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Memory81




櫻とアストリッドの戦いは、互いに決定打となる攻撃を加えることができず、中々決着がつかないでいた。


櫻がセカンドフォームになれば、すぐにでもアストリッドを倒すことができる。が、セカンドフォームは魔力の消費が激しい。アストリッドと戦った後のことを考えても、櫻はセカンドフォームを温存するしかなかったのだ。


「このままじゃ埒があかないね」


アストリッドは、いつまでも終わらない戦いに嫌気がさして来たのか、懐から注射器のようなものを取り出す。………怪人強化剤(ファントムグレーダー)

一時的に自身の戦闘能力を大幅に上げる代物だ。


アストリッドは、怪人強化剤(ファントムグレーダー)を自身の腕に刺す。

瞬間、アストリッドの全身から、とてつもない量の魔力が漏れ出す。


「怪人ってのは魔族を参考にして作られたものだ。その怪人用に作られた怪人強化剤(ファントムグレーダー)なら、魔族に使っても同様の効果が得られるはずだ。分かるかな? 怪人強化剤(ファントムグレーダー)を使った私には、君は敵わないんだ」


櫻達魔法少女が怪人強化剤(ファントムグレーダー)を使用した場合、クロなどの例外を覗けば、その副作用で魔法少女として活動できなくなってしまうか、最悪の場合命を落とすことになる。


だが、アストリッド達魔族には、怪人強化剤(ファントムグレーダー)を使用することによるデメリットなどない。


「それなら……私も本気を出さなきゃだね……」


櫻もまた、アストリッドに対抗するかのように、セカンドフォームへと変身する。


櫻はセカンドフォームになれば、他のどの魔法少女にも負けない、最強の魔法少女である。


だが……。


(セカンドフォームでも、勝てるかどうか………でも、やるしかない)


そんな櫻ですら、今のアストリッドの強さは計り知れない。


究極魔法(マジカルパラダイス)・百花繚乱!!!」


「そんなもの…」


櫻は、無数の武器でアストリッドに攻撃を加えるが、アストリッドはそれを血の刃で全て相殺していく。


「まだまだ! 究極魔法(マジカルパラダイス)・花吹雪!!」


櫻が唱えると、周囲に桜の花弁が吹き荒れ、アストリッドの視界を阻害し出す。

また、異次元から伸びた鎖が、アストリッドの体を拘束しようと四方八方からアストリッドに向かって来る。


アストリッドはその全てを、鬱陶しそうにしながらも交わしていく。


当然、櫻も鎖でアストリッドを捉えることができると考えているわけではない。


アストリッドが鎖を避けると、どうなるか。

アストリッドに、周囲に飛び散っている桜の花弁。それがアストリッドの体と触れ合うことになる。


その花弁がアストリッドの体に触れた途端。


バチっと、まるで電撃が走ったかのような衝撃が、アストリッドの体に走る。


そう、今ここで舞い散っている全ての花弁は、アストリッドに攻撃を加えるための、『武器』なのだ。


アストリッドが鎖の拘束から逃れようとすれば、桜の花弁に当たって、自身の体に次々とダメージを与えられてしまう。逆に、花弁を避けようとすれば、今度は鎖への注意が疎かになってしまい、櫻によって拘束されることになる。


「花吹雪は、一度発動すれば数時間は発動し続ける。しばらくそこで遊んでおくといいよ」


そう言って櫻は、アストリッドをその場に置いて、茜達が向かった方へと駆け出す。


当然、あの程度でアストリッドを仕留めれるとは思ってはいない。だが、確実に足止めはできる。

その間に、茜達の様子を見に行こうと、そう櫻は考えたのだ。


「ちっ……厄介な……」


そんな櫻を追おうとするアストリッドだったが、櫻の花吹雪によって、完全に身動きを封じられてしまっていた。






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






アストリッドのことを放置し、茜達のいる場所へとやってきた櫻が見たのは、魔法少女同士で戦い合っている、見たくない光景だった。


束は真白と、茜はクロと、それぞれ戦い合っている。

真白が本気で束と敵対し合うつもりがないのは、戦いぶりから何となく察せる。櫻は、戦闘面に関して敏感になっているためだ。だが、クロの茜への態度は……。


(明らかに、殺しに行ってる、よね……)


