表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IRON TALE  作者: 貫井べる
14/41

12話

ヴァルナ帝国の帝都、ルスタッド。

宮殿のバルコニーで携帯デバイスを眺めるアルスター・ブレンへと皇帝が声をかけた。

「余裕だな、ブレン」

「ご冗談を……広範囲の防衛戦は睡眠時間との戦いですよ」

ブレンは画面上に送られてくる情報に対する指示を選ぶ。

「私はリヒト殿やツバサ殿のような前線の"旗印"ではなく、群れの指示役としての師団長です。

それは陛下もご存知ですよね」

「少し冗談を言いたくなっただけだ」

皇帝はブレンの隣に並ぶ。

「国内に侵攻していた"騎士"が2人、旅人に殺されたらしいな」

「はい、おかげで助かってはいますが……あまり信じたくはありませんね、我らが軍の管轄外にそれほどの実力者がいるとは」

ブレンはそこまで言い、皇帝の言いたいことに気付いた。

「また勧誘するつもりですか?」

「そうだな、忠義の無い者の方が損得勘定で正直に動く……感情で裏切る事は少ない。

烏丸ツバサがただ暴れたくて大きな後ろ楯を欲している事はわかるだろう?

神楽坂リヒトも真面目さ故に忠義があるように見えるが、真面目さ故に『商売』としての契約に従っているだけだ」

「……我々では信用できない、と?」

「そうだ、この国と皇帝に忠義を誓った者ほど私が皇帝に相応しくなくなった時に裏切るだろう……『未来の皇帝の為に』と。

それが良いか悪いかは私に決める資格は無い……私が悪い皇帝にならない保証は無いからな」

皇帝のその言葉に、ブレンは何と返せばいいか迷ってしまった。




12話 再会──下




「貴方達の戦争に介入するつもりはありません。

ただ、見知った相手を見捨てるのは気分が良くないので」

サクラはたった今アリシアを殺そうとしていたリヒトへそう告げる。

対するリヒトは太刀を鞘に納めたままゆっくり歩き出した。

「"それ"の正体を知っているようだな……だが、それだけの理由で通用すると思うか?」

「思いませんね」

サクラもまた武器を手にする事なく、その場から歩き出す。

「ならば押し通す覚悟はできているな?」

「そんなもの、この世界に来た日に済ませました」

二人は同時に武器を抜いた。

リヒトが太刀を鞘に納め、サクラがライフルを手にしたまま着地する。

一瞬の出来事だった。

「……何故、引き金を引かなかった」

リヒトが背後のサクラへと問う。

「私を飛び越えた瞬間、貴殿は銃口をコックピットに押し当てていた。

指は確かに引き金にかかっていた。

何故、引き金を引かなかった」

サクラは答えない。

「答えろ!

