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IRON TALE  作者: 貫井べる
26/41

24話

遥か昔からその地は争いが絶えなかった。

つかの間の平穏が訪れる事はあっても、いずれまた争いが始まる。

巨大な"魚"も超常の"魔女"も、争えば非力な人間が死ぬ。

ただ理不尽に巻き込まれ、死ぬ。

そう、そこはこの世の地獄。

生きる事が罪であるかのように、ただ罰を受け続ける。




24話 剣の物語




「レベル2の"魔女"がよくこれだけの力を溜め込んだもんだ」

いくつもの砂丘が消し飛んだ砂漠の真ん中、砂に突き刺さった巨大な剣の上に腰かけたアグニが口にする。

その足元には"影法師の魔女"が倒れていた。

「獲物を喰らう影は"根"で、影から生まれる"影人形"は"種"。

現世から質量と魔力を喰ってどこかしらにエネルギーとして溜め込む……それこそ、性質を理解してる奴と敵対しなければこの地を統一できるくらい膨大なエネルギーだ。

呪いで自身の魔術を変質させるにしてもよく研究したもんだよ……なあ、"ヤドリギの魔女"さんよ」

無数の剣が突き刺さった砂漠の真ん中で、アグニは"影法師の魔女"の事をそう呼ぶ。

「貴女、どうしてその名を──」

「私も研究者だからさ、そういう考え方は得意なんだよ。

いや、しかし私と違って研究の余地がある能力で羨ましいよ……私はこんな滅茶苦茶に強いばかりで加減もできない能力だってのにさ」

アグニは剣の上から飛び降り、屈んで"影法師の魔女"の顔を覗き込んだ。

「なあ、お前さ……力を求めて呪術で能力を変質させたんだろ?

もしかしてさ、本当はそこで自分の"飢え"に気付いたんじゃないのか?

無限に力を求める"飢え"……それがヤバいと思って"影法師の魔女"なんて名前で封をしたんじゃ──」

"影法師の魔女"の姿が消え、その瞬間にアグニは足元目掛け無数の剣を放つ。

アグニを足元から飲み込もうとしていた影が吹き飛び、散る。

「無駄なんだよ!」

今度は地上から高く伸び上がって何かの姿になろうとした影を無数の剣が引き裂いた。

そんなアグニの周囲で影が渦巻く。

「もう何もかもどうでもいい……ただ、貴女だけは消さなければなりません」

影の中から白い"竜"が姿を現す。

「貴女はどこまで知っているのですか?」

「何、少なくとも今は世界をどうこうしようざなんて思っちゃいないよ」

アグニは砂に刺さっていた剣を1本引き抜いた。

「ただ、"魚"になった人間を戻したいって奴がいてな……世界には興味は無いが、そっちは教えてもらうよ」

「死ぬべき者に教える必要など無い!」

"竜"が火の玉を吐き、空中に現れた剣がそれを受け止めた瞬間に爆発が起きた。

「その真実に近付く者が何の企みも無いとでも言うのですか!」

「悪いね、本当に何の企みも無いよ……ただ、"魚"から人に戻りたい奴にもあんたみたいな奴にも同情したくなる立場でな」

アグニの目の前には無数の剣が壁を成しており、爆発は彼女まで届いていない。

「異世界の預言者が残した書物にある、世界を亡ぼす4人の"魔女"……『支配』『戦争』『飢餓』『死』の4人。

でもさ、そんな当たるかもわからない預言に振り回される生き方より、生きようと必死な奴を助ける生き方の方がマシだと思わないか?」

剣の壁が消え、アグニは問う。

「教えてくれないか……"魚"になった人間を戻す研究の、その続きを」

「それもこの世の摂理に反する事です!」

白い"竜"が火を吐き、アグニもまた剣を放った。

再び空中で爆発が起き、"竜"は影になって散る。

「そうは言うけどさ、あんた……その力、"影人形"じゃなくて本物の"竜"だろ?