茜のことを殺したい、そんな感情が遠目で見ても分かるほど、クロからはとてつもない殺気が出ている。


(一体、何が……)


「うるさいな。死んでよ。鬱陶しいから………」

 

「っ! 絶対、助ける。貴方が”調整“ってものを受けて、そうなってしまったっていうなら………。私が、クロ、貴方を”調整“して、元に戻してあげる!」


(“調整”? とにかく、クロちゃんが何かされてしまったのは間違いなさそう……そうなったのは……)


櫻は、魔法少女達の戦いを傍観している組織の幹部達の方へ視線を向ける。


(あいつら………)


櫻は、後方で見物に徹しているロキとノーメドに殺気を向ける。


「百山櫻か………。流石にあいつを相手にするのはしんどいな、ずらかろうぜ」


ロキは、櫻の存在に気付き、ノーメドと共にこの場を去ろうとしている。


「させない!」

櫻はロキとノーメドを逃さないため、追いかけようとするが………。


横から大鎌が飛んできたことによって、足を止められる。


その大鎌を投げたのは、クロだ。

茜との戦闘で使っていた、自身の武器を、組織の幹部の逃走のために使ったのだ。


茜との戦闘中であるにも関わらず、だ。


「ロキ様とノーメド様は、組織に帰って仕事をしなきゃいけないのに、邪魔するなんて何考えてるの? 大体、組織に逆らおうなんて、馬鹿が考えることだよ。まあ、私も前までその馬鹿の1人だったんだけどさ……。可哀想だね、組織の素晴らしさが解らないなんて。組織のために、自分の人生台無しにして、一生を使い潰されることが、どれだけ幸せなことなのか分かってない」


別に櫻は、クロの足止めを無視してロキやノーメドを追うことぐらい容易にできる。だが……。

クロのおかしな言動。それに動揺して、ロキやノーメドのことなど、どうでもよくなった。


「自分の人生台無しに、一生を使い潰されることが幸せ……? おかしいよ……そんなの……」


「分かってないなぁ……。身の程はわきまえないと。魔法少女として人々を守る。自分の夢を追う。結婚して、子供を作って、幸せな生活を送る。全部馬鹿馬鹿しい。私達に必要なのは、組織のために働くこの身ひとつ。この世界は、組織に支配して貰えばいいの。人を守る必要もないし、自分の夢なんて追わなくていい。将来は、全部組織に決めて貰えばいい。結婚して子供を産むなんて以ての他。子孫を残すなら、組織の魔族の方の立派な遺伝子を残していかないと」


「そんなことない……。人を守るのも、夢を持つのも、家庭を持つのも、全部立派なことだよ…。馬鹿馬鹿しいことなんかじゃない」


「そんなに何かを守りたいなら、組織を守ればいい。夢を持つなら、組織で働かせてもらうことを夢にすればいい。子供が欲しいなら、組織の魔族の方に頼み込んで優秀な遺伝子を恵んで貰えばいい。正直馬鹿馬鹿しいけど、でも、組織でも櫻が言っていることはできるよ?」


「そうじゃない………そうじゃないんだよ……クロちゃん………」


「はぁ……話しても無駄だね。やっぱり、馬鹿には組織の素晴らしさが分かんないんだ?」


もう既に、茜も束も、戦うことを止め、クロの発言に、何とも言えない表情をしている。

察したのだ、今のクロに何を言っても無駄なのだと。完全に組織の虜になってしまったのだと。


「……クロ、一旦、組織に帰ろう。櫻を相手にするには、私達じゃ厳しいから」


「シロ……。でも、魔法少女を殺せってルサールカ様に命令されたでしょ? 何もせずに手ぶらで帰るのって……『ご褒美』も貰えないし……」


「敵いもしない相手に、無理に挑むの? それこそ、馬鹿だよ。きっと、そんな馬鹿な行動してたら、ルサールカ様にも軽蔑される」


「そっか、そうだね。危ない、危ない。敵わない相手に挑んでも、組織には何の特にもならないもんね。そんなことしたら、ルサールカ様にも失望される。ありがとうシロ。シロのおかげで、馬鹿にならずに済んだよ。やっぱりシロも、組織のために色々考えてくれてるんだね」


