表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IRON TALE  作者: 貫井べる
20/41

18話

かつて"剣の魔女"は争いの絶えなかったフェルノの地を統一した。

しかし"剣の魔女"は自らの死後に"魔女"達が再び争う事を確信しており、何よりその業から"戦争の魔女"が生まれる事を恐れた。

そこで彼女はセキの街の中心地に1本の剣を残し、『それを引き抜いた者が2代目の"剣の魔女"となる』という呪術を残した──いずれ生まれる"戦争の魔女"をより弱い"剣の魔女"の名で封じる為に。

そしてセキの街を中心とした中立地帯を作り、多数の中立都市に厳格なルールを遺した。


それから数百年、フェルノの地は争いが絶えなかったものの中立地帯では最低限の平和だけは守られた。

力に自慢のある"魔女"達は"剣の魔女"の剣を抜こうと試みたが、誰一人として成功する者はいなかった。



ある朝、セキの街は大騒ぎになった。

あの剣が抜かれていたのだが、その光景があまりにも異様すぎたのだ。


剣を中心に作られていた広場が掘り返され、巨大な穴が空いていた。

その底には剣が刺さっていた台座が真っ二つに割れた状態で転がっており、同じく穴の底に転がっていた剣は柄から2メートル程までしか剣と呼べる仕上がりになっておらずその先は10メートル以上はあるただの鉄板でしかなかった。

そして大穴の断面には、地下10メートル程度の深さに厚さ30センチ程の分厚い鉄の層があった。


「これはこれは、驚きましたね……」

その光景を見た"ヤドリギの魔女"は思わず口にした。

彼女は剣を抜かずにその力だけを奪いに来たのだが、一目で無駄足だったと理解した。

「あんな剣、何の力も無い……ただ、これだけできる"魔女"ではないと物理的に抜けないだけ。

それをできる"魔女"が現れた……面白い時代が来そうですね」

"ヤドリギの魔女"はその場から姿を消した──文字どおりその場から消失したのだが、"魔女"がそのような事をするのは珍しい事ではないためか誰一人としてそれを気にする事は無かった。




18話 伝説の街




その日、ミモザは上機嫌だった。

「お、ミモザちゃん今日はゴキゲンだね!」

肉屋の店主が店先から声をかける。

「こんにちはリゲルさん。

今日は友達が帰ってくるって連絡がありまして」

「ひょっとしてブレイズアーツさんのところにいた子?

