先輩と僕
「先輩」「コーヒー」「小説」と書かれた付箋が、モニターの端っこでヒラヒラと鯉のぼりのようにそよいでいる。
そして見てはいけないと思ったが、画面いっぱいに広がっているのは、マイクロソフトワードの真っ新なページだ。文書のタイトルは「ものがたり」。
「ものがたり」とは小説投稿サイトで誰でも無料で小説を書いたり読んだりできるサイトだ。そこで定期的に行われるコンテストがあって、今月のお題は「先輩」「コーヒー」「小説」だった。
僕もたまにだけど小説を書いてる。いつかコンテストに出したいと思いつつも、なかなか出せてない。
先輩も小説を書いているんだ。応募するつもりなのかな?ユーザー名は何て言うんだろう。
ちょっとした興奮状態に陥り、先輩のユーザー名を聞き出したくなる。
けれども、いきなり聞いたらきっと引かれてしまうとその気持ちを押さえた。
そして係長に頼まれた書類を机の上に置いた時、ふと芳しい香りが鼻先を掠る。
香りの元は先輩のマグカップ。
缶コーヒーかミルクと砂糖たっぷりのコーヒーしか飲まない僕には、先輩の飲んでるコーヒーがどの種類かわからない。ただコーヒーショップに入った時と同じいい香りがした。
「何か用ですか?」
コーヒーについてぼんやり考えていたのがよくなかったらしい。いつの間にか先輩がデスクに戻って来ていた。
「はい!あの書類を届けるように係長に頼まれました」
「そうですか。ありがとうございます」
先輩はニコッと笑うと席につく。僕にはもう興味がないようで、マグカップを手に取り美味しそうに飲む。
オドオドしていて小動物みたいな先輩が両手でマグカップを抱える様子はとても可愛いらしくて見惚れてしまった。
「あの、まだ何か?」
「何でもないです!」
見惚れてしまった事に気付いて欲しくなくて、足早に自分のデスクへ戻る。それから気が付けば先輩ばかりを目で追っていて、参った。
『年下の子に恋しちゃダメですか?』
ある日僕は「ものがたり」でそんなタイトルの小説を見つけた。
「先輩」「コーヒー」「小説」の要素が盛り込まれた話で、僕は先輩の作品だと確信した。
翌日、僕は先輩が一人でいる所を確認して声をかける。
「年上に恋をしたらダメですか?」
すると先輩の顔が一気に茹って、タコウィンナーもびっくりするくらいだった。
泣きそうに僕を見上げる姿は、ますます可愛いらしくて、僕はたまらず告白してしまった。
「先輩。僕、先輩が大好きです。付き合ってください」
結局先輩に止められて、この話を小説にすることはない。もし応募したらきっと受賞できたかもしれないなあ、と少しがっかり。
だけど、先輩が僕の彼女になってくれたので、いいとするかな。




