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Memory83


「私もう、どうすればいいのか、分からないよ………」


櫻は、雷を扱う少女、来夏にそう溢す。

クロが焔達を襲い、椿と戦闘している姿を見て、櫻は迷っていた。


櫻が知る限り、クロはあんな子ではなかった。

だが、洗脳によって、あそこまで堕ちていたとは……。


「私は、クロちゃんのこと、助けたい。だって、クロちゃんは何も悪くないから。悪いのは、全部組織なのに……」


「真白が内部から探ってくれてんだろ。なら、それに任せるしかない」


「ねぇ、来夏ちゃん……」


「……どうした」


「私、クロちゃんのこと、殺せないよ…………。もし、そのせいで皆の命が危なくなったとしても、私には、決断できない……」


櫻は、体育座りをしながら、顔を膝につける。まるで、顔を見せたくない、と、そう主張しているようで。

実際、そうなのだろう。今、櫻の目には……。


……本人が隠したがっているのに、それを暴露するのは、野暮というものだろう。


「櫻、心配すんな……」


来夏は、そんな櫻の様子を見て、1人、覚悟を決める。


「もし、どうしても殺さなきゃいけない。そうなったら、クロは…………、私が殺す」


そう告げる来夏の表情は、少し、悲しそうだった。






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






真白の目の前で、クロが、ルサールカに叱られている。

逃げることは許されない。真白は、ルサールカからその場で待機するように指示されてしまった。まあ、真白も逃げるつもりなど毛頭ない。二度と見捨てないと誓ったのだから。


「あのねぇ……。貴方、組織に戻ってきてから頼まれた仕事、一つもこなしたことないわよね?」


「はい、申し訳ありません……」


「困るのよねぇ。組織に穀潰しがいられちゃ。………捨てちゃおうかしら?」


「だ、だめです! ま、まだ働けます! 組織のためなら、命も賭けます!」


「命を賭ける? 何当たり前のこと言ってるの? ………はぁ。お仕置きが必要みたいね」


そう言って、ルサールカはクロへ暴力を振るう。

何発も、何発も。


髪を掴んで、クロの顔を壁に叩きつけたり、クロが姿勢を正そうものなら、腹パンでそれを阻止し、お腹を押さえてうずくまってしまっていれば、足でクロの頭を踏みつける。


「ご、ごめんなさい……ごめんなさい………がっ…………お”え“っ”……ごべんな“さ”い“!」


そんな光景、真白にはとても見ていられるものではなかった。

だが、見なくてはいけない。


これは、真白が招いた結果だ。

自分が最初に逃げてしまったから、こうなってしまったのだ。


もし、最初から一緒に逃げ出せていたら………。


もし、先にクロを逃していれば……。


そんなたらればを考えていても、仕方がない。


「あ……る、ルサールカ様! 反省します。私は、ゴミです。組織の穀潰しで、ルサールカ様の邪魔しかできない出来損ないです。で、でも、雑魚の処理ならできます! だ、だから……」


「へぇー。じゃあ、雑魚の処理って、具体的に何を指すのかしら?」


「魔法少女以外の人間の処理です。ただの一般人ではなく、魔法少女に協力している人間の」


その言葉を聞いて、真白は嫌な予感がする。


基本的に魔族は、魔法少女以外の一般人に手を出すことはしない。なぜなら、人間は世界を支配した後に使用する道具であって、殺してしまえば、労働力が減ってしまう。


だから、怪人以外で一般人が被害を被ることはない。


ただ、別に絶対に人間を殺してはいけないわけではない。自身の身に危険が迫れば、魔族だって人間を殺すし、人質に取ることもある。


何なら、趣味で人間殺しを行っている魔族も存在している。まあ、そういう存在は人間の政府や、人間を殺されては困ると考えている魔族の手によって葬られるのだが。


「百山椿でも相手にするつもり?」


「いえ、蒼井八重です。彼女は、魔法少女のサポートを行っています。私が彼女と接触して、殺します。そうすれば、少しは組織のためになりますよね?」


真白の嫌な予感は、当たってしまった。

クロは、殺そうとしている。血の繋がった(八重)のことを。今まで、面倒を見てきてもらってきたのに。


クロも少なからず、八重のことは好きだったはずだ。

それが、今や……。


はやく、櫻達に伝えないと。八重が危ない、と。

もし、八重が死んでしまえば、真白は悲しい。それに、仮にもしクロの洗脳が解けてくれたとしても、八重のことを殺してしまった、という記憶は、一生クロに呪いとして付き纏うことになる。


