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IRON TALE  作者: 貫井べる
13/41

11話

グレンは斜面に貼り付くように身を隠し、遥か彼方の平原を駆ける2台のトレーラーを見つけた。

「旅人か、偵察か……あの数では判別がつかない。

射程距離に入ったら──」

グレンは飛んできた弾丸を避け損ね、治療したばかりの右目に直撃を受けた。

「チクショウ!あんな距離から当てやがった!」

「グレンさん、ここは撤退しましょ。

一番射程長いグレンさんが怪我したんじゃもっと近付くまで反撃もできませんし」



「何したんですか」

隣のトレーラーの荷台からいきなり銃弾を放ったサクラへとユキは問う。

「いや、見覚えのある"魚"が見えまして」

サクラは静かに答えた。




11話 再会──上




アリシア達は岩の転がる荒野を慎重に進んでいた。

「ここで待とう」

リターナの指示で"鰭無し"達が止まる。

「グレン殿からの連絡によれば、敵は峡谷を避けて平地からイリエニアを目指すコースらしい」


そんな彼らの様子をサクラは望遠カメラの映像でしっかり見ていた。

「思いきり待ち伏せしてますね……まだこちらに気付いていないようですが、それでもしっかり隠れています。

私の射程内ギリギリでうまくかわしていきましょう」


「あ、見えました、トレーラーが2台です。

本当に2台だけなので"ヒーロー"クラスなんですかね」

監視役の"鰭無し"がサクラ達を見つけた。

「でもだめですね、バレてます。

しかも迂回するってトレーラーの上の"鎧"が合図出してます。

それとアリシアさん、シュライク王国の"鎧"みたいなので訊きますけど、グレーの軽装甲の狙撃手で少人数でも動ける人っていましたか?」

「あー……すごく嫌な人がいましたね……」

アリシアは短剣を力一杯に真上へと投げ上げた。

短剣は数秒間空中を舞い、落下していたところで飛んできた弾丸に弾き飛ばされた。


撃ったサクラは望遠カメラで様子を伺っていた。

「今は何で撃った?」

「なんか短剣を投げていたので、射程確認かと思いまして」

アグニの問いにサクラは雑な答えを返す。

「でも相手もよく頭が回るみたいですね。

居場所がバレてる事を理解したうえで試してきたのって、こちらの絶対的なアドバンテージを理解してる事を伝えてきてる訳ですよね」

ユキはそう言うが、数秒考えてから付け加える。

「何も考えていなかったとかが無ければ、ですが」

「何も考えていなかった方が、戦うにしても戦わないにしても楽ですね。

停戦交渉は苦手ですよ」

面倒くさそうにサクラは望遠カメラの映像を見る。

「面倒な事になりそうですけど。

1匹出てきました」

サクラはそちらにライフルを向けたままユキに告げる。

「私の注意を引くつもりかもしれません。

周囲の警戒をお願いしても?」

「構いませんよ」

ユキのトレーラーの荷台の屋根が開き、彼女の"鎧"がせり上がってくる。

「もし周りから奇襲されたら?」

「奇襲される前でも気付いたら撃っていいですよ」


アリシアは見張りの"鰭無し"に言われた方向へ走り続けた。

既に遠くに見えるそれが2台のトレーラーだと視認できる距離であり、叫べば声が聞こえるのではないかと思えて──

そこまで考えた時、トレーラーとアリシアの間の地面に弾丸が撃ち込まれた。

「聞こえますか!」

微かに声が聞こえる。

「聞こえたら返事をしてください!

今の着弾した距離より近付いたら撃ちます!」

「聞こえています!」

アリシアは返事を返すが、聞こえていないようだ。

「聞こえますか!」

問いが繰り返される。

アリシアは大きく両手を振りながら更に近付いていった。

「聞こえています!」

「そこで止まってください!」

この距離ならはっきり聞こえる。

アリシアは立ち止まり、そして訊いた。

「シュライク王国のサクラさんですか!」

「そうです!ヴァルナ帝国軍ではありません!」

サクラの声はしっかりと返事を返してくる。

「イリエニアに用事があります!

戦うつもりはありません!」

「あの、私、アルガレイドにいたアリシアと申します!

