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IRON TALE  作者: 貫井べる
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29話

エレノアとツバサが戦いながら戦場を離れていった頃、"瓦礫の魔女"がついに行動を開始した。

持ち込まれていた大量の瓦礫が浮き上がり、巨大な人の形をした"鎧"となったのだ。

「狙撃隊、目標は"瓦礫の魔女"!」

シュライク王国とヴァルナ帝国の連合軍の判断は早かった。

しかし"瓦礫の魔女"もまた判断に迷いは無かった。

戦場に転がっていた"鎧"の残骸が浮き上がり、狙撃隊めがけて発射されたのだ。

いくつもの砂丘が一瞬のうちに吹き飛ばされる。

"瓦礫の魔女"は連合軍へ向けて歩き出した。

「噂に違わぬ豪快な能力だねぇ……」

連合軍側についた"魔女"の1人、"塩の魔女"は剣を抜く。

「だが、こいつはどうかな」

"塩の魔女"が剣を振り上げると、その切っ先が地表を掠めたところから塩の結晶が浮き上がり、"瓦礫の魔女"を目指して塩の道がのびていく。

しかし"瓦礫の魔女"は瓦礫をひとつ落とし塩の道の行き先を塞いだ。

その瞬間、"塩の魔女"の攻撃に触れた瓦礫は柱のような塩の結晶に飲み込まれた。

「防がれたか……だが、何度でも──」

"塩の魔女"が言い終わらないうちに"瓦礫の魔女"はその塩の柱までも宙に浮かせる。

そして再び大量の瓦礫を飛ばしてきた。

降り注いだ瓦礫が、また甚大な被害を出す。

「動ける者は脚を狙え!」

そう指示が出るが、"瓦礫の魔女"はどんどん迫りながら右腕に瓦礫を集めていく。

その瓦礫の巨人は更に巨大化した右腕を振り上げ、そして叩き付け──


その時、"瓦礫の魔女"の右腕から瓦礫が次々に引き剥がされ、その拳は狙撃隊まで届かなかった。

「協力するぜ、人間共」

そう口にしたのは人とも"魚"とも似た巨体──"鰭無し"と呼ばれる"魚"だった。

「リヴィア王国から来た、四条グレン以下狙撃隊10名!