じゃあせっかくだから安くしとくよ」

「ふふ、リゲルさん相変わらず商売上手ですね。

帰りに寄らせてください」

ミモザはそう店主へと返す。


その日もセキの街は平穏だった。

人々がいつも通りの日常を送っていた。


しかし突然、ネットワークを通じて南方のハバキの街の映像が配信された。

街のあちこちに人々が倒れ、誰一人として動かない。

「私は"閉幕の魔女"。

ハバキの街は私が皆殺しにした」

声が、そう告げる。

「もうじき南の街門からセキに到着する。

私は1人だ、殺されたくなければ私を殺せ」

その言葉と共に映像は終わった。


その頃、セキの街では南から人々が倒れ始めていた。

誰もが何の前触れも無く意識を失い、南から北へと歩くような速さでその範囲は広がっていく。

そしてそれ以上の速さでパニックが広がっていった。



セキの街の中央付近にある行政区域、そこには"魔女"達による評議会の場があった。

「中立地帯の都市が中立を保ててきたのは強力な"魔女"の武力によるものだ。

それが街をひとつ落とされ、この街も一方的に蹂躙されている」

「迎撃に向かった"魔女"達も倒れたそうだ」

「しかも"閉幕の魔女"はあの"魔女の家"の生き残り……街の放棄を視野に入れ、住民の避難を最優先するべきだ」

評議会の"魔女"達は既に撃退を諦めている。

「そういえば、"魔女の家"の崩壊についての調査報告にあったな……この街を放棄した時にしか使えない戦力について」

「確かにあった。

必ずレベル6以上の"魔女"1人だけで読むようにと警告されていた資料だな」

「敵の術は未知数……このまま何もしないくらいなら、最後の手段に頼りましょう。

私が行きます」

そう言った"魔女"が立ち上がる。

「迎撃手段が無い以上、異論は無いと判断します」


そして、地下倉庫。

その"魔女"は厳重に保管されていた資料のページを捲る。

『この資料の情報は"魔女の家"を壊滅させた呪いに汚染されている。

レベル5以下の"魔女"はこの文書を読んだ時点で命を落とすだろう。

レベル6以上の"魔女"であっても自身の命の保証が無い事を理解し、街の全住民を避難させなければ続きを読むべきではない』

あまりにも物騒な警告文が書かれていたが、"魔女"は更にページを捲る。

『このページが開かれた時点で"終演の魔女"に連絡が届くようになっている。

彼女は"魔女の家"の被害者であり生き残りの1人、そして"魔女の家"を内部から崩壊させた"魔女"だ。

彼女の呪いは関わった全ての者に死の運命を呼ぶ。

この文書を読んだ貴方も例外ではなく、よほどの事が無い限り数時間以内に死ぬだろう』

「おや、読んでしまいましたか」

"魔女"は背後からの声に振り返る。

そこにいたのは真っ白な服に真っ黒な髪の女性。

"魔女"はその女性を知っていた。

「お前は"影法師の魔女"!

どうして──」

「どうしても何も、私に入れない場所はありませんよ」

女性──"影法師の魔女"の足元から影が広がる。

"魔女"は即座に剣を抜き"鎧"を出現させ、その直後には"影法師の魔女"の身体を切り裂いていた。

「判断が早い点は流石ですね」

"影法師の魔女"の身体が黒い霧のように散り、床に残った影の中から再び姿を現す。

「評議会メンバーに選ばれるのは聡明な"魔女"ばかり……素晴らしい事です」

"魔女"の影が空中へのび上がり、彼女自身の身体に巻き付いた。

「その頭脳もこれで最後のひとつ……残念です」

"影法師の魔女"の手が"魔女"の頬に触れ、"魔女"の首が身体から引き抜かれた。




かつて"ヤドリギの魔女"は"魔女の家"と呼ばれる孤児院を設立した。

そこでは呪術によりまだ幼い"魔女"の能力を変質させ危険な能力者を生み出す研究が行われていた。

しかしある時、ポルックス・エンドロールという少女が目覚めた能力により"魔女の家"の"魔女"達はほぼ全員が命を落とした。

生き残ったのはたまたま現場に居合わせなかったカノープス・ネクストシート他数名、行方不明となっている"ヤドリギの魔女"、そして彼女の呪いをまともに受けながらも生存したカストル・エンドロール。