少し近付いて話をしてもいいですか!」

アリシアのその質問に、サクラからの返事はすぐ返ってこなかった。


黙ってしまったサクラへアグニが問う。

「知り合いか?」

「いえ、思い出そうとしてますけど……」

そう答えるサクラに"鎧"のAIであるヴェスパインが助け船を出した。

「2年前ツェープラと"ボーダーユニオン"の話をしていた時、"聖帝"の話をしてきた女の子がいただろう?」

「いましたね……あの子ですか。

人が"魚"になるって、やっと実感できました」


見張りの"鰭無し"は見ている光景をそのまま報告していた。

「アリシア様が停止。

戦闘の合図は無しです」

「そう……理由はわからないけど、不利な戦いを避けられるならそれでいい」

リターナは冷静に答える。

「判断は彼女に任せている」

「トレーラー、アリシア様の前方数百メートルを通過します。

あ、アリシア様が動きました、並走するようです」


アリシアはサクラに指示され、トレーラーの横100メートル程まで近付いた。

「どうして貴女がここにいるのですか?」

ライフルを構えたままサクラが問う。

「アルガレイドは僅かな避難民以外に生存者はいないと思っていましたが……」

「……それはどういう意味ですか?」

アリシアは僅かに意識を腰の短剣へ向ける。

「まさか、王国軍が鎮圧に──」

「その予定だったのは事実ですが、王国軍の到着時には壊滅していました」

正直に説明するサクラ。

「トライサード・アスラの仕業です……私も襲われました。

後にヴァルナ帝国より『複数の街がリヴィア王国に制圧されていた』と説明されましたが、貴女の姿を見てその意味を理解しました。

アリシアさん、"聖帝"様はリヴィア王国の人だったのではないですか?」

「……リヴィア王国、第3騎士、スティグマ・シャルルエル。

それが"聖帝"様の本来のもうひとつの立場です」

アリシアは正直に答えた。

「でも、街で起きた暴動は"聖帝"様の意思ではありません。

"聖帝"様はお屋敷に我々を匿ってくれました。

それに、この身体も……"聖帝"様は前々から仰っていました。

人はいずれ"魚"に成り、やがては"竜"に至る……自然の摂理を恐れてはならない、と」

「なるほど、ここに貴女がいる理由はわかりました。

それで、私達はイリエニアを目指していますが通っても良いでしょうか」

サクラの言葉はアリシアにこれ以上の用は無い事を告げていた。

「戦わずに済むなら通っていただけた方が良いですね」

アリシアもサクラの意図を察していた。

「これからヴァルナ帝国軍が来る筈なので、早めに離れてください」

そう話し、アリシアは走る速度を落としてサクラ達から離れていった。


「で、どう見ますか」

サクラはアグニに問う。

「お前、わかってて本人が離れてから訊いたろ」

アグニはサクラと考えが一致している事を確信する。

「たぶん布教活動による支配がメインで、暴動は起きても起きなくても関係無い。

それから、これはまた別の話だが……"鰭無し"は普通は記憶か理性を失う。

記憶が残っていても理性を失えば滅茶苦茶に暴れるし、理性が残っていても記憶が無ければ"魚"として生きるしか無い。

だが、今のは……」

「記憶も理性もありましたね」

ユキが口を挟んだ。

「王都で遭遇した"鰭無し"は記憶がありました……私の知人でしたが、明らかにまともな状態ではありませんでした。

しかし、今の"鰭無し"は過去の出来事を冷静に話していました」

「そこなんだよ。

私が今まで見てきた中には存在しなかった奴だ……出現する確率、めちゃくちゃ低いんじゃないかって思う。

それがこんな場所にいるって事は、"聖帝"の目的とは無関係な偶発的な存在。

"聖帝"はそれが生まれるほどの数の"鰭無し"を生み出しているんじゃないのか?」

「それをシュライク王国内で……なるほど、ヴァルナ帝国がリヴィア王国と戦う時に背後から襲えますね。

とてもシンプルな挟撃作戦です」

サクラは"聖帝"の作戦を正確に見抜いた。

「ちなみにアグニさん、ジッド国王は"鰭無し"についてどこまでご存知ですか?」

「ヴァルナ帝国のルスタッドで生まれた"半魚人"が25年前に帝都を半壊させた事も、そいつが"鰭無し"を含む"魚"を操る能力を持っている事も、そいつの名前がスティグマだって事もだ」

