真実
ロッシュは城に戻ってアストリットの言ったことを思い出していた。何度も関わらないでと言った。マルクスが生きていた時と今、何が違うのだろう?あの頃のアストリットはよく笑う明るい子だった。ただやはりいつも顔を隠していた。あんな綺麗な顔なのに。アストリットはいつマルクスのところにきたんだろう、、、。
ロッシュがマルクスに出会う前からいたと思う。あの頃はマルクスには妻と子供がいて、アストリットを見かけた事はあったが話すようになったのはマルクスの妻子が亡くなって以降だ。アストリットに再会した時頑なにロッシュを拒否していた。でもロッシュにはアストリットが頑なに拒否するほどアストリットとの思い出がない。
忘れていたくらいなのにアストリットは探される事をまるでわかっていたように姿を隠していた。上級魔法を一度に二種類使って探さないと見つけられないほど。そこまでする必要はどこにあるんだろう?ロッシュは全く検討がつかなかった。
ただ、アストリットがマルクスと同等の力があるリルケを創れる人ならロッシュはアストリットを保護しなければいけない。またマルクスのように狙われて殺されてしまうかもしれない。だけどアストリットはそれすら教えてくれない。
どんな方法かわからないが上級なリルケが届く。しかもゴールドやシルバーだ。どんな魔法にも使える唯一無二のリルケ。マルクスでさえ創れないものだ。恐らくロッシュがどんなものが欲しいのかわからないからどんな魔法でも使えるようにと送ってくるのだ。特別なリルケは創る人間に強烈な負担をかける。だけどこんな短期間に送ってくるとは。
アストリットがもしあのリルケを作っているのなら尚更なぜアストリットは自分が創ったと言わないんだろう?アストリットは何か人に言えない秘密を抱えているのだろうか?ロッシュはいくら考えても答えが見つからなかった。ただ、あの時、「私は自分の顔が嫌いなんです。」そう言って下を向いたあの美しいアストリットをロッシュは忘れられなかった。
クライツラ王国のシュトルム王と、ゾーム帝国のガンガー皇帝が互いの国境付近で戦争を始めた。メーベルト一世はこの二つの国の戦争のきっかけを作るようにロッシュに命令をした。ロッシュは単純に国境ににらみあっている二カ国に対しお互いを攻撃させてように見せて両国の領地を爆破させた。それがきっかけとなって戦争が始まった。
メーベルト一世は一気にその機会を使って二カ国を攻めることも出来たがあえてせず注視して両国の潰し合いを待つ事にした。はじめはゾーム帝国が優勢であったが、クライツラ王国のシュトルム王は白魔法が使える魔法使いを多く抱えていたので兵士達の供給が完璧だった。負傷してもすぐに治療して前線に戻ってくるので段々とその差がついてゾーム帝国が劣勢に変わった。とうとうクライツラ王国はゾーム帝国を倒した。クライツラ王国は領土を拡大し多くの領民を手に入れた。戦争は領民が多いほど優勢になる。白魔法があるクライツラ王国は別名ゾンビの戦法と言われるようになるほど領民を何度も治して前線に送った。その領民の心は恐怖に満ち溢れていたが構う事なくシュトルム王は領民を送り続ける悪魔の王という異名を持っている。
メーベルト一世はシュトルム王の事を調べ始めた。三すくみが終わり二カ国同士の戦いにかわる。敵を徹底的に調べて戦う事は最も重要な事だ。メーベルト一世はロッシュ,テリウス、エーデルを招集しその結果を共有した。
シュトルム王には二人の子供がいる皇太子のマーク王子、第二王子のリカルド王子だ。この二人は母親が違う、正室の子は現皇太子のマークだ。どうやらこの王子同士は常にお互いを暗殺し合うような関係だった。
「おい、この国の王室はかなり歪んでいるな」テリウスが言った。「ああ、なんでも正室が嫉妬深く,側室には三人子供がいたらしいが二人殺され残りが今の第二王子らしい」メーベルト一世が資料を示しながら言った。「あの国は白魔法が中心なんだよね」白魔法使いのエーデルは気に入らない顔をしている。
「エーデル、シュトルム王が嫌いって顔だな」ロッシュが言った。「そうだよ、ロッシュ、同じ魔法使いとしてあの魔法の使い方はダメだと思うんだ。何度も治療して前線に送るって酷だよ」「ああ、傷は治ってもメンタルは崩壊してるよな」テリウスが言った。
「でも、実はあの国の王シュトルムには特別な力があって実子に受け継がれゆくらしい。受け継がれた子供が後継者になるらしいがおかしいんだ。」メーベルト一世は話を戻しながら資料を見せた。
「皇太子と、第二王子を見てくれ」三人はその資料を見た。「お、結構美形な顔だな」テリウスが言った。「いやそうじゃない」そう言ってシュトルム王の資料を並べた。「あれ?髪の色と目の色が違うな」エーデルが言った。
「そうだ、本来その能力を受け継いだ子供は王と同じ灰色の髪に薄いブルーの目じゃないといけないのだが、二人とも違うだろ?」メーベルト一世が指を指しながら言った。
「恐らくもう一人子供がいるはずだ。灰色の髪に薄いブルーの目を持った後継者が」
ロッシュは黙ってしまった。その人物を知っている。アストリットだ。