"瓦礫の魔女"は引き受けた!」

グレンはそう、名乗りを上げた。




29話 廻る風──下




"鰭無し"達の参戦で戦況は変わり始めた。

一部の精鋭部隊の突撃に頼る形だった連合軍側についた"鰭無し"は、全体で100程度と数は少なかったものの大きな戦力になった。

「これは一体……」

「利害が一致したのだよ」

本陣で指揮をしていたブレンに声をかけたのはエンヴィーだ。

「リヴィアの王だ。

"魔女"達の暴走、我々としても見逃せなかったのでな」

「……こちら側につく事は予想していました。

しかし、ここまで堂々と参戦されては貴殿方の存在を秘匿できなくなってしまう」

ブレンの言葉に対し、エンヴィーは返す。

「そんな事を言っている場合ではない……そう判断した」

「指揮官はどいつだ!」

1人の"魔女"が防衛ラインを突破し本陣に乗り込んできた。

しかし彼女は1人の老人を無視して隣を通りすぎた瞬間、老人──タケゾウに背中を撫でられてしまった。

砂の上を滑るように倒れ込み"鎧"も解除された"魔女"だったが、血を吐きながらも立ち上がろうとする。

「無理をなさるな」

タケゾウは"魔女"に歩み寄り、その隣に屈み込むと強く握られた剣に触れる。

タケゾウの指先が震え、剣はその刀身が砕け散った。

「ま、後はこんなもんかの」

更にタケゾウは"魔女"の袖を引きちぎり、その中に隠し持っていた小瓶を奪った。

"魚"の血だ。

「陛下、挨拶は済んだか?」

タケゾウは立ち上がり、その小瓶を握り潰す。

「ああ、行こうか」

エンヴィーは"瓦礫の魔女"の巨大な"鎧"を見上げた。

「グレンが隙を作る……それを逃す訳にはいかないからな」




部下を率いたエクスシアは主力の"魔女"を探していた。

既に1人は倒したが、まだ数は多い。

早く見つけなければ──


その時、周囲にいた"魔女"達が一斉に下がった。

「"星屑の魔女"を倒したと聞いた」

1人の"魔女"が、"鎧"も纏わずに歩いてくる。

「名を聞こうか」

「……シュライク王国軍所属、アーシズ・エクスシアだ。」

「おっと、偶然とは恐ろしい」

エクスシアの名を聞き、"魔女"は知っているような反応をする。

「うちのばあ様を殺した女じゃあないか」

「悪いな、殺した相手と言われても心当たりが多すぎる」

エクスシアは剣を構えたまま答えるが、"魔女"は剣を抜こうともしない。

「いいんだよ、それで。

私は敵討ちなんて趣味じゃない。

それに、うちのばあ様から迷惑かけたんだ……殺されて当然だよ」

"魔女"はやっと剣を抜き、エクスシアに向けた。

「私はカノープス・ネクストシート、"賭博の魔女"だ」

"魔女"──カノープスは剣を投げ上げた。

「『勝つも負けるも運次第、死ぬも生きるも神頼み』」

回転しながら落下してくる剣へ、カノープスは問いを投げかける。

「"首斬童子"、生きるのは誰だ?」

その瞬間、空中の剣がエクスシア目掛け飛び出した。

エクスシアはその一撃を防いだが、エクスシアの周りの部下達は"鎧"ごと首をはねられる。

一瞬のうちにエクスシアは孤立してしまった。

「今のを防いだか……やるじゃないか」

手元に戻ってきた剣を掴まえ、カノープスは不敵に笑う。

「あとどれだけ生きていられるかな」

カノープスの手から剣が離れ、再びエクスシアに襲いかかった。




ガットもまた部下を率いて真正面から敵陣に切り込んでいた。

しかしそのガット達を背後からベラトリクスが襲いかかった。

何人かが"鎧"ごと斬り伏せられるが、その剣をガットの槍が受け止める。

「悪いね、雑魚かと思った。

結構やる奴もいるじゃないか」

刃が交錯したままベラトリクスが口にする。

その背後でガットの部下が剣を振り上げるが、ベラトリクスがガットの槍を弾いたその瞬間にその部下の"鎧"は両断されていた。

「私は"時計の魔女"だ」

ベラトリクスはガットから距離を取る。

「ユキっていう奴を探している……どの辺りにいるか教えてくれるなら、ここは手を引こう」

「……悪いな、教えられない。

それに、教えたとしても行かせる訳にはいかない」

ガットはそう答え、槍を構え直す。

「そうか、じゃあ──」

ベラトリクスが動き出した瞬間を目で追えたのはガットだけだった。

生き残っていた部下達も一瞬のうちに斬り殺されてしまった。

「すごいね、今のも防げるんだ」

その速度を防ぎきったガットへとベラトリクスは剣を向ける。

「ちょうどいい……1人いれば死ぬまでに口を割るかもしれない」

そしてベラトリクスは再び自身の時間を加速させた。




グレンは気付いたら真っ白な世界にいた。

「気がついたかい?」

その声の主は死んだ筈のスティグマだった。

「スティグマか……じゃあ、俺は死んだのか?」

「そうだね……死んだ。

君は"瓦礫の魔女"の拳を防ぎきれず、直撃を受けて吹き飛ばされてる最中。

でも、君ならまだ帰れるよ」

グレンの問いにスティグマの声は答える。

「ここは生と死の狭間……今の僕は魂の半分を"呪い"としてここに残した存在。

死を乗り越え現世に甦る為には、自身の存在証明が必用になる。

君ならできるだろう?」

その言葉の真意はグレンにはわからなかった。