アグニはそこまで口にし、そして気付いた。

「あとそれから今思い出したんだが、この間話した共同研究の話を持ちかけてきたやつ……そいつもスティグマって名乗ってたな」

「つまり、色々な事を研究し尽くして効率的に配下を増やしている可能性がありますね。

そして"魚"を人に戻す方法も知っているかもしれない……」

ユキも状況を理解していた。

「どうでしょうか、イリエニアには研究資料があると思いますか?」

そう問うユキは、"聖帝"本人を探しにシュライク王国へ戻る気は無さそうだった。




サクラ達が平原を通過した少し後の事。


進軍中のヴァルナ帝国軍へ、岩場から飛び出した"鰭無し"達が襲いかかった。

しかし帝国軍は隊列を維持したまま急停止し、先頭の純白の"鎧"以外は一斉に膝を突いた。

その異様な光景に"鰭無し"達が気圧されて立ち止まる。

「リヴィア王国軍とお見受けする」

純白の"鎧"から声が響く。

「私はヴァルナ帝国軍、第1師団長の神楽坂リヒトと申す」

「これはご丁寧に……しかし師団長殿が先陣を切るとは、素人の集団ですかな?」

リターナも"鰭無し"達の先頭に出てきた。

「それでも名乗らねば礼を失するというもの。

私はリヴィア王国第7騎士、リターナ・オルトレイト」

リターナは剣を抜き、リヒトへ向ける。

「しかしこの状況にはしてやられました。

一切の攻撃行動を取らず奇襲を止められてしまうとは」

「相手の心理を利用する事は、敵味方を問わず被害を減らす事に繋がる。

何しろこちらは屠殺に来た訳では無いのでな」

リヒトは腰の太刀に触れようともしない。

「交渉でもするつもりですか?」

「まさか、戦いに来たのだよ」

リターナもリヒトもゆっくり歩き出す。

そして『パチン』と、リターナの背後でリヒトが太刀を鞘に納めた。

リターナの剣が折れ、その目の前に地面が落ちてきて──

リターナの首が、地面に転がった。

「──え?」

"鰭無し"達は誰もリヒトが太刀を抜いたところも踏み込んだところも見ていない。

いや、見ていた筈なのに認識できていない。

歩いていた筈のリヒトはお互いの剣同士がぎりぎり届かないくらいの距離から一瞬でリターナの背後まで移動しており、リターナだけが死んでいた。

「う、うわあああああ!」

やっと状況を理解した"鰭無し"の1匹が短剣を投げ付ける。

リヒトは太刀を抜いてその短剣を弾き、そして投げた側の"鰭無し"の背後で太刀を鞘に納める。

「必要以上には殺さないが、見せしめの必要性がある」

斬られた"鰭無し"の首が落ちる。

「死にたくない者はすぐに引け」

リヒトの部下達は前方の数列が立ち上がり剣を抜き前進し始めた。

"鰭無し"達は逃げ出す者と立ち向かおうとする者とが入り交じり混乱に陥る。

そんな中、アリシアはリヒトを無視して部下達へと斬り込んだ。

しかし1機の"鎧"の腕を切断したところで背後から刺されてしまう。

それでもアリシアは片膝を突いた体勢で耐え、両手の短剣は手放さない。

「止まれ!」

リヒトの命令で部下達が攻撃を中断し、思わず"鰭無し"達も立ち止まる。

「……貴殿の太刀筋、敵を前にして殺さないつもりだったな?」

「それが……どうかしましたか……」

アリシアは歩み寄るリヒトを睨み付ける。

「それでいて未だに攻撃の意思は消えていないと見た。

"魚"になっても人は殺せず、かといって戦う覚悟が無い訳ではない……エンヴィーと同じか」

リヒトが口にした名をアリシアも知っていた。

「王を……ご存知ですか……」

「古い仲だ……共に旅をした。

だが、昔の話だ」

リヒトは太刀を抜き、アリシアに向けた。

「何故、戦う?」

「"聖帝"様の為に……!」

アリシアは刺さっていた太刀を引き抜くように飛び出し、リヒトに剣を──


その時、突然飛び出してきたサクラがアリシアを蹴り飛ばし、リヒトの太刀が空を切った。

「何者だ」

先程までアリシアが立っていた場所で太刀を鞘に納め、リヒトはそう問う。

「ただ、この子と話した事があるだけの通行人です」

サクラはそう答え、そしてリヒトに問いを返した。

「この子の首、私が預かっても良いですか?」


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