生と死のあいだ
ロッシュは魔法を発動させようとした。部屋の温度が急激に下がり始めあとはアストリットを狙うだけだ。。。
できない、ロッシュはアストリットを狙う事が出来ない。もう一度アストリットを見た。アストリットは目を閉じて微笑みを浮かべて死ぬ事を受け入れている。
ロッシュはそんなアストリットを見た瞬間アストリットを抱きしめていた。
「出来ない、アストリットを殺せない。」ロッシュは苦しそうに言った。
アストリットはすぐに立ち上がりロッシュを押し退けて城の窓に立ち跳び降りようとした。ロッシュはすぐにアストリットを捕まえてもう一度強く抱きしめた。アストリットは泣いていた。
「ロッシュ様ダメです。これ以上、、、ロッシュ様と一緒にいては、お願い。。これ以上生きてしまうと死ねなくなってしまう、お願いです!今あなたの手で殺して下さい!」
「僕には出来ない!あなたを殺せない!僕のことを思って、殺されるとわかっているのに僕が不自由しないように沢山のリルケを創ったくれたあなたを,。僕に負担をかけないように姿を隠してまでリルケを創ってくれあなたを僕は殺せない」
そう言ってロッシュはアストリットをもう一度抱きしめた。アストリットは驚いた。ロッシュはアストリットを見つめた。アストリットもロッシュを泣きながら見つめている。
ロッシュはアストリットの涙を指で拭い「僕はもう後戻りが出来ない所まで来てしまった。裏切り者と呼ばれようとも僕はあなたを守る。どうか死ぬ事を考えないで、僕を信じて、お願いだアストリット」アストリットは何も言わない。ただ悲しそうに涙をながしている。「アストリットお願いだ、、。」アストリットは頷くことが出来ない。
アストリットは自分の中の半分は死にたかった。ロッシュに迷惑をかけたくなかった。だけど半分はロッシュの言葉に心からの幸せを感じていた。だけどロッシュを裏切りものにしてはいけない。彼は帝国の大魔法使いなのだ。私のような人間が彼に関わってはいけないのだ。ただただ涙が止まらない。どうしたら良いのかわからない。
ロッシュはアストリットをずっと抱きしめていた。アストリットは泣き疲れてしまい何も考えられなくなった。ロッシュの胸に顔をくっつけて少しだけ力を抜いた。ロッシュはそんなアストリットをさらに強く抱きしめて、アストリットの頭に自分の頬を乗せて「もう戻れないんだ」ともう一度言った。
そしてロッシュは何か呪文を唱え指を動かした。ロッシュは万が一アストリットが自殺を図ろうとしても出来ないようにアストリットと城に魔法をかけた。ロッシュは涙を流し続けるアストリットを抱き上げ、そのままソファーに座った。そしてアストリットを自分のローブで包み優しく抱きしめた。アストリットは何も言わずロッシュの腕の中にいた。
ロッシュはアストリットの手の指を自分の指に絡ませて握った。アストリットもロッシュの手を握った。その反応が嬉しくてロッシュはアストリットを見た。アストリットはロッシュの胸に頬をつけて体をロッシュに預けて目を閉じている。その目から涙が流れていた。ずっとアストリットは泣き続けていた。
こんな状態のアストリットを置いて帝国に戻れない。ロッシュはこれからの事を考えた。クライツラ王国と戦争をして王家を滅亡させても後継者のアストリットが生きている事はゆるされない。ロッシュがこのままアストリットを隠し続ける事が現実的だと思った。ロッシュには圧倒的な魔力がありアストリットを隠す事は簡単だ。ロッシュの魔法を解ける人間なんかいないのだ。アストリットは絶対に守る。
アストリットは自分がロッシュの腕の中にいることが信じられなかった。憧れていたロッシュはアストリットのことなんて見ていなかった。もちろん会えば話をするしマルクスの所にリルケを取りに来た時にアストリットがいなかったら探して挨拶は必ずしてくれていたが、それは恋愛に繋がるものでは無かった。
マルクスが殺された時もロッシュはアストリットを探す事はしなかった。。。いつの間にロッシュはアストリットの事を考えてくれたのだろう。アストリットにはわからなかった。アストリットが敵国の後継者だと気がつき殺しに来たのに、どうして殺さなかったのだろう、いつロッシュは私を?
あんな態度をとって追い返したのに。裏切り者と呼ばれてもいいと言ったロッシュ。
アストリットは全てがわからなかった。ただ繋いだ手はあたたかく、絡めている指からは愛を感じる。ロッシュは何か魔法を使った。アストリットは自分が自分で死を選ぶことが出来なくなったとわかった。ロッシュはそこまでしてアストリットを死なせたくないと思ってくれた。悲しい涙なのか嬉しい涙なのかわからない。ただ溢れ出る涙を止められない。こんな極端な感情がこの世にあるとは思わなかった。アストリットはどうすればいいのかわからなくなった。だけど今だけはこうしていたい。お願い神様少しだけ時間をください。アストリットはロッシュと一緒に生きたいと思った。例えそれが短い時間だったとしても。
「アストリット」ロッシュが呼んだ。アストリットは目を開けて頭を起こしロッシュを見た。ロッシュは優しく微笑みながらアストリットに言った。「アストリット、魔法使いは嫌い?」前にも何度も何度も聞かれたことがあった。
「ロッシュ様、前にも聞かれましたが、どんな意味でしょうか?」「アストリットは僕が魔法を使おうとするたびに使わなくていいって言っていたから、魔法が嫌いなのかなって」
「いいえ、ロッシュ様の魔法を私ごときに使うなんて申し訳なくて、、そんな意味でしたが不快な気持ちにさせてしまってすみませんでした。」
「ち、違うんだ、不快なんてなっていないただ、好きじゃ無いのかと思っただけで、だけどそうじゃ無いってわかってよかったよ」ロッシュはからめた指をグッと握った。「僕はアストリットに冷たくされてそんな子居なかったから興味をもったけど、本当のあなたは僕を誰よりも大切に思ってくれていた。気がつかなくてごめん。でも僕はギリギリの所で自分の気持ちに気がつけて、大切なあなたを失わないでよかった。でも、もう無視はしてほしくないな、あれは落ち込んだよ。」アストリットはあの日の事を思い出して少しだけ笑った。