「う、ん……そう、だね……」


クロとシロは、組織へ帰ろうと、その足を動かそうとする。


「待って!!」


帰ろうとする2人を、茜が引き止めようとするが……。


「茜さん、今引き止めても、何も意味がないです。認めましょう。今回ばかりは、私達の負けです」


そんな茜を、束が引き止める。

束だって、今すぐどうにかできるなら、そうしたい。だが、無意味なのだ。今、いくら何をしようとも。


「来夏ちゃんのところ、行って来る」


櫻は、アストリッドと戦闘していた場所へと戻っていく。

アストリッドのことは花吹雪で拘束しているが、花吹雪は魔力の消費が激しく、ずっと発動させているわけにはいかない。それに、来夏がゴブリンに勝てたのかどうか、それもわからないし、アストリッドやロキは仲間というわけではないだろう。ロキやノーメドが帰ったからといって、アストリッド達も帰るわけではない。


「私達は……帰りましょうか。今櫻の援護をしに行っても、足手纏いだと思うから」


「そう、ですね…」


束と茜は、どこか暗い表情をしながら、家へと帰宅した。






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





「ルサールカ様、帰らせていただきました」


「あら、もう帰ってきたの?」


俺は、組織のアジトへと戻ってきていた。一応、組織は普段は空中に浮いているのだが、今は俺達が帰って来れるよう、地上に降りてきていたのだ。


ちなみにシロの面倒を見るのは、他の組織の幹部であるため、この場にはいない。


「それで、魔法少女の首は?」


「申し訳ありません……。櫻が来ちゃったので、流石に逃げるしか……」


「そう。じゃあ“調整”はお預けね」


「そ、そんな……。お、お願いします! 私を“調整”してください! もっともっと組織のことが好きになれるように、組織の駒になれるように!」


「あのねぇ。調子に乗らないでくれる?」


ドンっと、俺の腹に鈍い音が響く。

ルサールカ様が、俺に腹パンをした音だ。


「あぐっ………」


「クロ、貴方は、組織の使い捨ての駒なの。いつでも切り捨てれる、使い潰せる、そういう存在なの」


「いや………捨てないでください……」


「勿論、ちゃんと働いてくれれば、捨てないわ。『ご褒美』だってあげる」


「はい、ちゃんとはたらきます」


「そう。まあ、私でも百山櫻は怖いわ。だから、逃げてしまうのは仕方ないわね。だから、今度はターゲットを変えましょう」


そう言って、ルサールカ様は、三つの写真を俺に見せてくれた。


福怒氏 焔(ふくぬし ほむら)魏阿流 美希(ぎある みき)佐藤 笑深李(さとう えみり)。この3人、一応百山櫻との接点はあるけれど、でも交流が盛んなわけではないわ。だからきっと、ヤれると思うけど、どうかしら?」


「やります。殺せばいいんですよね? この3人」


「ええ、そうよ。怪人強化剤(ファントムグレーダー)も支給しておくから、きっと簡単にヤれると思うわ」


「わかりました、絶対に殺しますね」


ルサールカ様が提案してきたのは、かつてユカリと一緒にからかったことがある、3人の魔法少女を、殺害することだった。


怪人強化剤(ファントムグレーダー)も支給されてるなら、きっと簡単に殺せるはずだ。

絶対、3人の首を持ってこよう。そして、ルサールカ様に”調整“してもらうんだ。


もっと、組織のことが好きになれるように。

もっと、組織のために働けるように。

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