表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/33

はじまり

「お師匠様、この木でいい?」アストリットは樹齢二千五百年のカルカラの木を指差した。「ああ、これならロッシュ シュタイナー様の炎極魔力を最大限に引き出せるだろう。」師匠と呼ばれるマルクスはカルカラの木の幹に少し切れ目を入れそこから溢れ出る樹液をコップほどの大きさの瓶に詰めた。アストリットは嫌いな顔を隠す為に伸ばしている前髪を上にかきあげ樹液の詰まった瓶を鞄に詰めた。


 二人は山を降り山の麓の森に囲まれている工房に帰った。そしてその樹液に向かって降魔の祝詞を唱えた。大きな黒い闇と白い光がその樹液に集まり強く光った後に魔法使いの闇の力を最大限に引き出すリルケと呼ばれる玉が出来た。

 このリルケは魔法使いの魔力を増幅する為に使われるブースターのようなものだ。今回創ったリルケは真紅で火焔系魔法でも超高度な炎極魔法に使える。リルケは木の年齢や種類によって魔法の系統が決まる。そしてリルケ職人の力量によってそのリルケの力が変わる。リルケの色が濃くなるほど魔力が増すのだが魔法使いがその増幅した魔力を使いこなせない場合、その力は自分に返ってくる。場合によっては命を落としてしまう。


リルケの色と質をみれば魔法使いとしてのランクがわかるのだ。ただ、そう言った理由でリルケを見せたくない魔法使いも多いためネックレスにする事が多い。今回の依頼主であるロッシュは帝国一の大魔法使いと呼ばれている男で、いつもリルケはピアスにしていた。今回も真紅のリルケを魔法使いロッシュ用にピアスに加工した。

 

「マルクス、いつも僕のリルケを創ってくれてありがとう」

ロッシュは真紅のリルケのピアスを耳に付けながらマルクスにお礼を言った。そのリルケは主の魔力に反応して美しく輝いている。

「いえ、ロッシュ様のお役に立てることは喜びです。どうかこれからも帝国をお守り下さい」マルクスはロッシュを見送りながら言った。


「あれ?今日アストリットは?」ロッシュはアストリットの姿が見えないので聞いた。

「アストリットは水を汲みに行きました」

「そうか、ちょっと会って帰るとしよう」ロッシュは近くを流れる小川に向かった。


 アストリットは小川の大きな石に座り小魚を見ていた。小さな魚だが光を受けて黄金色に輝いている。とても綺麗で見惚れていた。


「アストリット何をしているんだい?」アストリットを見つけたロッシュが声をかけた。

「あ、ロッシュ様、見て下さい。この魚キラキラしてとても綺麗なんです」アストリットはいつも前髪で顔を隠しているが口元が笑っている。

「獲ってあげようか?」ロッシュが言った。

「あー、ロッシュ様魔法はダメですよ」「アストリットは変わってるよね、みんな僕の魔法を見たがるのに」ロッシュはいつも不思議に思っている。アストリットはロッシュが魔法を使おうとするとダメだという。


「ロッシュ様の魔法はこんなことで使ってはダメなんですよ。」アストリットは小川に入って手でそっと魚をすくった。

「ほら見てください。綺麗でしょ?」アストリットはキラキラと光る魚をロッシュに見せた。

「本当に綺麗だね。ありがとうアストリット」アストリットはロッシュの笑顔を見て胸がときめいた。


 彼は帝国一の魔法使いで肩下まである黒髪に深い濃紺の瞳をもち、まつ毛が長く「麗しの魔法使い」という異名があるほど美男子だ。自分のことを僕と呼ぶ可愛い性格の持ち主でロッシュの事を好きな女性は数知れず。柔らかな物腰だが魔力は半端なく魔法使いとしては悪魔の生まれ変わりと呼ばれるほどだ。高鳴る鼓動を押さえつつアストリットはロッシュに話しかけた。


「ロッシュ様、また戦争が始まるのでしょうか?」アストリットはロッシュがリルケを頼んだ事が気になっていた。

「うーんなんとも言えないが起こるかもしれない。我が王メーベルト一世が手を緩めることはないだろうし。」ロッシュは言った。

「ロッシュ様、その時はお師匠様をお願い致します」アストリットはロッシュにマルクスの事を頼んだ。

「大丈夫、任せて、アストリットは?」

「私はお師匠様の実子でも後継者でもないですからここにいても大丈夫です」「それなら良いけど、、じゃあ僕行くね、またねアストリット」ロッシュはそう言って瞬間移動で城に帰っていった。

