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Memory96

先程からアストリッドと戦闘を繰り広げている辰樹だが、俺にできるのは精々遠隔からアストリッドに血の刃をぶつけることくらいだ。


が、大抵血の刃はアストリッドの手によって弾かれてしまい、地面に落ち、ただの赤いシミと化してしまう。


「結局、(辰樹)は魔王の力を扱っているだけで、魔王そのものではない。いや、まあ、君の中には確かに魔王が存在しているようだけど………君はその力を完全には扱えていない。大した脅威では……」


「さっきから魔王魔王って……何なんだよ! こちとら失恋真っ最中なんだ!! ストレスフルマックスなんです!! クッソー!! こうなったらお前でストレス発散させてもらうからな! 覚悟しろ! アストリッド!!」


辰樹は大鎌を巧みに扱い、アストリッドと対等に渡り合う。

いや、アストリッドがまだ本気を出していないから、ではあるのだが……。


それにしても、辰樹は大鎌の扱いが上手い。普段から大鎌を使用している俺が言うのだから間違いない。彼は戦いの中で、成長している。


これが、アストリッドの言う、魔王の力というやつなのだろうか。


確かに、辰樹はリリスから俺を守ろうとして突進した時にも、謎の力でリリスを吹き飛ばしていた。ただの一般人なら、あの時逆にリリスに返り討ちにされて、帰らぬ人となったとしても何らおかしくなかった。


そう考えると、辰樹に魔王の力が備わっているというのは、嘘ではないのだろう。にわかには信じ難いが。


なら、今回の戦闘で、アストリッドを討伐することができるかもしれない。

何せ、こっちには辰樹以外にも………。


「待たせたわね、クロ、辰樹」


「ごめん、クロ。話に夢中になってて、まさかアストリッドと戦ってるなんて。とりあえず、一旦僕たちは後ろに下がろう。変に前に出て、足手纏いになっても困るしね」


茜に、愛。

アストリッドの気配を感じて、援護に来てくれたのだろう。

これなら、勝てる。


俺は、勝ち誇ったようにアストリッドの様子を伺うが。


私の欲しい子達(クロと茜)因縁の相手(魔王)、それに裏切り者の私の娘()ときたか。丁度いい。全員まとめて、ここで決着をつけさせてもらう」


アストリッドは余裕の笑みを崩さない。そしてそのまま、辰樹の大鎌を掴み。


「戯れは終わりだ」


破壊した。


それだけじゃない。


アストリッドの手のひらに、真っ赤な液体が集う。

地面からだ。


俺が発生させ、地面に落ちていた血の刃を、アストリッドが逆に利用しているのだ。


その血を全て結集させ、強力な一撃を俺たちに加えようとしてきているのだろう。だが……。


「そうはさせない!」


今アストリッドが集めている血の刃は、一度俺に所有権がうつっている。だから、俺にもあの血の刃を操る権利はある筈だ。


俺は、アストリッドが操っているところに、妨害するように魔力を流し込む。が……。


「余計なことはするものじゃないよ、クロ」


体が燃えるようにあつい………。


アストリッドに何かされたのか?