あんた自身が"竜"になって、どうせ人にも戻れる……既にあんたの言う摂理に反してるじゃないか」

アグニが話すその周囲に、白い"竜"の姿がいくつも現れる。

「遅いよ」

アグニがその一言を言い切らないうちに、上空から降り注いだ無数の剣が"竜"達を串刺しにしていた。



また、アグニは砂に突き刺さった剣の上に腰かけていた。

その足元には、また"影法師の魔女"が倒れている。

「……お久しぶりですね、スピカ様」

そう声をかけたのは、1匹の"鰭無し"──アリシアだった。

「それからアグニさんも」

「あんたか……ちょうどいい時に来るもんだな」

アグニはアリシアを見て、告げた。

「名前を知ってるのか……こいつは"聖帝"の資料にあった"ヤドリギの魔女"、お前達を人間に戻す方法を研究していた奴だ」

その言葉にアリシアの表情が変わるが、アグニは構わず虚空から1メートル程度の剣を引き抜く。

「だが、研究の結果は絶望的……おまけにこいつは私の故郷を亡ぼした。

生かしておく価値なんて無いよな?」

アグニは地上へ降りると剣を振りおろすが、その剣をアリシアの短剣が受け止めた。

「……何だ?」

「アグニさん……研究の結果はまだ『絶望的』、つまり完全に不可能と決まってはいないのですよね?」

「そうだな、不可能と決まってはいない」

「でもアグニさんからしたら知った事ではない、と」

「そういう事になる」

「だったら……」

アリシアの腕に力が入り、アグニの細い腕を押し返した。

「だったら、私もアグニさんの事情は知った事ではありません」

"鎧"程の体格のあるアリシアはその豪腕で生身のアグニを押し倒す。

「なら力ずくで止めてみろよ!」

水平に飛んできた剣を避けるようにアリシアは跳び、自由になったアグニはすぐ立ち上がってアリシアから距離を取る。

「私は"剣の魔女"、アグニ・ブレイズアーツ!

