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Memory94

組織から愛を連れ戻した俺は、とりあえず他の魔法少女と愛が馴染めるように、まずは茜に愛のことを紹介することにした。


「へ〜この子がクロの親友の?」


「うん。そう。親友だよ」


俺は後ろで隠れている愛のことを引っ張り出して、茜の前に出させる。

前世の時から、愛は俺以外とは中々話ができなかった。だから、その時の癖で今も俺の後ろに隠れてしまっていたのだろう。


しかし、それじゃ愛はいつまでも孤独なままだ。俺以外ともしっかり関われるようにしておかないと、将来困るのは愛なんだから。


だからこれは、そのための第一歩だ。


「あ……僕は………親元愛って言います………」


愛はたどたどしいながらも茜に自己紹介をする。普段俺の前では軽口を言ったりする愛だが、俺以外の前ではいつもこんな感じだ。


思えば、俺はそんな愛に対して、少しでも何かしてあげようと思ったことが、前世からあっただろうか?


いや、なかっただろう。言い訳にはなるが、あの頃は妹のことで頭がいっぱいで、愛のことは親友だとは思っていたが、信頼しているだけで、俺が愛の悩みを聞いてあげたりなんかは、あまりやってこなかった。


愛が俺への感情を拗らせてしまったのも、そのせいだろう。愛がああなってしまったのは、全部俺のせいなのだ。

そうなってしまったことは受け入れるしかない。けど、少しでも愛が生きやすいように、他人と関われるように、少しずつサポートしていこう。


なんたって愛は、俺の親友なのだから。


「私は茜。よろしくね」


茜は愛に対して、無難に挨拶を交わす。

さて、問題はここからだ。


まず、愛には俺以外の人との交流に慣れてもらわなくちゃいけない。そうなると、自然と俺は愛のコミュ力解消の障害になり得てしまう。だってそうだろう。俺が隣にいれば、愛は俺からくっついて離れようとしないのだから。


「やることあるから帰ろ〜っと」


「うぇ……? え、ちょ……ま……は………クロ!?」


既に茜とは口裏合わせ済み。そのため、俺は自然な流れ(?)で、愛を残し、その場を後にする。慌ててる感じを演出するために、多少小走りになりながら。


「クロは用事があるみたいだし、私達は別で行動しましょ」


「え………あ……はい……」


どうか2人が、仲良くなれますように。






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






クロは僕を置いて、どこかへ走り去っていってしまった。

やっぱりあいつは、僕のこと、面倒だって思ってるんだろうか?


わかってる。あいつだってあいつなりに、僕が他の魔法少女達と仲良くできるように配慮してくれているんだろうってことくらい。でも、それでも。


いきなりこれは、あんまりなんじゃないか?

見ず知らずの少女と、2人っきりにされるなんて。


僕は君以外に友人なんていなかったのに。


まともに話せるわけ………。


「思ってたより可愛い顔してるのね」


「はぁ……どうも……」


あぁほら。せっかく褒められてるのに、僕は無愛想な返事しかできない。コミュニケーション能力が高い人だったら、もっと上手い返しができたんだろうな。


でも、せっかくあいつがこういう機会を用意してくれたんだ。できないできないなんて、いつまでも弱音を吐いてちゃいけない。


そうだ。褒められた時は、こっちも……。


「あ、あかねさんのほうこそ…その……かわいらしい顔をしてらっしゃいますると思いましてよ?」


「別にお世辞はいいわよ」


「あ、いや……別に嘘じゃなくて………えと………えと……」


「はぁ……」


やばい。怒らせちゃったのかな。

本当に、どうしようもないな。わざわざあいつに、こういう場を用意してもらっておいて、茜って子にも、無理言って協力してもらっているだろうに。


僕は、本当にどうしようもない。

ダメ人間で…………。


「別に、そんなに無理して会話しようとしなくてもいいわよ。気を使わずに、自然体で……って言われても難しいかもしれないけど。まあ、私って別にそういうの気にするタイプじゃないし? いいんじゃない? 自然体で。実際私って仲間からボロクソに言われたりしてるから、慣れてるし」


「え、と……でも……」


「じゃあ、試しに私のこと罵倒してみなさい。はい」


「え、えぇ……」


急にそんなこと言われたって、初対面の人を罵倒する……? ハードルが高すぎる。そんなの、僕にできるわけない。


「ちなみに私はクロにブチギレて殺してやろうって思ってた時期があったわ。私もクロも、最初は仲最悪だったのよ。まあ、私が一方的に嫌ってただけだけどね」


「は、はぁ……」


自覚はないんだろうけど、今のは少し傷ついた。やっぱり、あいつにとって、僕は数少ない友人の1人でしかないのかな。

僕と友人になってくれる奴なんて、誰も……。


「仕方ない。ちょっと荒治療かもしれないけど……やるか」


「?」


「あーあー。正直言ってさ。私ってクロのこと嫌いなのよね。あんなやつのどこがいいんだか。意志薄弱で、直ぐに組織の言いなりになるわ、アストリッドに攫われて、すぐに櫻達を危険に晒すわ……」


急に何を言い出してるんだ?

