。

尚もアリシアは口から火球を吐き出すが、サクラはそれをかわし前進する。

サクラはアリシアの傷付いた脚を撃ち続け転倒させた。

それでもアリシアは上体を起こし火球を吐き出そうとしたが、サクラは飛び上がりアリシアの下顎を蹴り上げた。

火球はアリシアの口内で炸裂してしまった。

「……相手になりません」

サクラは拳銃を構えて告げる。

「貴女が私に敵う筈、無いじゃないですか」

「それでも、構わない……」

アリシアは人間の身体に戻ってしまったが、それでも立ち上がる。

額に銃口を突きつけられながらも、アリシアは叫んだ。

「敵わなくても、それでも、私は諦めない!

"聖帝"様の願い、それを諦めてしまったら……私は……私は……!」

「……これが貴方の罪ですよ、スティグマ・シャルルエル」

サクラのその言葉に、アリシアの言葉が止まる。

何しろ、サクラが話しかけた相手は──

「そうか……」

先程までサクラが立っていた場所に、アグニに支えられながらスティグマが立っていた。

「君達は……俺の為に傷付いたのか……」

拡声器によって届いた声は、アリシアも"魔女"達もよく知っている声だった。

「"聖帝"様……」

「そんな、先日の戦いで……亡くなった筈では……」

"魔女"達はすぐに声の主に気付くが、実際に聞いても信じられないという様子だ。

何しろ彼女達は『"聖帝"は死んだ』と聞いているのだ。

「こいつは、死を乗り越えて帰ってきたんだよ……目的は知らないがな」

アグニが説明する。

「そういう研究も生前にしていた。資料が残されている。

だが、本人も予想してたみたいだが……完全じゃあない」

「そうだ……俺は記憶が無い」

スティグマはアグニの言葉に続く。

「自分が誰だったのかもわからないし、何をしてきたのかもわからない……

名前だって、ついさっき聞いて知ったばかりだ……

君達が掲げる大義も、今はもう覚えていない……

そんな無責任な俺の為にこれ以上は傷付かないでほしい」

「そんな……そんな事……」

アリシアはその場にうずくまり、泣き出してしまった。

「辛い選択をさせて、本当に悪かった……

だから今度は、君達が幸せになれる手助けをさせてほしい……」

その言葉に"魔女"達は叫ぶ。

「いえ、私達は幸せでした!

"聖帝"様の言葉に救われていました!」

「そうです!今まで散々頂いてきたのにこれ以上──」

「頼む、今度はこんな結末じゃない……平和な世界を見させてくれ」

スティグマはそこまで話すと、今度は皇帝に話しかけた。

「ヴァルナ皇帝……先程、こちらの"魔女"から事情を聞いた。

教えてほしい……かつて、俺が何をしてきたのか」

「自分が犯した罪に向き合う覚悟があるのか?」

皇帝の問いにスティグマは答える。

「わからない……聞いた事を後悔するかもしれない。

だが、それでも全てを知らなければ、彼女達を傷付けた責任は取れない」

「……良いだろう」

皇帝は告げた。

「スティグマ・シャルルエル……もう一度、あの街に迎え入れる。

そこで、全てを教えてやろう」




星が照らす空の下、戦いは終わりを告げた。

長い1日を終え、サクラは次の目的地へ向かった。

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