恋心
城に戻ったロッシュはアストリットの事をずっと考えていた。マルクスがいた頃はアストリットに嫌われている感じはしていなかったが、今は違う。あんなに頑なに関わらないで欲しいと言われるなんて。関わると良いことがないと断言されて、追い返されるなんて。女性にモテるロッシュはそんな扱いを受けた事がなかった。アストリットは何者なんだ?いつも長い前髪で顔を隠しているから本当の顔さえわからない。ロッシュは本当にアストリットの事を何も知らなかった。前から知っているはずのアストリットに興味を持つなんておかしいな。ロッシュは思った。
ロッシュは翌日もまたアストリットを探し出し会いに行った。アストリットは唖然としていた。二日連続で超自然魔法を解かれまた急に目の前に現れたロッシュを見てアストリットは無視する事にした。「アストリット!」ロッシュが笑顔で名前を呼んでくれたが、アストリットはロッシュを無視した。
まるでロッシュがいないようなふりをした。ロッシュにはまたそれが新鮮だった。「僕、女性に無視されるの初めてなんだ。なんかアストリットに再会してはじめてのことが多くて嬉しいな。」そう言って喜んでいる。その言葉を聞いたアストリットは笑ってしまった。が、気を取り直しまた無視をしていた。
アストリットはカゴを持って木の実を取りに行った。ロッシュは後をついてくる。ロッシュは楽しそうにアストリットの後をついてくる。「アストリット、どこまで行くの?」アストリットは無視している。「アストリットまだ怒っている?」アストリットは返事をしない。「アストリットって面白いね」
「私はロッシュ様とお話しをしていませんので面白くありません!!」つい話してしまった。「やっぱり面白いよ。あなたは。」ロッシュはそう言いながらアストリットの手からカゴを奪った。そして一瞬で木の実やフルーツをカゴいっぱいにしてアストリットに返した。アストリットはそれを見て怒り出した。
「ロッシュ様、こういうのはやめて下さい。私はロッシュ様に魔法を使ってほしくありません。。。何度も言ってきたのに。」「……アストリットは魔法使いが嫌い?僕はアストリットに喜んでほしくて、、」「ロッシュ様、魔法を使わなきゃ喜ばない人間が好きなんですか?私は違いますから!」アストリットはロッシュにカゴを突っ返し歩いて行ってしまった。ロッシュは立ち止まって考えた。みんな魔法を使うと喜んでくれるのにアストリットは違う。いアストリットは喜ばない。アストリットはどんな人間なんだ?
「きゃあ!」
アストリットの声が聞こえた。ロッシュは慌ててその場に行くとアストリットは池に落ちていた。「いたたた」どうやら池近くにあったりんごを取ろうとしバランスを崩して池に落ちたようだ。「アストリット大丈夫?」ロッシュは手を伸ばした。「すみません」アストリットはロッシュの手を掴んで池から上がってきた。アストリットの髪が濡れていていつも隠れていた顔が見えた。
薄いブルーの瞳が神秘的な光を放ち、顔立ちが美しくロッシュは驚いた。「アストリット、アストリットはこんな綺麗な顔をしているのに隠すなんてもったいないよ」アストリットは慌てて下を向き顔を隠した。「……あまり見せたくありません。この顔が嫌いですから。。。」「アストリット、君は綺麗だよ、そんな事を言ったらもったいないよ」アストリットは黙ってしまった。
ロッシュは改めてアストリットを見た。アストリットは灰色の髪に薄いブルーの瞳をしている。珍しい色だ。どこか気品を感じさせる顔立ちと、立ち振る舞い、もしかしてアストリットは貴族の生まれだったかもしれない。「アストリット?」ロッシュは黙ったままのアストリットに声をかけた。アストリットは下を向いたまま言った。「ロッシュ様もう帰って下さい。ロッシュ様は私に関わってはいけないのです。だからもうこないで下さい。」「アストリット、僕は女性にここまで、本当にここまで言われたのは初めてなんだ。アストリットは僕が嫌いなのか?」「好きとか嫌いとかじゃなくて、私とロッシュ様は友達にもなれないのです。全てが違いすぎて。だからもう関わらないで下さい。」「アストリット、君は捜索魔法を弾くほど姿隠したかった理由はなんなんだ?」アストリットは答えなかった。「わかった。」ロッシュはそう言って帰って行った。
アストリットはそのあと泣いた。ロッシュになんて酷い事を言ったんだろう。ロッシュの事を嫌いな訳がない。でもアストリットが唯一ロッシュのリルケを創れる人間でマルクスと同じようにロッシュが守る対象の人間として守ってもらっても、実際は敵国の人間でしかも王家の私生児だった。。そんなことロッシュやロッシュを信じている人たちの信頼を裏切るような行為が出来るわけがない。だからリルケを創れる事は言えない、絶対に言えない。言ったらロッシュはアストリットを守る。そうなったらいつか出生の秘密がいつかバレた時ロッシュに迷惑をかけてしまう。だからロッシュに嫌われた方がいい。自分のちっぽけな恋心なんて彼がやっていることに比べたらなんでもない事。