友人じゃないのか? なんでそんなこと……。


「自分が他人に迷惑かけてる自覚がないっていうかー。まぁ。うざいと思ってるのよね〜」


そうか。

表では仲良さそうに振る舞っていたけど、本当は、そうじゃなかったんだ。


僕の気弱な態度を見て、どうせ告げ口するだけの度胸がないのだろうと、そう思って本心を今僕に告げてきているのだろう。


良いのか?


親友として、あいつの悪口を見過ごしてしまっても。


良いのか?


このまま、あいつは何も知らないまま、自分の事を嫌っている奴と、仲良さげにさせて。





よくない。


僕は、あいつの親友だ。

あいつの陰口を、見過ごしていいはずがない。


だったら、止めるべきだろ。


「それが君の本性か、茜」


僕はなるべく、低めの声で、茜を威圧するように言う。舐められたくはないからだ。


「何? 何か文句あるの?」


「うるさい。人の陰口をコソコソと……。気弱な僕になら何言っても問題ないと思った? そんなわけないだろ。親友の悪口を言われて、大人しく黙っておけるもんか。僕は今の言葉、見逃してやるつもりはないからな。この阿婆擦れ女!」


「阿婆擦れ………ねぇ、流石にちょっと言い過ぎじゃ……」


「黙れ! どうせお前ビ⚪︎チだろ! 陰口を言う陰湿な女なんて皆そうだ! 一体何人と寝たのかな? あーそっか。覚えていないか。男取っ替え引っ替えしすぎて、人数なんて覚えてないよね〜」


「なっ! 私のことなんだと思ってるの!? そういうあんたはどうなのよ!」


「僕は生まれてこの方、誰かと体を交えたことはない。するなら、あいつだって決めてるから……」


「ふん。そうやって1人も相手に執着してるとねぇ、歳とってみなさい。相手がいなくて絶望するわよ」


「男取っ替え引っ替えする方がどうかと思うけどね」


「だから私はしてないって!」


「いーや、してるね。顔を見ればわかる」


「してないわよ!?」


「いや、してる」


「してない!」


「いやしてるね!」


「してないってば! もー!」








☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★







「ぜぇ……ぜぇ………」


「はぁ………はぁ……」


あれから、どれくらい言い合っただろう。

軽く1時間くらいは喧嘩していたような気がする。


「ねぇ………そろそろ休憩しない? 流石に私もう限界よ」


「そ、そうだね。正直もう、話疲れちゃったや」


僕と茜は、適当なベンチに腰を掛け、ゆっくりと、呼吸を整えていく。


僕の体力がないせいか、茜の方が先に呼吸を整え終わっていた。

僕は茜よりもしばらくの間ぜぇぜぇと息を吐き続けていたが、それがおさまった頃、茜が僕に対して口を開いた。


「どうだった? 案外話せたでしょ?」


言い争いしているうちに、薄々勘付いてはいたけど……。


「僕を怒らせるために、わざとあんなこと言ったんですね」


「まぁね。クロにはあとで謝っておくわ」


「僕の方こそ、ごめんなさい。ついカッとなってしまって……。その、色々言ってしまったし……」


「一応言っておくけど、私はビ⚪︎チじゃないから」


「うっ、ごめんなさい」


茜には、中々ひどいことをたくさん言った気がする。いや、気がするじゃなくて、確実に言ってたね。

でも、あんなに酷いことを言っても、いや、そりゃ言い合ってた当初は顔真っ赤だったけど、今は落ち着いているし、僕の発言を水に流してくれているんだろうなってことがわかる。


それに、こんな風に言い合えたの、あいつ以外で初めてかもしれない。

雪ちゃんとは多少話せはしたけど、あいつの妹ってだけでそこまで深い交流があったわけじゃないし。


もしかしたら、この人となら。


「あの……僕と、友達に……なってくれますか?」


「へ?」


僕の言葉に、茜は驚いたような顔をしている。想定していなかった、みたいな。


………もしかして、駄目だったのだろうか?

そりゃそうだよな。自分のこと、ビ⚪︎チなんて罵倒してきた奴と、仲良くなりたいなんて……。


「私達、もう友達でしょ?」


「え…?」


「だって、あんなに言い合ったのに、今こうして一緒にいるわけだから、それってもう、友達じゃない? 喧嘩するほど仲がいいって言葉もあるわけだし」


そっか。

僕も、やっと…。


「ふへ………ふへへへへ……」


「最初可愛らしい顔って言ったけど、今のあんたの顔、ちょっと気持ち悪いわよ?」


「茜だって顔真っ赤にしてた時はブッサイクだったけどねぇー?」


「あの時は頭に血が昇ってたのよ。ったく……私の周りって何でこういう生意気な子ばっかり…」


「僕みたいな美少女と会話できるなら本望でしょ」


「ま、悪くはないわ」


僕と茜は、気軽に会話を続けていく。

いつの間にか、僕は茜に対してタメ口になっていて。


ちょこちょこお互いを罵りつつも、その言葉にはお互いの信頼関係を感じられたような気がする。


もしかしたら、僕が求めていたのは、これだったのかもしれない。

あいつに依存して、頼って。


それが理想だと思ってた。でも、それじゃあいつに迷惑をかけるだけだ。


だから、ちょっとずつ、僕も変わっていこう。

色んな人と関わって、あいつ以外とも話せるようになって。


あいつに依存しなくてもいいように。


そして、もしそうなったら、もう一度あいつに……。












「え、なんか俺より仲良くなってない? これが流行りのNTR……」



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