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IRON TALE  作者: 貫井べる
12/41

10話

さあ、いよいよ決勝だ。

ツバサは先の準決勝で限界を迎えた"アイビス"をテーブルの上に残し、自分の──いや、自分達の代名詞になった"レイヴン"を手にした。


リトルヒーローズカップ──10cm程度の小型ロボット同士による格闘競技大会。

2年に1度の世界大会も、ツバサが日本大会の1回戦でMIOに惨敗したあの日の2年後から6回目の参加だ。

そのMIOとは4年前の準決勝以来の再戦となり、決勝を目前に切り札の"アイビス"を使う羽目になった。

限界まで軽量化した"アイビス"は1試合の3分だけ持てば上出来という機体だが、おかげで今回も決勝へと勝ち進めたので良しとするしかない。


決勝のステージに向かうツバサへと、仲間達が声をかける。

「ツバサ、今度こそ勝てよ」

「犬飼……お前はカエデの3連覇を応援する側だろ?」

ツバサは長年の相方へとそう返す。

「それでも応援しに来たんだろ?」

「火向さん……もし勝ったら今度こそ本気で相手してくださいね」

元世界2位でここ数年はリーダーのツバサに配慮している仲間へ、ツバサはそうお願いする。

「それは勝ってから言う事だろ?

言ったからには勝てよな」

「氷室さんも、お願いしますね」

かつてはツバサ以上に世界一を期待されていた仲間にもツバサは告げる。

「おい、烏丸ツバサ」

そう声をかけてきたのは神楽坂リカ。

彼女とツバサ達の敵対関係はもう10年以上になる。

最初に会った頃には既に工作機械で怪我をしていた4本指の左手には、ついこの間産まれたばかりの息子を抱いている。

「前回も、その前も言ったな。

私はまだお前と公式戦で戦っていない。

お前が世界一になってもまだ負けは認めないからな」

「ええ、いずれ大会で試合する日を楽しみにしています」

ツバサは正直にそう口にする。

全米最強タッグの片割れにして日本でも上位の選手である彼女との公式な試合はツバサも楽しみにし続けていたのだ。


舞台袖でツバサは静かに目を閉じる。

これが6度目の世界大会で、3度目の決勝戦。

前回も前々回も幼馴染みであるカエデに敗北した。

「『お前が王だと証明しろ』、か……」

ツバサはカエデの言葉を口にする。

カエデはツバサが世界一になる事を夢見てツバサの進む道を切り開き、結果としてツバサの最大の壁にまで成長してしまった。

だからこそツバサは今度こそ勝たなければいけないのだ。


……


静かすぎる。

それに、空気が熱く砂ぼこりの臭いがする。

その違和感に、ツバサは目を開ける。


そこは砂漠のど真ん中で、ツバサが立つべき決勝の舞台はどこにも存在しなかった。




10話 敗れた羽




ヴァルナ帝国の第2師団は国境を超え、リヴィア王国の王都であるイリエニアの近くで4つの部隊に別れた。


王都であり王国内で唯一の街であるイリエニアは海に面した街であるが、同時に山にも囲まれた天然の巨大な城塞でもある。

その突入ルートは限られ、王国の9人の騎士のうち防衛に残った4人を分散させるのがツバサの役割だった。




グレンは斜面に貼り付くように身を隠し、遥か彼方の平原を駆ける"鎧"の一団を見つけた。

「数は500前後……やっぱり別れてきたな」

「グレンさん、よく見つけられますね」

仲間の"鰭無し"が感心する。

グレンはサクラに撃たれた利き目の治療を終えたばかりなのだ。

「それで本当に騎士の座を降りたんですか?」

「本当に『それで』で済むならすぐ戻れるだろうよ」

グレンはそう言うと息を大きく吸い、水の塊を高速で吐き出した。



峡谷の入り口でタケゾウは敵を待ち構えていた。

「峡谷に生身の人間……罠を疑うのが当然だ」

タケゾウは向かってくる"鎧"を見据える。

「誰も私自身を警戒しない……周りばかり見る。

そして人は鉄を穿てないからこそ、尚更油断する」

先頭の"鎧"が通り過ぎる瞬間、タケゾウはその脚に触れた。

「だが、"鎧"の中の己が生身と忘れてはならない」

先頭の"鎧"が転倒し、後続の"鎧"が止まりきれずに激突する。

「止まれ!」

「先頭が詰まった!」

指示が飛び交い進攻が止まった。

「先頭が転倒し、そこに──」

前方から報告をしていた兵が"鎧"のコックピットで急に血を吐く。

「何が起きているんだ!」

指揮官が問うが現場は混乱している。

「一旦撤退だ!