そして現在、生き残ったカストル・エンドロール──"閉幕の魔女"はセキの街の中心地にいた。

彼女の呪いは『敵意や悪意や害意を向けてきた相手の命を奪う』というもの。

その能力は彼女を中心に広大な範囲に作用し、既にセキの街の全域に呪いを振り撒いていた。

かつて"剣の魔女"の剣があった中央広場は巨大な穴を分厚いガラスで塞いでおり、その上に元々あった台座と剣のレプリカが置いてある。

その台座に腰掛け、カストルは空を見上げていた。


かつて"剣の魔女"が作り出した平穏も、こうして1人の悪意で終わってしまった。

中立が破られた今、他の"魔女"達もこの街を狙って攻めてくるだろう。

しかしカストルの呪いがある限り──彼女が生きている限り、ここに攻めて来られる者は限られる。

それはこの状況ですら彼女に一切の悪意を向けない無垢な子供か聖人、或いは彼女の能力が通用しない──


「見つけましたよ、カストル・エンドロール」

その声と共に、カストルの背後の影の中から"影法師の魔女"が現れた。

「……お前かよ」

カストルが待ち望んでいた相手は"影法師の魔女"ではない。

しかしカストルは彼女の事を知っていた。

彼女はこの状況でカストルへと悪意も敵意も害意も無く、純粋に慈悲の心で殺しに来るだろう。

「何をしに来た?」

「貴女を救いに」

"影法師の魔女"の答えを聞いた瞬間、カストルは剣を抜き"鎧"を出現させた。




「あー、ぜんぜんわからないー!」

サクラはカノープスの答えを理解できなかった。

「結局、魔女のレベルと実際の強さが違う理由って何なんですか!」

「……じゃあ、こういうのはどうですか。

10kgの水を大きなバケツで人の顔にかけても運が悪くないと死なないけど、10kgの鉄塊を人の顔に投げつけたら?」

カペラから別のパターンの質問をされ、サクラは少し考える。

「……大惨事ですね」

「そう、それが"魔女"のレベルの関係だと思ってください。

それで低レベルの"魔女"……水10kgでも、高圧で射出したり凍らせたり無理矢理ぜんぶ飲ませたりしたら?」

「やっぱり大惨事です」

「そういう感じで使い方を工夫すれば"魔女"としての力は弱くても実際の戦闘力を強くできたりするんですよ」

カペラの説明でサクラはやっと納得したようだ。

「……それでは、その水の量を増やしたら?」

「サクラ、考え方は合ってるけど何で私に一度も訊かなかった?」

運転席のアグニの不満そうな声。

それに荷台からの通信でサクラが答える。

「専門的な話になりそうな気がして……」

「それでも私よりはマシだったんじゃない?」

アグニの隣でカノープスは呟いた。


その会話に加わらず、ユキはアグニから送られたメッセージに目を通していた。

本来は交代で休んでいる筈なのだが、今は休息よりもその情報への興味が勝っていた。

『私は"セカンドステージ"のパイロットについて研究している。

ご存知とは思うが、"セカンドステージ"に至った人間の脳は"鎧"の制御AIに匹敵する処理能力を持ち、"鎧"の操縦支援にかかるAI

側の負担を減らす事で更に効率的な操縦支援が可能となる。

そして研究の目的は"セカンドステージ"を超える存在、つまり"サードステージ"へ到達する可能性を見つけ出す事だった。

あのトライサード・アスラを現状唯一の"サードステージ"と判断したところでふたつの疑問が生まれた。

トライサード・アスラは現状で数少ない"魚"に単独で対抗できる"ヒーロー"以外の存在なのはご存知の通りだ。

しかしそれ以外の人間は、どれだけ優れたパイロットであっても"セカンドステージ"の域で止まっている。

もしかしたらこの世界において"ヒーロー"という言葉は強者の行動を縛る為の呪いなのではないか?

そしてその枷がある限り"セカンドステージ"を超えられないのではないか?

だからこそ、トライサード・アスラと同じく"ヒーロー"と呼ばれない貴女には"サードステージ"となる可能性がある。

"境界の魔女"に依頼し戦闘支援システムを搭載した無人機を準備させているから、気が向いた時にでも試しに使ってみてほしい』

その文章に、何度も目を通す。

確かに、ユキは制御AIのアヴァランチとのシンクロ率が100%でもまだ遅いと感じている。

しかしだからといって本当にあの領域に──かつて戦ったアスラの領域に到達できるとはとても思えない。

戦闘技術や実戦経験の差を、そう簡単に埋められる筈が無い。

それでもユキはアグニの文章を無視しきる事はできなかった。



「あー、セキの街?」

途中で立ち寄ったアギトの街の街門で、役人の"魔女"が困ったように言う。

「やめときな、今ちょっとヤバい事になってさ……詳しくは言えない事になってる、そういう状況」

「だってさ……どうする?」

アグニはそう問うが、どう考えても行く気でいるとしか思えない。

一方でカノープスとカペラは違った。

「私達はここで降りますよ……行き先はどこでも良かったので。

ここまで同行いただきありがとうございました」

カペラは真っ先にトレーラーを降りる。

「じゃ、そういう事で」

カノープスもアグニに数枚の銀貨を手渡すとカペラに続いた。

「……どう思う?」

「私達に向けてのメッセージですね。

『お前達はこの先に行くな』って」

荷台のサクラが答える。

「おまけに私達を止めて自分達だけは行くつもり」

2台目のトレーラーからユキが付け加える。

「じゃ、私達も少し休んだら行くか」

アグニのその言葉をサクラもユキも拒否しなかった。




セキの街の中心付近は激しい戦闘で建物が倒壊していた。

そして中央広場に、黒い"魔女"と白い"魔女"がいた。

「貴女もまた選ばれし存在なら私ごときの救済は不要……」

「そういうお前も"聖帝"様の遺志を継ぐ覚悟なら殺す必要が無いな」

カストルと"影法師の魔女"は互いの立場を理解していた。

もはや2人に争う意思は無い。

「では、私は予定通り国境で同志達を待ちます」

「私も"あいつ"を殺したら合流してやるよ」

その言葉を最後に"影法師の魔女"の姿が地面の影の中へと消え、広場にはカストルだけが残った。


"剣の魔女"は『つるぎのまじょ』です。


『けんのまじょ』ではありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