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Memory92

アストリッドに逃げられた後、現場には来夏とその姉である去夏がやってきて、一先ずアストリッドとの戦闘は終了した。組織による俺への『調整』がなくなったこと、それに加え、ユカリの生存が確認できたことまでは良かったのだが、アストリッドとの戦闘後、今度はシロが攫われてしまった。さっきまでは組織に連れ帰っただけだと判断していたが、多分そうじゃない。今度はシロが『調整』されるんじゃないだろうか。そんな気がする。


と、まぁ。色々な出来事が起こったため、俺は一旦来夏や他の魔法少女と合流し、情報の共有を行うことにした。


「皆、集まったみたいだね。アストリッドにやられた子達は、皆しばらくは動けそうにない。櫻とドラゴは一応は動けるみたいだけどね。他は療養が必要って感じ」


魔衣は、負傷者の状況を説明する。どうやら、今度アストリッドが攻めてきた場合、束や椿などは戦闘することができなさそうだ。組織も何故かアストリッドに手を貸していたし、対抗するとなるとかなり厳しくなりそうだ。


「美鈴とメナじゃ戦力にならねぇし、まずいかもな」


来夏が呟く。一応、櫻やドラゴも動けるが、万全の状態ではない。ホークという魔族も、日常生活は行えるが、戦闘は不可能な程度には負傷しているらしい。


(クロ)と茜でアストリッドの相手をする。アストリッドは私と茜のことを欲しがってる。殺せはしない、多分ね」


「しろのこと守りきれなかった無能に、もう一度任せてもいいのか、るなは疑問なんだけど」


そんな俺に噛みついてきたのは、確か、閃魅 光(せんみ ひかり)という名の魔法少女だ。

彼女は千夏と同様にアイドル活動を行っている魔法少女で、『るな』という名前で活動している。『るな』を自称しているのも、そのためだろう。ちなみに、シロと仲が良かったりする。俺に対する当たりが強いのは、多分シロと血のつながりがあるから、嫉妬している、とかそこら辺だろう。


「確かに、私はシロのことを守りきれなかった。でも、今は組織がどう動いてくるか分からないし、ここでは納得して欲しいかな」


「ふーん」


不機嫌そうな顔をしているが、まあ別に本人も俺と茜がアストリッドの相手をすることについては文句はなさそうだ。


「ルサールカの相手は、私と猿姉でやる。今回もそれで追い詰めれたからな」


となると、残りの幹部の相手についても考えなければいけない。

5人の幹部のうち、1人はユカリだったので、残りはルサールカも除けば3人。


特に厄介なのが、他人に化けることができるロキだ。

そもそも、今回の話し合いで誰が誰の相手をするのかというのも、元々はロキを対策するためのものだ。

それぞれが誰の相手をするのかを決めておけば、戦場に現れる偽物も見分けやすくなるから。


「るなもアストリッドがいい。あいつむかつくから」


「なら、ミリューの相手は私がしよう。ただ、そうなるとロキとノーメド、だっけ? の相手を誰がするのかって話になるけど」


「私がやるよ。ノーメドって魔族の相手。話したいこともあるから」


魔衣がミリューの相手を、そして、話を聞いていた櫻が、どうやらノーメドの相手をするようだ。

残りは、ロキの相手だが…………。


「おい、まさか美鈴とメナにロキの相手をさせるわけじゃないだろうな?」


「その心配はしなくてもいい。ロキの相手は、わしがやろう」


そこで名乗りをあげたのが、ドラゴだ。

魔衣とドラゴは、しばらくの間互いの顔を見つめ合う。表情から、お互いの仲があまり良くないのだろうということが読み取れるが……。


「まあ、いっか。それじゃ、アストリッドはクロと茜、るなちゃんが、ルサールカは去夏と来夏が。ノーメドは櫻、ロキはドラゴ、そして、ミリューの相手は私、ということで。それじゃ、解散!」