撤退して様子を見るぞ!」

その指示で"鎧"の大群は一気に撤退していった。



リターナとアリシアは"鰭無し"の軍勢を引き連れて"鎧"の大群へと斬り込んでいた。

「へぇ、"完全適合者"が強いって本当なんだね」

リターナは"鎧"の胴体を両断しながら感心する。

「それはどうも……」

アリシアは両手の短剣で"鎧"の手足を手際よく切断する。

「でも理性も記憶も人のままなんでしょ?

人が相手で大丈夫?」

リターナは振り向き様に更に2台の"鎧"を両断する。

「"聖帝"様の敵です……問題はありません」

アリシアは次の"鎧"のカメラアイを潰し、バックパック下部の電源ラインに短剣を突き刺し切断する。

「そうか、スティグマ殿の信者か……それは心強いや。

でもさ、さっきから誰も殺していないよね?」

リターナのその指摘にもアリシアは動じなかった。

「だから大丈夫なんです」

「そうか。でも──」

突然、リターナはアリシアが行動不能にしていた"鎧"を両断した。

「それを僕は『大丈夫』と言わない」

「はい、『だから大丈夫』だとエレノア様から聞いております」

自分が殺せなかった人間をリターナに殺されてもアリシアはただ目の前の"鎧"を行動不能にし続けていた。

「初陣で殺しは無理だから手足を削いでリターナ様に任せろ、と」

「僕は聞いてないよそんなの」

「言ってないとも聞いております」

「これだから師匠は……」

そうは言うものの、リターナはアリシアを高く評価していた。

街ごとの守備隊とは異なり、皇帝直属の4つの師団へ抜擢される兵は単独で並みの"魚"を食い止める実力者ばかりだ。

奇襲で斬り込んで陣形を崩したところで、百倍以上の軍勢との混戦となれば相応の実力が無ければすぐに死んでいるだろう。

それにアリシアは敵を殺せないとはいえ確実に戦闘不能にしているし、それを仲間に殺されても動揺しないなら邪魔にもならない。

リターナはそんな事を考えながら、尚も敵の"鎧"を両断した。



各大隊からの情報を聞き、ツバサは指示を出していた。

「突入はせず、相手からの攻撃が止まる場所まで撤退。

敵を引き付けつつ、それぞれ敵の戦力を第1師団へ直接報告しろ」

「この結果をどう見ます?」

「どうもこうも、被害が大きい。

狙撃による奇襲は第4騎士の仕業、こっちの混戦は第1……いや、これだけ数を揃えてきたなら第8騎士だろう」

参謀とツバサは状況を整理する。

グレンが第4騎士の座を降りた事は知らないツバサ達だが、戦況の分析には影響は無い。

「北の峡谷は現場でも何が起きたかわかっていないようだが、"鎧"が破壊されず操縦者だけが死んでいる事は確かなようだ。

毒ガス対策が必要かもしれないな」

ツバサのその読みは外れていた。

タケゾウは武術の達人で"鎧"の内側まで届く衝撃で操縦者の肉体へダメージを与えていたのだが、そんな事は予想できないだろう。

「……と、言う事は」

先頭を走るツバサは左手を水平に挙げ、急停止した。

後続の"鎧"も止まる。


そこはイリエニアを囲う山岳地帯の、3つある突入ルートから外れた山の上。

ここまで登ってきたツバサ達が降りようとしていた急勾配の斜面に、その女性は立っていた。


「第1騎士、エレノア・ガーネットだな?」

ツバサが問う。

「あら、先頭が指揮官ですか?」

エレノアも問いを返す。

「ああ、ヴァルナ帝国軍、第2師団長の烏丸ツバサだ」

ツバサは左右の銃を抜いた。

黒染めされた銃剣は太陽の光さえ反射しない。

「1人とは思わなかった」

「このくらいのハンデが無ければ楽しめませんからね」

エレノアも太刀を抜き、鞘を斜面に投げ捨てる。

その刀身が赤く染まり、周囲の景色が揺れ始めた。

「熱を帯びるか……切れ味は良さそうだな」

ツバサはコックピット内で口に出さずに味方への指示を送る。

「それからハンデとか抜かしたのは嘘だろ?