 

ロッシュは類い稀なる魔力があるがゆえ、通常のリルケは彼の魔力に耐えられず唯一使えるのはマルクスが創るリルケだけだ。マルクスは代々リルケを創る家系でその技術力の高さは帝国一と言われている。リルケは加工技術も大事だが降神の祝詛と呼ばれる呪術が一子相伝として伝えられている。


マルクスは唯一ロッシュのリルケが創れる人間なので他国から常に狙われている。ロッシュの魔法を支えているマルクスを殺せばロッシュの魔法を最大限に引き出せるリルケを創れる人間がいない。だからロッシュは常にマルクスを保護し守っている。しかしある時マルクスの妻が第二子の出産のために六歳の長男と妻の里に帰っていた。その時に運悪く戦争が起き街が戦火に巻き込まれ妻と子供は死んでしまった。


二人が狙われた訳ではないがこれによりマルクスは自分に万が一が起きたときに跡を継ぐ人間がいなくなった。しかし今はアストリットがマルクスの後継者として密かに育っていた。彼女がマルクスの実の娘でもないこともあって誰もがアストリットが後継者だと思わなかった。それを逆手に取りマルクスは全ての知識と技術をアストリットに教えた。アストリットは元々の能力があるのかスポンジが水を吸収する様に覚えていって今はマルクスと同じリルケが作れるようになっていた。


 それから三日後、突然戦争が始まった。

 メーベルト一世の治めるフローエン帝国は世界の秩序と呼ばれる善の帝国で帝国民の幸福度は非常に高い。しかしその対極にあるガンガー皇帝が治めるゾーム帝国、シュトルム王が治めるクライツラー王国が互いの領地を広げようと無秩序な戦争を起こしている。その為フローエン帝国は常に戦い、その均衡を保つ為両国を抑え込んでいる。ほぼ三すくみ状態だった。

 

 ロッシュはフローエン帝国の魔法使いとしてメーベルト一世を支えている。彼が参加する戦いは一度も負けた事がない帝国の宝と呼ばれる大魔法使いだ。魔法使いには白魔法と呼ばれる治癒系の魔法使いと、黒魔法と呼ばれる攻撃系の魔法使いがいる。ロッシュは黒魔法の魔法使いだ。


 ロッシュは常にマルクスに対し保護魔法をかけていたが、念のためマルクスを保護する為に使いの魔法使いをマルクスのところに行かせた。ところが使いの魔法使いがマルクスを瞬間移動させるために保護魔法を解いた一瞬の隙をついて攻撃されマルクスと使いの魔法使いは殺されてしまった。その時ロッシュは既に戦いに参加していたのでどうすることも出来なかった。


 突発的に起きた戦争は終わりまた三すくみ状態に戻った。


 ロッシュは偉大なるリルケ職人を失ってしまった。その為メーベルト一世は世界中からリルケ職人を呼び寄せロッシュの魔力に耐えられるリルケを探していたがそんなリルケは見つからなかった。


しかしある日、黄金色のリルケがロッシュの元に届けられた。そのリルケを手に取った瞬間ロッシュはこのリルケが自分の魔力に耐えられるとわかった。


すぐに誰がこれをロッシュに届けたのか知るために追跡魔法をかけたが、どう言う訳か追跡は出来なかった。


それから二週間後,又ロッシュの元にリルケが届けられた。そのリルケはシ銀色のリルケだった。通常リルケは使う魔法によって取り替えるが、黄金色や銀色のリルケはどの魔法でも使える特別な物だった。それが二つも届いたのだ。

驚いたロッシュはもう一度追跡魔法をかけたがやはり追跡出来なかった。二つのリルケはとても澄んでいて身につけていたら力がみなぎるようなパワーを持ったものだった。そんなリルケに出会った事がなかった。ロッシュは創った人間に会いたいと思ったが、どうやってもわからなかった。けれどマルクスを失ってもロッシュを支えてくれるリルケが見つかった事に感謝をした。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