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IRON TALE  作者: 貫井べる
32/41

30話

アスラは岩の転がる峡谷で待ち続けていた。


既に機体のリミッターは解除しており、近くに隠しているトレーラーのメインコンピュータと接続し同期している。

"サードステージ"であるアスラが最初から全力で戦うつもりだ。

「オルトロス……奴は来るだろうか」

アスラは"鎧"の制御AIに声をかけた。

「来るだろうよ……お前は今回の戦いで、一番重要な旗印だ」

制御AIのオルトロスは答える。

「それでいてあちらにはブレンがいる。

お前相手に雑魚の集団をぶつけるリスクは承知している筈だ。

必ず一番強い奴を誘い出せるだろうよ」


やがてアスラの狙い通り、1機の"サーペント"が峡谷に降りてきた。

腰の拳銃と左手のロングライフル──"不死身のサクラ"だ。

"鎧"も武装も一般兵とまるで変わりは無いが、脱力し隙の無いその立ち姿は歴戦の猛者のものだ。

「やっぱり、足手まといは置いてきたか……」

アスラもまた左右の手に持った2丁のサブマシンガンをまだ構えない。

対するサクラは堂々と撃ってきた。

アスラは先制の弾丸をかわし、迷わず前進した。

そのまま驚異的な速度でコッキングレバーを操作し連射してくるサクラ。

アスラは弾丸を避け、弾き、その距離を一気に詰める。

そしてアスラが引き金を引き、サクラは拳銃を抜く。

至近距離で撃ち合いながら2人は更に接近し、弾丸をかわしきれず被弾しつつも互いに一歩も引かない。

そして十分に近付いたアスラは一気に踏み込み、銃に取り付けられたスパイクでサクラの拳銃を潰した。

更にアスラはサクラの胴体を蹴り、足裏のスパイクでその装甲を抉り取り──

「無人機か」

アスラは気付いた。

サクラがこんな簡単に倒せる筈が無い。

すぐにアスラは上を向き、崖の縁に並んだ無人機らしき"鎧"の大軍に気付く。

先程まではいなかった筈だが、峡谷の1機と戦っている隙に銃口をアスラに向けていた。

崖の上から銃弾の雨が降り注いだが、アスラは狭い峡谷で大きく逃げ回り狙いを定めさせない。

「上も想定済みだ」

アスラは崖の縁を撃ち、崩し始めた。

足場を失った"鎧"が次々と滑り落ち、アスラが順番に破壊していく。

腕をもぎ取り、頭を潰し、脚をへし折り、次々と"鎧"の残骸が増えていく。

そして次々と空のコックピットが露になる。

しかし突然、大破した"鎧"が一斉に起き上がり襲いかかってきた。

遠隔操作の無人機となれば完全に機能停止されなければ無傷のようなものなのだ。

アスラは崖を蹴って跳び上がり"鎧"の突撃を避け、そのまま崖の上まで駆け登る。

「上から見てるな」

そして、近くの切り立った岩山の上を見上げた。

「見つけた」

アスラがその"鎧"に銃口を向けた瞬間、アスラの足元の岩が銃撃され崩れ始めた。

岩山の上の"鎧"はというと、その急勾配を一気に飛び降りてくる。

アスラは滑り落ちながらも引き金を引き、上空からの弾丸を僅かに姿勢を変え避ける。

そして落ちてきた"鎧"は連続で銃弾を受けた左肩が破壊された。

「違う、お前は──」

アスラはやっと気付いた。

サクラならばロングライフルを構える左腕だけは死守する筈だ。

その左腕を防御せず犠牲にする判断は──

動揺したその瞬間、相手は飛んでいく左手からライフルをもぎ取るとその銃身を掴み、アスラの胴体装甲の傷に銃口を突き刺した。

「お前は誰だ」

その相手は銃身から右手を離し、その指で引き金を引いた。

アスラの身体のすぐ横を掠めるように"鎧"を弾丸が貫通し、メインコンピュータの機能を停止させた。




30話 その少女、本物に非ず




アスラの"鎧"は谷底に横たわり、その上に覆い被さるようにもう1機の"鎧"が銃を突きつけていた。

胴体装甲ごとコックピットハッチを破壊され、無防備になったコックピットでアスラは夜空を見上げた。

そんなアスラを銃を構えた少女が見下ろす。

「投降してくださいね……サクラさんからのお願いです」

その少女──アーシズ・ブロッサムの事をアスラは何も知らない。

いや、この戦場で彼女の事を知っている者も彼女の参戦を知っている者も殆どいないだろう。

ただ、アスラは無名の相手に騙され敗北したショックで完全に戦意を喪失していた。

「何だよお前……何だよあの動き……」

アスラが言うのも無理は無い。

その戦い方はサクラの滅茶苦茶な動きにかなり近く、最後の一瞬までサクラと誤認する程だった。

ブロッサムはというと、アスラの言葉の意味をあまり深くは理解できなかったようだ。

「ん?ああ……えーと、サクラさんから言われまして。

『無人機100機くらいと同期したら勝てる』って」

ブロッサムのその言葉は常識を逸していた。

"セカンドステージ"のパイロットと"鎧"との完全な同期は1機が限度で、それを超えた"サードステージ"のアスラでも10機がやっとだ。

それをこの少女は言われるがままに実行し、そして実際にアスラに勝利したのだ。

「そうか……それじゃ、勝てないか……」

アスラもその言葉には納得するしか無かった。

彼女自身も常識はずれの事をしているが、目の前の相手はそれ以上なのだ。

もはや現実感すら薄れてきている。

「それで、ちょっといいですか……サクラさんから話があるんです」

ブロッサムは有無を言わせず携帯デバイスで通信を繋げた。

「サクラさん、終わりましたよ」

「アスラさん、聞こえますか」

サクラの声がした。

「聞こえてるよ……完敗だ」

サクラの声にアスラは答える。

「じゃあ良かった、拒否権は無いですよね。

今度、私に協力してください」

サクラからの提案だ。

「たぶん、アスラさんもツバサさんも国外追放になりますよね。

折角ですし、裁判が終わったら外の世界の探索チームに加わってください」

その提案はアスラの全く予想していないものだった。

「この世界には海が無いと言われていましたが、イリエニアの東には海がありました。

西の大砂漠もきちんとした渡航記録はありませんが、渡りきった実例があります。

では、ヴァルナの北のその先は?

フェルノの南の最果ては?

西のアーシズ王国のその先は?」

「待て、そんな無謀な──」

「無謀だからこそ、追放され安い命になる貴女達を使うのですよ」

サクラの言葉には迷いが無く、そしてアスラの疑問のその先を語っていた。

「こんな大きな戦いが起きたのですから、他にも実力がありそうな人には目をつけました。

全てアスラさんのおかげです」

アスラはやっと理解した。

サクラという少女は、アスラが考えていた以上にまともではない。

「"鰭無し"の皆様にも声をかけるつもりです。

"聖帝"サマとやらの本当の願いの通り、人と"魚"とで協力する訳ですね」

「そこまで知っているのか」

アスラは絶句する。

"聖帝"の真意を知っているのは数名程度だろう。

アスラも確信するに至っていなかったそれをサクラは断言したのだ。

「投降してください。

そして、戦いの終わりを呼びかけてください」

「出来る事ならそうしたいな……だが、私が投降したところで終わる訳ではない。

熱心な"聖帝"の信者をルスタッドに向かわせている。

あいつらは止まらないだろうな」

「そんな事だろうと思いました」

サクラは既にアスラの考えを見透かしていた。

「私もルスタッドに向かっています。

後は私が止めるので、出来る事をしてください」

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