殺すしか無い
星降る丘には既に星が降り始めていた。
地上に落ちた星はコロコロと転がってスッと大地に吸い込まれて行く。コロコロ転がっている時に星を拾うと星は優しい光で周りを照らしてくれる。手から離せば大地に消えてゆく。
アストリットは楽しそうに転がる星を追いかけて拾っていた。
拾った星をロッシュのそばに持って行くと驚く事がおきた。ロッシュがその星を触るとその星がはじけて小さな小さな星になりロッシュがフーと息を吹きかけると空に帰っていった。
アストリットはそれをみて大興奮して沢山拾い集めてロッシュの元に持ってきた。
ロッシュはそんなアストリットが可愛いと思った。
一気に星にするとオーロラのように小さな星が揺れて綺麗だ。アストリットはその様子を見て喜んでいた。
「ロッシュ様どうしてロッシュ様が触るとそうなるのでしょうか?」
アストリットは不思議そうな顔をしてロッシュに聞いた。
「僕が魔法使いだから。この星降る丘は魔法でも闇の魔法が濃いんだ。僕は闇の魔法が強いから死んでいった星をもう一度よみがえらせる事が出来るんだ」
アストリットはあの日ロッシュが闇に取り込まれる姿をみた。
魔力が強い魔法使いは常に闇と隣り合わせなんだと知った。
「ロッシュ様、私はさっき沢山星を拾って来てしまいましたが嫌では無かったでしょうか。。」
アストリットは心配になった。ロッシュの負担になったかもしれない。
「アストリット心配しなくていいよ。なんでもないことだし、何よりアストリットがあんなに嬉しそうな顔見たのは久しぶりだったから」
そう言ってロッシュは落ちて来た星をアストリットに渡した。アストリットはその星を受け取るとその星が輝く星の砂に変わった。アストリットは手のひらからその星の砂を少しづつ地面に落として行った。
落ちた場所がキラキラと光っている。
「うわー綺麗です」アストリットはとびきりの笑顔でロッシュを見た。ロッシュはうなづいて返事をした。
「アストリット、少し歩こうか?」
ロッシュはそう言って手を出した。戸惑うアストリットに
「人が多くなったから離れないように」と言ってアストリットの手を握って歩き出した。
アストリットはドキドキした。あのロッシュと手を繋いで歩くなんて夢なのかと思った。
ロッシュは女性からすごくモテていてお姫様や令嬢から庶民までファンクラブがあるほど女性の憧れの存在だ。
類い稀な力もあり完璧な男性だと言われている。例外なくアストリットもロッシュに憧れていたが、自分が相手にされていないことくらい知っていた。
だけど今日は奇跡が起きた。一緒に星降る丘に来て今手を繋いで歩いているのだ。
これは夢だと思った。
そう、殺される前の夢。
神様は残酷だ。どうせ殺されるのにどうしてこんな夢を見させるのだろう。嬉しい気持ちが大きいほど絶望はもっと大きい。それを耐えたところで結局殺されて死んでしまうのだ。
でもどうせ殺されるならロッシュがいい。アストリットは少しだけ泣きそうになった。
「アストリット、」
突然ロッシュに話しかけられてアストリットは焦ったが平然を装った。
「はい。」
「僕は昔ここの闇に、、沼に飛び込んだ事があるんだ」
ロッシュはあの時の事を話し始めた。
「僕は子供の頃自分の魔力をコントロール出来なくて何度も暴走させて人に怖がられていたんだ。だから友達もいなくて一人で過ごしていたんだ。だけど星降際の時、この闇にのまれて心を失くした魔法使いになろうと決めてこの星の沼に飛び込んだ。星の沼に入ると闇が色々な意識を奪って行くんだ。
少しずつ意識を奪われて最後には空になるんだけどその寸前で助けられた。誰なのかわからないけど僕はその人の言葉に救われた。なんて言われたのかも覚えていないけど光が届いたんだ。その後何度もここに来たけど会えなかった。でもいつも感謝しているんだ。今僕がいるのもその人のおかげなんだ」
ロッシュは真っ直ぐに前を向いて話してくれた。
アストリットはもう死んでもいいと思った。
ロッシュの心にあの日の自分が生き続けていた事を知りこれ以上望むことはないと思った。自分が殺されてもあの日のことがロッシュを支えているのならなんの悔いもない。
しかも今日は手も繋いでもらえたのだから。
ロッシュが突然止まった。
アストリットの周りの空気が一瞬歪んだような嫌な感じがした瞬間、ロッシュはアストリットを抱き寄せ瞬間移動をした。
気がつくと城に戻っていたがロッシュはアストリットを抱きしめたまま何か気配を追っているようなそんな魔力を感じた。アストリットはそのままロッシュの腕の中で動かないでいた。
少ししてロッシュは腕の力を抜いてアストリットを見た。
「アストリットすまない,。大丈夫?」アストリットはうなづいた。
「誰かが、白魔法を使ってアストリットの気配を探った。僕はすぐにアストリットの気配を消して攻撃をしたから魔法使いは死んだが、、少し気になる。追跡したらクライツラの城が見えた。もしかしてアストリットを探しているのかもしれない。」
アストリットは言った。
「ロッシュ様、今日は本当にありがとうございました。とても楽しい思い出ーが作れました。こんな気持ちで死ねるなら後悔はありません。これ以上ロッシュ様にご迷惑をおかけできません。これ以上大変なことになる前にどうか私を殺してください。」
ロッシュはアストリットの本心を探るようにアストリットを見つめた。
アストリットは目をそらさずロッシュを見つめた。
「わかった。」
ロッシュはアストリットの手を引っ張り城の広間に連れてゆき、サッと人差し指を動かして魔法陣を描いた。
魔法陣は床に浮かび上がった。
アストリットをその魔法陣の中心に連れて行った。
アストリットは魔法陣の中で両膝をついて胸の前で左右の指を交差させ何かを祈りロッシュを見てお願いしますというように微笑んだ。
ロッシュは何をしているんだ!という自分と、これ以上アストリットに関わってはいけない、今すぐ殺すんだ!という自分が何度も入れ替わっている。
苦しまず瞬時に死ねるように魔法陣を描きその中にアストリットを連れて行った。
これでいいんだ。まだアストリットの事を知らない、知らないから今殺せば後悔なんて無い。
アストリットは生きていてもいずれ誰かに殺される。それなら自分が殺してあげれば苦しまず殺せる。それが一番いいんだ。
ロッシュはアストリットを殺すことにした。
そしてアストリットを見た。アストリットはロッシュを見て微笑んだ。
あの日と同じ笑顔で。
そしてゆっくり目を瞑った。あとはロッシュが魔法を唱えるだけだ。
ロッシュは氷の魔法を使おうと決めていた。一瞬で血液を凍らせ心臓を止める。苦しまず死ねるのと、死んだ後も綺麗なままの姿でいられる。