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





「千夏、ちょっといいか」


話し合いが終わった後、来夏は千夏を呼び出し、個別で話をしようとしていた。

千夏は気まずそうに来夏の元へいく。


「何?」


「私、お前に何かしたっけ? いや、何か恨まれてんのかなって思ってたけど、正直心当たりがあんまりないっていうか」


「うん。まあ、ただの八つ当たりだし」


「……やっぱそうだよな」


2人の間に、微妙な空気が流れる。

お互いに、何を話せばいいのか、分からないのだ。


千夏が来夏を嫌った理由は、来夏の言葉遣いの荒さや、仕草の男っぽさだ。朝霧家は父子家庭だったためか、去夏、来夏は父親を見て育ってきた。そのため、振る舞いはどうしても粗雑になってしまう。しかし、千夏は小さい時から、可愛いものが好きだった。女の子らしいものが好きだった。だけど、姉達がかわいいものに全く興味がなかったため、自分を抑制し、姉達のように振る舞うことしかできなかった。


その時の記憶で、千夏は姉のことを毛嫌いしていたのだが……。


「ごめん…………。私が子供だった」


何年振りか、千夏は来夏に頭を下げた。

そんな千夏の様子に、来夏も思わず目を見開く。まさか謝罪をしてくるとは思っていなかったためだ。


「別に私は気にしてない。嫌われるのは、私にも原因はあるだろうしな」


「まだ、その……私のこと、家族って、思ってくれてる……?」


「当たり前だろ。私からしたら、たった1人の妹だかんな」


「そっか…」


来夏の言葉に、千夏は安心したかのような表情をする。心のどこかでは、本当は来夏や去夏との関係を修復したかったのだろう。


「それじゃ。私は内部から組織の動向を探る。くそ……いや違う違う。姉さんも頑張って」


「今クソって言ってなかったか?」


「癖」


千夏は少し申し訳なさそうにしながらも、来夏との会話を終わらせる。


「千夏!」


しかし、来夏は、帰ろうとする千夏を呼び止める。その手には、とあるアイドルのライブのチケットが握られていた。


「お前のライブ、毎回ちゃんと見てた。かっこよかったし、何より、()()()()()()。応援してるから、これからも頑張れよ」


来夏の言葉に千夏は振り返らず、しかしそっと微笑み。


「バカ姉貴…」


ポツリとそうこぼした。





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





魔衣達との話し合いを終えた俺は、八重の元に行っていた。

一応、組織を裏切った後に顔合わせはしていたが、2人きりで出会うということはなかった。

八重は魔法少女達の中じゃ多分一番俺のことを心配していたはずだから、顔を見せに行こうと思ったのだ。


「えーと………そろそろ離れない?」


「ごめんなさい。もうちょっとだけ」


まあ、顔を見せにきたのはいいものの。

さっきから八重が俺に抱きついてきて離れてくれず、絶賛お困り中だ。


正直、あまり俺に思い入れを持ってほしくはない。今現在俺を縛るようなものは何も存在しない。だが、今までの出来事を思い返してみれば、いつまた何かしらで俺の自由が損なわれるか分からない。場合によっては、命の危機もあり得る。そんな俺に入れ込んでしまったら、もし俺が死んだとき、八重の精神がもたないかもしれない。


だから、俺は抱きついてくる八重を引き離す。これ以上、関係性を深めるわけにはいかない。


「会ったばかりであれだけど、私、組織に戻ろうと思ってる。ちゃんと向き合って、話し合わなきゃいけない、大事な友達がいるから。だからこれは、その前の顔合わせのつもりなんだ」


「友達なんて、また作れるわ。だから、お願い。魔法少女なんてやめて、普通に生きて。戸籍とか、身分とか、どうにだってするから………だから」


「シロ連れ戻すし、組織も潰す。大丈夫。すぐ戻るから。組織の奴らなんて全員馬鹿だし、上手いことやるよ。ヘーキヘーキ」


しくじったな。こんなに八重を不安な気持ちにさせるつもりなんてなかったのに。

2年前からずっと、1人で抱え込んでしまっていたのかもしれない。俺のことを一番気にかけていたのは八重だったし、多分、一番精神的に辛い思いをしてきたんだろう。


だったら、もうそろそろ、その苦しみから解放させてやるべきだ。


今まで引っ込んでいたルサールカが動き出し、組織も本格的に何か始めようとしている。

動くなら、今だ。


「反撃開始、ってところかな」



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