あそこで引き金を引いていれば、お前は──」

「つまり、貴方は死んでいたと認めるのですね」

サクラが口を開き、リヒトはやっと理解した。

リヒトは部下達の前で敗北を認めたのだ。

「貴方を撃っても他の皆様が納得するとは限りません。

ならば貴方の口から敗けを認めていただく方が手っ取り早い。

私の答えはこうです」

サクラのその言葉に、リヒトは完全な敗北を悟った。



一行は砂漠の中央で野営となった。

翌朝にはサクラ達は真っ直ぐイリエニアを目指し、リヒト達は山間部の迂回ルートを使うため別れる事になる。


「……そうか、エクスシアの弟子だったか」

リヒトはサクラの話を聞き、一番最初にその名を口にした。

「ご存知ですか?」

「昔、共に旅をしてな……"流星の姫"という童話をご存知かな?」

「いえ、この世界の童話という程度しか……」

サクラは隣のユキを見るが、ユキも首を振る。

「私は知ってる。

砂漠の向こうから来たお姫様ご一行が立ち寄った国の王子と一緒に"魔女"を倒すんだよな」

アグニはざっくりとあらすじを口にする。

「私がガキの頃はまだ絵本も少なかったけどさ、今じゃあちこちの本屋で見かけて……」

「その姫がエクスシアだ」

「は?」

リヒトの言葉にアグニが固まる。

「王国から連れてきた"騎士"は私で、道中で仲間にした"力自慢"はリヴィア王国の創始者にして国王のエンヴィー・リヴィアタン。

話には出てこないがシュライク王国の王室直属の"千里眼の魔女"も協力者だ。

王子──シュライク・ジッド現国王は先代国王が"絶望の魔女"に国を乗っ取られた事実を童話にする事で架空の物語だと国民に思わせている。

つい30年前の出来事だ」

「まあ、そのあんたがヴァルナ帝国の師団長になった事情は聞かないでおくよ……長い話になりそうだし」

アグニの複雑な心境をリヒトは察する。

「……申し訳無い、夢を壊したみたいで」

リヒトは謝り、そして少し黙り込んだ後にその問いを口にした。

「話は変わるがひとつ相談がある。

探している者がいるんだが、話を聞いて貰えるか」

「私は構わない」

「私がこの世界に来る以前の知り合いだが、行方知れずになってしまってな……もしかしたらと思って私もこの世界に来たが、全く手がかりも掴めていない」

「普通に"こっち"に来たらいつどこに出てくるかわからないですからね……」

ユキが残酷な事実を口にする。

「その通りだ……おまけに生きて人に見つけてもらわなければ砂漠で死ぬだけだし、そもそもこの世界に来ているかもわからない」

リヒトもまた最悪の事態は覚悟しているようだ。

「浅草アカネという女性なんだが──」

「おい、知ってるぞその女」

そう言ったのはアグニだ。

予想外の答えにリヒトは言葉も出ないようだが、アグニはすぐに申し訳なさそうな口調になる。

「あ、いや……悪い、知ってはいるんだが、あまり知らない方が……いやここまで言って教えないのも悪いか……」

「教えていただけるか」

リヒトに迷いは無い。

アグニは迷いながらも、知っている事を口にした。

「15年前だが、フェルノ紛争地帯の東部でのたれ死にそうな女がいて……"魚"を生で食ったみたいで症状が出てたんだが、まだ一応は話ができた。

その女から赤子と手帳を預かってさ、その手帳にその名前が書いてあった」

「……行方不明になった時、彼女は妊娠していた。

可能性は高いが……そうか、迷惑をかけたようだな」

リヒトは声を震わせながらももうひとつの問いを口にする。

「それで、子供の方はどうなった?」

「3年前まで一緒に暮らしてたんだけどさ、一人前になったから研究の為にひとりで旅に出た。

まあ、私より強い"魔女"だから死んじゃいないよ……ブランって名前だ」

「本当に申し訳無い……礼を言わせていただきたい。

まさか30年以上探してきて突然そのような話を聞けるとは思っていなかった」

リヒトはサクラを見て、頭を下げた。

「貴殿も私を生かしてくれた事、礼を言う」

「じゃあ、まだ生きないといけませんね」

サクラはそう言葉を返した。




イリエニア近くの山間部。

岩石の転がるその山肌でエレノアは目を覚ました。

「来ましたか」

エレノアは太刀を手にし、立ち上がる。

ちょうど斜面を登りきってきたリヒト達の部隊がエレノアを見て立ち止まったところだった。

「この先を下ればイリエニア……まだここにいる事は予想できた」

リヒトは1人で前に出る。

「第1騎士、エレノア・ガーネットで間違い無いな」

リヒトはゆっくりと歩き斜面を下っていく。

対するエレノアは人間の身体ではあるものの2メートルを超える長身で、その背丈程はある太刀を抜く。

「なるほど、先日の彼もそうでしたね……軍隊を率いるトップが"旗印"として先陣を切る。

組織としての軍隊と見ればあまり宜しくはありませんが、その"旗印"が大きいほど突撃隊としての士気は極めて高くなります。

貴殿もまた師団長ですか?」

「ヴァルナ帝国軍、第1師団長、神楽坂リヒトだ」

リヒトは名乗り、一気に踏み込んだ。

太刀を鞘に納める音が響き、エレノアの太刀が高く跳ね上げられた。

エレノアが振り下ろした手は、何も握られていない。

「……何故だ」

エレノアが言葉を口にしたのは、彼女の太刀が斜面に突き刺さった数秒後だった。

「何故、殺さなかった」

その問いにリヒトは答えない。

「何故だ!答えろ!まさか、女だからと手加減を──」

「その"女"に、昨日負けたばかりだ」

リヒトはやっと口を開いた。

「今の貴殿と同じように、自らの敗北を理解させられた。

それなのに女だからと手加減する筈が無いだろう。

それに貴殿の剣……傷ひとつ無い」

リヒトの言う通り、斜面に突き刺さったエレノアの太刀は刃こぼれひとつ無い。

「昨日までの私なら……貴殿を殺すつもりでいたのなら、一太刀でその刀身をへし折り首をはねようとしただろう……そして、負けていただろうな。

敗北したからこそ、自らのやり方の更に上を知れた……それが手加減であるものか」

「だったら……勝ったのなら殺せ!」

「……私がこの世界に来て敗北したのは2度だが、1度目の時に言われた事だ。

何故、敗者が勝者に命令する権利があると思う?