1人相手に混戦になればこっちは味方が邪魔で銃を使えない。

おまけにこの地形、下を覗ける最前列しか状況を把握できない」

ツバサの"鎧"が斜面へ向かって傾く。

「上等だ」

ツバサは地を蹴り、エレノアがいた場所へと銃剣を叩き付けていた。

「速いな」

「速いですね」

ツバサの最初の一撃を回避したエレノアは既に斜面の上へ向かって駆け出している。

しかしそのエレノアへと無数の円筒形の物体が投下された。

円筒が破裂し高温の蒸気と破片が飛び散るが、エレノアは跳び上がり回避する。

その空中のエレノア目掛けツバサの部下達が次々と飛び降りてきた。

「そう来ましたか」

エレノアは最前列の銃剣を構える"鎧"達ではなく、その後方の無数の銃口を見据える。

彼らは味方がいても構わず撃てるどころか、むしろ味方が足止めした相手を精密に狙い撃てるという事なのだろう。

ならば突っ込んできた連中を切り伏せて弾丸も避ければ良い──エレノアがそう考えながら着地した瞬間、足元が滑った。

先程の円筒の破裂の衝撃で斜面の表面が弛んだのだ。

銃弾の回避はできない──そう判断したエレノアは太刀の向きを変え、振り下ろされた銃剣へと峰打ちをぶつけた。

身体の軽いエレノアだけが弾き飛ばされ、彼女を狙った弾丸は斜面を抉る。

「そんなに切れるのかよ」

エレノアの着地する場所へとツバサが先回りしていた。

彼はエレノアが峰で防御した事を見逃さず、その太刀の切れ味を予想していた。

ツバサが銃剣を突き出し、エレノアはその銃剣を払うように太刀を振るい、一瞬早くツバサが銃剣を引き、エレノアの太刀は本来なら切断していた銃剣の先端部を弾き飛ばすかのようにその軌道を反転させる。

そのままツバサへと激突しかけたエレノアだったが、ツバサの"鎧"の頭を踏み台に飛び越えた。

ツバサはすぐに跳躍して後方へ回転し、着地したエレノアを飛び越え、ツバサがいた筈の場所を振り返った彼女の視界から消える。

そこからツバサはエレノアの首と足元を狙って左右の銃剣で同時に凪ぎ払うが、エレノアはそれを見もせずに屈みながら低く跳んで回避し、更に空中で振り返りながら太刀を水平に振り抜く。

その太刀の側面を踏み台にツバサは跳び上がり、上空で引き金を引いた。

エレノアは弾丸を太刀で弾きながら斜面の下へと跳ぶ。

「ハンデは不要でしたね」

「今更だな」

着地したツバサの背後に彼の部下達が整列する。

「投降するか?」

「……部下を止めましたね」

エレノアはツバサが部下達ではエレノアに勝てないと判断した事を見抜いた。

彼女もまたその力量差を把握しており、ツバサが止めなければ確実に返り討ちにするつもりでいた。

「かといって貴方が一騎討ちを挑む度胸も無いのですね」

「当然だろ。

こっちはか弱い人間なんだよ」

ツバサの背後で部下達が引き金を引く。

無数の弾丸を避けるようにエレノアは跳び上がり、そのエレノアを狙ってツバサも斜面を飛び降りた。

ツバサは右の銃剣を突き出し、エレノアはその銃剣を切り落とそうと太刀を振るい、ツバサが手首を捻って銃剣で太刀の側面を弾き、エレノアが太刀の柄でツバサの左手首を弾き、更にエレノアはツバサの胴体を蹴り上げて自分だけ先に地面へ向けて弾き飛ばした。

着地の直前にエレノアは岩盤に切れ目を入れ、殆ど激突と言えるほどの激しい着地の衝撃でその岩盤が割れて飛び散る。

更にその飛び散った岩をエレノアは蹴り上げた。

「今更下らない──」

飛んできた岩をツバサは両断したが、ほんの一瞬だけ視界が隠されていた間にエレノアの姿が消えていた。

エレノアはツバサが両断した岩の片側に貼り付くように飛び上がっており、ツバサの頭上からその太刀を──




ヴァルナ帝国軍、第1師団。

第2師団の後から侵攻していた彼らの元へとツバサの敗北は伝えられた。


「何だと!!それで、ツバサ殿は!!」

師団長のリヒトはその報せに動揺していた。

彼は異世界にいた頃から烏丸ツバサという人物を高く評価していたからだ。

「師団長は意識不明の状態で、帝国領へ向けて退却中です」

「そうか……」

リヒトは考える。

何故、殺さなかったのか。

「……師団長が重体となれば、治療の為に撤退する。

おまけに行方不明になる場合とは異なり、確実に敗北を報せる事ができる」

「我々はどうしますか?」

「予定変更だ」

部下の問いに、リヒトは迷わず答えた。

「王国騎士達が散開した隙に王都を叩く予定だったが、間に合えば良いのだろう?

奴等がツバサ殿にした事の意味、"魚"共に教えてやる」



ヴァルナ帝国軍、第1師団長、神楽坂リヒト。

烏丸ツバサのかつての宿敵の息子は、この世界の誰よりも烏丸ツバサという存在を信奉していた。


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