しかしグレンにもわかることはあった。

「存在証明……俺は、俺だ。

ただ戦って勝てるなら、それで十分だ」

「そうか……残念だよ」

スティグマの声は悲しそうに告げた。

「やっぱり君には、"人間"の器は小さすぎる──」


気がついた時、グレンの身体は宙を舞っていた。

吹き飛ばされていたグレンは砂丘に直撃し、その砂丘をまるごと吹き飛ばした。

「ああ、そうだな……スティグマ……」

グレンは立ち上がり、巨大な瓦礫の"鎧"を見上げる。

「俺は俺だ……人だろうが"魚"だろうが関係無い」

"瓦礫の魔女"はグレンにとどめを刺そうと、瓦礫を集め更に巨大化させた右腕を振り上げる。

「それで悪いか!?」

振り下ろされる腕へとグレンは火の玉を吐き出した。

高速で連射された火の玉は着弾と同時に爆発し、"瓦礫の魔女"の右腕を吹き飛ばす。

"瓦礫の魔女"は瓦礫を集め"鎧"を修復しようとするが、グレンの吐き出す火の玉による破壊が修復速度を上回る。

「腕が無くなった!今だ!」

グレンの合図で行動したのはエンヴィーだ。

彼はその豪腕で生身のタケゾウを放り投げたのだ。

「悪く思うなよ」

タケゾウは"瓦礫の魔女"のその"鎧"の胸に右手を打ち付け、そのまま落下し砂の上に着地した。

ゆっくりと歩いて"瓦礫の魔女"から離れるタケゾウの背後で"鎧"が崩れ始めた。

衝撃を"鎧"の内部へと伝えるタケゾウの一撃にエンヴィーの投擲の威力が加わり、巨大な"鎧"の内部にいた"瓦礫の魔女"が致命傷を負ったのだ。

戦場に轟音を響かせ、"瓦礫の魔女"は文字通り完全に崩れ落ちた。




エクスシアは高速で飛び回る剣を防ぎ続けていた。

「よく追い付けるね」

カノープスは砂の上に座り薬草をかじっている。

「ああ、目も慣れてきたよ」

エクスシアはカノープスの剣を防いだ瞬間に盾がわりにしていた自身の剣を蹴り、カノープスの剣を弾き飛ばす。

そのまま勢いをつけてカノープスへと斬りつけようとするが、振り下ろす剣をギリギリ間に合ったカノープスの剣が弾いた。

「惜しい」

カノープスは自身のすぐ横に叩きつけられる剣を目で追う。

剣が砂地に叩き付けられ、砂を盛大に撒き散らした。

エクスシアはカノープスの横を通り過ぎながら飛び回る剣をかわし、そして再び防御に転じる。

「もう少しで私の運を破れた……本当に惜しかったよ」

カノープスは立ち上がり、浴びた砂を払う。

「でも、届かなかった」

カノープスは見ているだけで何もしない。

エクスシアは下がりながら剣を防ぎ続け、同じく下がってきたガットと背中同士でぶつかった。

その瞬間、エクスシアとガットは申し合わせていたかのように互いの位置を入れ換えた。


高速でガットを攻撃し続けていたベラトリクスは、突然入れ替わったエクスシアの事も構わず攻撃しようとした。

しかしエクスシアは既にその剣を振り回してきている。

ベラトリクスは避けようとするが、エクスシアはぴったりとベラトリクスの速さについてくる。

かわしきれない──そう判断したベラトリクスはエクスシアの一撃を剣で受け止めた。

その瞬間、ベラトリクスはものすごい威力で弾き飛ばされてしまった。


ガットはカノープスの剣を弾きながら逆に追いかけるように歩き出した。

毎秒数回は襲いかかる攻撃に対して槍を叩き付け続けるガットに、流石のカノープスも驚愕する。

「何、何なの……」

そんなカノープス本人を無視するようにガットは叫んだ。

「エクスシア殿!」

その瞬間、ガットの槍で受け止められたカノープスの剣へとエクスシアの剣が叩き付けられた。

2本の刃に挟まれ、カノープスの剣がねじ切られる

「え……うそ……」

カノープスはその光景に腰が抜けてしまった。

彼女の剣はその場に落ち、もう動かない。

「これで終わりか?」

エクスシアは剣を担ぎ、そう問う。

カノープスはただ無言で頷くしか無かった。




吹き飛ばされたベラトリクスは立ち上がり、周囲を見渡す。

「だいぶ離れちゃったな……ま、仕方がないか──」

そしてユキの"鎧"を見つけた。

「あら、ベラトリクスさんでしたっけ」

ユキもベラトリクスに気付く。

そんな彼女の足元には"影法師の魔女"がうずくまっている。

「"影法師の魔女"……そいつをどうした?」

「ん?ああ……無力化しました」

ベラトリクスの問いにユキは答えた。

「いくら撃っても死なないし、私には殺しかたもわからない。

だから、絶対に私に勝てない事を時間をかけて理解させました」

「……なるほどね、よく知ってるやり方だ」

ベラトリクスは自身が同じように負けた時を思い出す。

「じゃあ、決まりだ」

そしてベラトリクスは自身の時間を加速させ、停止した世界の中でユキに斬りかかった。

無傷のユキの背後で立ち止まったベラトリクスは、折れた剣を凝視する。

「だから、勝てないんですよ……貴女も」

ユキはいつの間にか片手で銃を構えており、ベラトリクスの剣の片割れは先程まで立っていた場所に落下した。

「理解してくれましたか?」

ユキの言葉に、ベラトリクスはこれ以上挑む気持ちにすらなれなかった。

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