異世界転生した俺は過去を見る
遥か彼方の世界。俺はいわゆる異世界に転移した。日本の社会で言うと小学4年生にあたるだろうか。
ヒカル・リオンスーンという名を授かり、神様の恣意なのか偶然なのか、転移した彼と俺の名前は一致していた。
俺はメルド大陸にあるラート国に住んでいる。メルド大陸には過去、群雄割拠大小数十の国が乱立していた。国同士の戦争によって分裂と再生を繰り返し、現在は五つの国にまで淘汰された。
その中央には五国を統括するトリヤード連合国がある。ここにいわゆる各国の要人という名の人質が収容されており、一応の平和を保っている。
そのような体制を取ったのは、海を挟んだ先の大陸から魔族が侵攻してきたという逸話がある。
詳しくは知らないが、敵の敵は味方という解釈で、当時は一致団結したのだろう、その名残でこのメルド大陸の体制が整った感じだ。
物心ついた頃から孤児院で暮らしている俺は、両親の存在を知らない。ここのシスター、アンジェラ・ラインナックに育てられている。
このサリハ・ダン孤児院に行き着くまでに、彼に一体何があったのか、俺には断片的な記憶しか残っていないのだが、いろいろと苦労したと推測っている。
左肘には直径2cm程の痣が刻印されている。日常生活に支障はないが、右手薬指の指先は若干折れ曲がり、腱が断裂している。
転移した時は、前任のヒカルが声を荒げて悶えたり、自傷行為にまで走るシーンがフラッシュバックのように脳内に流れた。ご丁寧な人生の引き継ぎだ。
心的外傷が酷く、解離性同一性障害になり、ヒカルの中から生まれた新たな人格なのではないかと思ったが、俺は前任のヒカルとこの身体を一度も共有したことがなかった。
また彼と念話のようなこともできなかったし、感じることもできなかった。完全に交代してしまったのだと思う。
「こんにちは。」
「あ、エルーナ王女だ!!」