決闘でもあるまいし、敗者の尊厳などどうでも良いだろう?」

その言葉にエレノアは絶句する。

敗北を知らなかったエレノアとは違い、リヒトはそれを乗り越えてここにいるのだ。

「それからもうひとつ。

この戦争でエンヴィーは……貴殿達の王は多くを失う筈だ。

奴を支える"剣"として生き残ってもらえないか?」

リヒトの提案にエレノアはその意味を理解した。

「貴殿は、王を生かすつもりですか?」

「奴はかつての仲間だ……変わってしまった可能性もあるが、この戦争は貴殿達王国騎士の意志が強いと見ている。

必要であれば奴との決別も決めなければならないがな」

リヒトは部下達に合図を出し、すぐに斜面を下り始めた。

部下達もまたその後に続く。

ただその光景を見送るエレノアを最後に振り返り、リヒトは昔の事を思い出していた。




行方不明になったアカネを探し最後の希望であるこの世界に来たリヒトは盗賊団に保護された。

地球とこの世界を繋ぐ時空の歪みと遭遇するまでに3年かかっていたが、その執念を気に入った団長により盗賊団への同行を許された。

そこで"鎧"の制御AIへの適性が判明し、元々身に付けていた剣術を最大限に活かす事が出来た。

そこで更に2年が過ぎた、今から30年前の事だった。


あの日、リヒトはまだ8歳だったエクスシアに敗北した。

エクスシアの振り回す巨大な剣は重く、それまで数多の"鎧"や"魚"を両断してきたリヒトも一方的に捩じ伏せられてしまった。

いや、リヒトだけではなく盗賊団が全滅してしまったのだ。


「いやいや、よくもまあこんな……街に入れない私でも知っているぞ、こいつらは最近じゃ国に一番警戒されてるって」

アジトにしていた廃墟の屋根の上に腰かけた鰭も尾も無い奇妙な"魚"が声をかける。

「わざわざ私を下して仲間にした意味が無かったな」

「ばーか、お前がいたから奇襲できたんだろ。

しかしなー……軍隊や民間人に奇襲するのは得意なようだけど、単機で奇襲される側になるなんて想定していなかったか」

リヒト達を蹂躙した"鎧"から少女の声が──エクスシアが"魚"に答える。

そして、

「エンヴィー、そこの白い奴くらいか?」

「同意だな」

リヒトは2人が自分の事を言っていると理解した。

「おい、お前。

私達はこのまま大砂漠を横断する……使える奴が欲しい。

このままここにいれば王国軍に捕まるが、私達についてくれば逃げられる。

壊れた"鎧"は……まあいい、私の予備の"鎧"を使わせてやる。

来るか来ないか、今すぐ決めろ」

「……何故、敗北者を生かそうとする?」

リヒトは問う。

「とどめも刺せないのか?

そんな甘さで──」

「逆に問う。

何故、敗者が勝者に命令する権利があると思う?」

エクスシアはリヒトへと言い放つ。

「決闘でもあるまいし、敗者の尊厳などどうでも良いだろう?

それとも、今から力強くで言う事を聞かせようって?」

「行け」

団長が口を挟んだ。

「どうせここにいたら捕まって死罪だ。

だったら生き残れるチャンスを無駄にするな」

「……世話になった」

リヒトは大破した"鎧"から這い出し、エクスシアの"鎧"の前に立った。

「恩人の命令だ、ついて行く事にする」

「よし、王国軍が来る前に逃げるぞ」




そして、現在。


リヒト達はイリエニアへ続く最後の崖を見下ろした。

「この先がイリエニアだ」

リヒトは部下を止める。

「交渉の余地がある……私が先に行く。

合図があるか私が死ぬまで待機、もし死んだら指揮権は各大隊長に譲渡する」

そう指示を出し、リヒトはひとりで崖に飛び降りた。


崖の先、海まで広がる平原にその街はあった。

イリエニア──"鰭無し"達が人や"魚"から逃れる為に造ったその街の前に、1匹の"鰭無し"が立っている。

「エンヴィー……」

リヒトはかつての仲間の名を口にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