(クロ………いくら洗脳されてるとはいえ、こんな酷いこと、するような人間じゃなかったのに……)


真白は改めて、組織の“調整”の異常性に驚愕してしまう。

一刻も早く“調整”を何とかしないと、クロの人格は……。


だが、いくら櫻達が訴えかけたって、今のクロには響かない。


(それなら、いっそのこと………)


真白は、覚悟を決める。


(綺麗事だけじゃ、生きていけないのかもね、この世界は)







☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★







「へぇー。それで、私を頼ったんだ?」


真白が訪れたのは、2年前、自身を殺しかけた相手の元だった。

吸血鬼の王。アストリッド。彼女は、2年前からずっとクロのことを狙っている。


そして、真白は、常々考えていたのだ。


クロをアストリッドに引き渡してしまってはどうか、と。


組織にいるクロは、ボロ雑巾のように、いや、ボロ雑巾にすらなれない程、暴力を受け、人格を否定され、捻じ曲げられ………。


ルサールカも、クロのことを道具としか思っていない。

愛情も、愛着も、持ち合わせてはいない。


そんな様子を見て、思ったのだ。

アストリッドの方が、何倍もマシなのではないか、と。


アストリッドは、『クロ個人』に視点を向けている。ルサールカは、クロがたまたま組織の作った人工魔法少女だったから道具として使っているだけだが、アストリッドはそんなものを抜きにして、クロを求めている。


それに、アストリッドは、組織と違って、クロの人格そのものを否定することはなかった。


思い出すのは、櫻達と共に初めてアストリッドと砂浜で戦った時のこと。

アストリッドはあの時、辰樹と真白、どちらを殺すか、クロに尋ねていた。


選択の余地を与えていた。


そして、クロの人格を捻じ曲げ、組織好みの性格へ変貌させるわけではなく、クロの人格を保たせたまま、アストリッドに対し依存させることで、アストリッドのために働こうと、自発的にそう思うような洗脳を行なっていた。


組織は、クロを見てはいない。そこに落ちていたからとりあえず拾った。ただそれだけだ。


対してアストリッドは、クロ自身を見ている。


それなら、彼女に洗脳された方が、まだマシだろう。

だから、頼み込みにきた。


クロのことを、奪ってしまって欲しい、と。


アストリッドの力ならば、組織のクロへの洗脳を、何とか無効化することができるかもしれない。


代わりにクロは、アストリッドの忠実な(しもべ)と化してしまうわけだが。


「まあ、構わないよ。というか、元より私はクロを手に入れるつもりだったからね」


「わかってる。だから、教えに来た。組織内部の、情報」


「ククッ! アッハハハハハ!! やっぱり、諦めないものだね、こういうのは」


アストリッドは高らかに笑う。それもそうだろう。2年間求め続けたものが、やっと手に入ろうとしているのだから。


「安心したまえ。クロにはたっぷり教えてあげるよ。吸血鬼の良さってやつをね」


「別に、洗脳してしまえばいいでしょ」


「洗脳といっても、私のことが『好き好き大好き♡』になるだけで、吸血鬼そのものが好きになるわけじゃないんだよ、私の洗脳(わたしの)は。だから吸血鬼の良さは、別で教えてあげないといけないんだ」


そういってアストリッドは、自身の漆黒の翼をバサバサと広げ、真白に見せびらかす。


「かっこいいだろう?」


「…………べつに」


ちょっとだけかっこいいと思ったことは、内緒だ。

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