吐き気に、怠さ……。


まずい……これじゃ、妨害が……。


「君、私の方に魔力を流したろう? それを利用して、逆に私の魔力を君に流し込んだんだ。内側から、君の体を攻めさせてもらったよ。苦しいだろう?」


俺とアストリッドの魔力じゃ、アストリッドのそれの方が上だ。

つまり、俺の魔力ではアストリッドの妨害ができない。


辰樹と茜もアストリッドが何か強大な強力をしようとしていることを察して、それを止めようとしているが、アストリッドの翼がそれを許さない。

翼が自動で辰樹と茜の邪魔をし、アストリッドは巨大な血液の塊を作ることだけに集中できてしまっているのだ。


「安心しろ。死にはしないさ」


そしてついに、巨大な血液の塊が、完成してしまう。

球体で、禍々しいそれは、凄まじいほどの魔力を内包している。


「さあ!! これが王の力だ!!!!」


俺たち4人に、アストリッドの巨大な攻撃が迫ってくる。

辰樹は再び大鎌を作り出し、茜も全身を燃焼させ、全力で球を止めようとするが、アストリッドの球は微動だにもしない。


こんなの、勝てっこない……。


来夏や櫻が来たところで、これを受け止められるわけ……。


「はぁ………。これだからしろのことを助けられなかった無能どもは………」


そんな時、俺の後ろから現れる少女が1人。


その少女が現れた瞬間、球は急に元いた方向へと逆走しだす。そう、つまりアストリッドのいる方向へ……。


「反射。それが私の魔法だから」


閃魅 光(せんみ ひかり)。『るな』を自称する、シロの友人の魔法少女の姿が、そこにはあった。







☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






クロ達がアストリッドとの戦闘を繰り広げる中、櫻もまた、別の場所で戦闘を始めようとしていた。

櫻の向かいにいる相手は、ノーメド。組織の幹部の1人で、鬼の魔族だ。


「いつのまにアストリッドと手を組んだんですか?」


「俺は組んだ覚えはないな。ルサールカのやつが勝手に進めた話だ。ところで、やるのか、ここで。見たところ、手負いのようだが」


「クロちゃん達に余計な負担はかけさせたくないからね。貴方の相手を私がすれば、その分あの子達に割かれる戦力は少なくなる。そうでしょ?」


「どうしてそこまでして他人のために戦える? 強者であるお前が。自分の家族だけを守るなら、そこまでの重傷を負わずとも良かった筈だ」


「人間は、助け合う生き物だから。でも、私は魔族もそうなれるって、信じてる」


「嘘をつくな。人間と魔族が分かり合えるはずがない」


ノーメドは、櫻の考えを否定する。が、その声は、本当はそうであってほしくない。そう思っているかのような、そんな悲しさを孕んでいるようにさえ思えた。


「私は、貴方だからこそ話したいと思ったんです。ノーメドさん。いえ…………()()()()


「お前……その名をなぜ……」


「貴方は一度、人間と分かり合えることができたはずです。だから、貴方だって、本当は……!」


櫻はそうノーメドに訴えかける。だが、どちらかといえば、櫻の方が、人間と魔族が分かり合える、そのことを信じさせてくれる理由を探しているように思える。彼女もまた、人間と魔族が分かり合えるのか、疑問に思っているところがあるのだろう。


「黙れ。知ったような口を聞くな」


だからこそ、響かない。

お互いに、答えなんて見つけられていないのだから。


「剣を取れ。魔族と人間は、戦うことでしか、お互いのことを理解できない」


「わかり……ました………」


櫻は、空中から、『桜銘斬』を召喚する。

道に迷う者同士の静かな戦いが、始まった。







☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★







「はぁ、ったく。こんなだからしろも攫われちゃうのよ。ちゃんとして欲しいわ。仮にもしろの姉を名乗るならさ」


光の登場により、アストリッドの作り出した血の球体はアストリッドの方へ跳ね返り、そのまま直撃した。今は煙に包まれていて、姿が見えないが、無傷、ではないだろうと思う。


まあ、死にはしない、と言っていたところから見るに、俺や茜が瀕死になる程度の威力なわけだから、俺たちより頑丈なアストリッドがくらっても、瀕死にはならないだろう。だが、とりあえずこれで一難さった。さっきの血液はほとんど残っていないし、もう一度同じ攻撃が繰り出されることはない。


それに、光も加わったのだ。戦況はこちらの有利に傾いていると見ていいだろう。


煙が晴れる。

光はもちろんのこと、茜、辰樹、愛は無傷で、無事だ。俺も一応両腕がやられてはいるが、さっきの攻撃に関しては無傷と言っていい。


さて、肝心のアストリッドは……。


「あ……れ………な………んで? うそ……でしょ………」


光が狼狽える。

煙が晴れたその先、そこに映ったのは、アストリッドの姿ではなかった。


いや、厳密にいえば、()()()()()()()姿()()()()()()()()()、というのが正しいだろうか。


そこにいたのは……。


「アストリッド様、大丈夫ですか」




漆黒の翼をその背中に生やし。




「ああ、大丈夫だ」




見る人を魅了する、真っ白で綺麗な、天使のような髪を持ち。




「私が守らなくても、よかったかも」



俺のよく知る、その人物は……。




「いやいや。守ってくれて助かったよ。ありがとう、()()



双山真白。


俺の双子の妹、シロ。


彼女が、吸血鬼となって、俺たちの前に立ち塞がっていた。




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