お前ごときが敵うものか、リリレイン・アリシア!」

空中に無数の剣が現れ、地表へと降り注いだ。



「急げ!戦闘が始まっているぞ!」

"影法師の魔女"の呼び掛けに集まってきた"魔女"達はアグニ達の戦闘に気付いていた。

しかし進路上の砂丘の上に立つ1人の男に気が付く。

隻腕のその男は、確かに無い筈の右腕を水平に上げた。

「悪いな、ある男の頼みだ……彼女の邪魔はしないでもらおうか」

腕の無い肩から白銀の光が溢れて右腕の形になり、その拳が握られる。

「どこのどいつか知らねえが、力を借りるぞ」

その瞬間、その右腕が黄金の光を放ち、巨大な拳に変わった。



剣の雨が止み、舞い上がった砂埃がだんだんと晴れていく。

「私の邪魔をしたからこうなるんだ。

せめて安らかに眠れ」

「あー、師匠もいたんだ。

こりゃ気の毒に」

背後からの声にもアグニは振り返らない。

「ブランか」

「そ、ブランですよ。

私も殺したい相手がいて来たんだけど……もうそんな気も失せちゃいましたよ」

ブランはパイプに薬草を詰め、指先からの電気で加熱し始める。

「で、その"鰭無し"は?」

砂埃の中から現れたアリシアは、血まみれで肩に剣が突き刺さった状態で立っていた。

「あの"魔女"を庇ってる」

「そうなんですね……でも私はそこまで興味無いです」

ブランは近くの剣の上に腰かける。

「どのみち師匠に勝てる訳が無いし」

「勝てない……そんな事、わかっています」

もはや動く事もできないアリシアだが、それでも倒れない。

「それでも……それでも、戦わなければ私は"人間"でいられない……

もし身体は人間に戻れても、ここで"可能性"を見殺しにしたら、人の心は死んでしまう……そんな気がします……」

「そうか……だったらその意思で──」

アグニはアリシアめがけて剣を放った。

「"死"を乗り越えて還ってこい!」

アグニの剣がアリシアの胸を貫通し、その"鰭無し"の身体が崩れ落ちた。


どれだけ時間が過ぎだろうか。

それまで無言だったアグニが口を開いた。

「"魚"が人に戻るのは絶望的……しかし、不可能ではない。

それは『人間の証明』を以てして肉体の死を乗り越える事……今のお前で無理なら誰にもできないよ」

アグニは歩き出し、上着を脱ぐ。

「だが、お前はこの世界の神に自分自身の存在を証明した……私だって、できないと思った。

リリレイン・アリシア……お前は"人間"だよ」

アグニは崩れた"鰭無し"の肉体の中に座り込むアリシアの素肌に自分の上着をかけた。

アリシアの身体は、人間の姿に戻っていた。

「だが悪いな、今現在じゃ他の"鰭無し"を戻す術はわからない……」

「……でも、戻れる実例はできました」

アリシアの口からは、元の人間の声が出てくる。

「これなら──」

「いや、これは良いもんを見せてもらったよ」

遠くから別の声がした。



男は砂の上に力無く座っていた。

「ああ、また誰か来たのか……」

男は顔も上げない。

周囲には"魚"や"竜"の残骸が散らばっており、戦いの壮絶さは容易に想像できた。

「悪いね……俺にはもうあんたを止める力は無いが、せめてこの先にいる奴の邪魔はしないでほしい……」

「ああ、そうしてやるよ」

そう答えたのはアスラだ。

「……せっかくあの世から帰ってきたのに、またそうやって他人の為に戦うんだな。

死んでなくて良かったよ」



「いや、これは良いもんを見せてもらったよ」

そしてアスラはアグニ達の前に現れた。

「お集まりの皆様、"聖帝"の遺志を継ぐ"魔女"の呼び掛けによくぞ応えてくれた!」

アスラに続き、遅れて来た"魔女"達が次々と姿を現す。

「今ここで起きたように、"魚"となった人間がまた人間に戻る事が可能だと実証された!

教義にあるように、人が"魚"を恐れる必要が無いと証明された!」

「……貴女は誰ですか?」

"影法師の魔女"は──"魔女"達を集めた張本人は、問う。

「ああ、私か?」

アスラは答えた。

「トライサード・アスラ。

"聖帝"の娘だよ」

"魔女"達がざわつく。

「私は"聖帝"の遺志を継ぎ、"魚"を恐れる必要の無い世界を作る!

その為に、まずは予定通り"聖地"の奪還を行う──」

その時、背後の砂丘の上から2機の"鎧"が──サクラとユキが飛び出した。

しかし空中の2機に漆黒の"鎧"が飛びかかり、サクラもユキも弾き飛ばされてしまった。

「今は誰も殺すなよ」

「わかってるよ」

アスラの背後に着地したのは──

「烏丸ツバサ!何故ここにいる!」

ユキは着地と同時に銃をツバサへ向けるが、ツバサは逆に銃を持つ手を下ろす。

「焦るなよ、まだ殺し合いの時じゃない」

「余裕だな」

アグニが問答無用と言わんばかりに無数の剣を放ったが、弾丸よりも速いその軌道が空中で逸らされてしまった。

「は?」

「何、そのメチャクチャな力!」

そう叫んだのはベラトリクス。

時間操作能力を持つ彼女だが、アグニの飽和攻撃を裁ききるのは容易ではなかったらしく息を切らしている。

「師匠!そいつはヤバい!」

ブランが左手を構え、稲妻を放つ。

しかしベラトリクスは一瞬早くブランの狙いから外れた場所へと逃げており、一筋の閃光は地平の彼方へと消えていった。

「お互い、役者は揃ったようだな」

そう言うアスラの周りでは、"魔女"達が次々に"鎧"を纏って剣をアグニ達に向ける。

「戦うにしても、今の戦力じゃどうしようもないだろ?

だからここは一旦引け……改めて、戦力を整える時間をくれてやるよ」

「じゃ、私もその準備に協力しますよ」

そう言ったのはカペラだ。

彼女は"鎧"を纏わず、生身のままアグニの後ろで立ち止まった。

「……スピカ・ミルトルティン、貴女が"影法師の魔女"だったんだ。

今の私は貴女を殺せないけど、だからといって貴女の味方にはならない」

カペラは横たわる"影法師の魔女"へと告げると、後方のカノープスを振り返った。

「そんな訳だよ、カノープス……お前はそっちだろ?」

「……」

カノープスは何も言わない。

「何、一時の敵対だ……"聖帝"サマの為なんだろ?

私はその選択を否定しないよ」

カペラは剣を抜き、アスラへと向けた。

「私は"予見の魔女"、カペラ・ヴィジオン。

"聖帝"の勢力に敵対する事を宣言する」

カペラのその目に、一切の迷いは無かった。




かつて、"ヤドリギの魔女"はまだ幼い"魔女"と出会った。

そこで"ヤドリギの魔女"は幼い"魔女"が"死"の呪いを持つ事に気付き、自らの研究の為にその力を暴発させた。

結果、街ひとつが壊滅状態となり僅か数人しか生き残らなかった。

"ヤドリギの魔女"はその時のデータを元にし、より扱いやすい形の"死"の呪いの持ち主を生み出す為に"魔女の家"を設立した。


カペラ・ヴィジオンは"予見の魔女"ではない。

この戦いを生むきっかけのひとつとなった"死"の呪いの持ち主、即ち"死の魔女"だった。


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