エイプリルフール【最終回・偽】
組織は解体され、魔族達による人間界の支配は失敗に終わった。
百山櫻と真野尾美鈴は、龍宮メナと共に人間と魔族が共存できる道を模索し続けている。
そして、そんな櫻達のために、蒼井八重や虹山照虎が、魔族の残党などの情報収集などをはじめとしたサポートを行っている。
朝霧来夏は、いまだに人間界を支配しようと企んでいる魔族の残党達を相手にしつつ、そんな魔族達に対抗するため、後輩の魔法少女や、新人の魔法少女の育成などに尽力している。
その妹の朝霧千夏は、魔法少女系アイドルとして、今も尚世間を魅了し続けている。
深緑束は、亡くなった友人である身獲散麗が通いたがっていた高校に入学し、散麗が生きていた間にやりたがっていたことを、束が代わりに行っている。この行動は束の自己満足でしかないのかもしれないが、それでも束はこの行動が散麗の供養に繋がると信じている。
そして、クロの双子の妹であり姉でもある、双山真白ことシロは……。
「お姉ちゃんの墓参り?」
墓地で静かに手を合わせる真白にそう尋ねるのは、真白の妹でもあり、ある種娘とも言える少女、ユカリだ。現在は双山家に引き取られ、真白と共に過ごしている。
「ううん。これはミリューって子の分。私はまだ、クロは生きてるって信じてるから」
「変なの。ミリューお姉ちゃんは死んだりしてないのに」
「ああ、うん。そうだね……」
真白はユカリの言葉に、歯切れの悪そうな返事をする。
ユカリは知らないのだ。ミリューが死んだということを。
厳密には知らないというよりも、ミリューが死んだことを信じていない、というのが正しいだろうか。
ユカリはミリューによって、一度失った命を取り戻している。ユカリにとって、ミリューは命の恩人なのだ。だからこそ、信じたくないのかもしれない。
逆に、ユカリの方はクロの死を受け入れてしまっている。
彼女は実際に、クロの死に目に遭ってしまっているからだ。痛いこそ見つかっていないが、ユカリはクロが死んでしまう瞬間を確かに見た。少なくとも、ユカリはそう思っている。
「何だ、シロとユカリも来ていたのか」
そんな2人に声をかけるのは、花束を持った1人の男だ。
名はアスモデウス。昔は組織の幹部をしていた男で、現在は魔族でありながら、人間社会で生きていくことを選んでいる。
そんな彼もまた、墓地で墓参りをしに来たらしい。
「アスモデウスは誰の墓参り?」
「パリカーのだ。………幼馴染だからな」
そう言って、アスモデウスは花束を墓に添え、手を合わせている。
真白とユカリもそれを見て、それぞれ手を合わせる。
大切な人の死を受け入れるために。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「ねぇ、本当に良いの? シロとユカリにだけでも顔合わせしといたら?」
そう提案するのは、紫色の髪をツインテールにした、ユカリとよく似た顔を持つ少女、ミリューだ。
真白はミリューが死んだと思い込んでいるようだが、実際は生きており、実はこっそりユカリにだけ顔を見せに行っていたりする。ユカリがミリューのことを死んでいないと主張するのはそのためだ。
「そ、その場合どうなるの…?」
そして、そんなミリューが話しかけている相手は、元悪の組織所属の魔法少女、クロだ。
クロもまた、ミリューと同様死んだという風に認識されているが、実際はそうではない。ただ、クロの場合は真白やユカリなどにも顔を見せに行っていないため、クロの生存を知っているのはミリューだけになる。
「さぁ? どうなるんだろうね」
先程から会話を交わす2人だが、『クロが真白やユカリと顔を合わせた場合、未来はどうなるのか』ということを、クロがミリューに尋ねている。
というのも、ミリューはどうやら未来の展開が限定的ではあるが読めるらしく、クロはミリューの未来予知に頼ろうとしているというわけだ。
ちなみに、クロが真白やユカリに顔を合わせないのも、この未来予知で自分にとって都合の悪い未来が訪れることを察したからである。
「………何で答えてくれないの?」
「んー。だって、答えちゃったら拒否しちゃうでしょ?」
「てことはやっぱり……」
「うん。男の子と結婚して、身も心も女の子になる未来に進むことになるね」
「うわぁあああぁぁぁぁぁあああああぁあいやだぁあああああああああああああ!!!!」
「えー何で? 子宝にも恵まれて、とっても幸せそうに過ごしてるけど?」
「だって、だってさ、前世は男なんだよ? それなのに、男と結婚なんて……」
「別に良いじゃん。前世の話でしょ? 今は関係ないじゃん。それに、最近は同性婚も承認されつつあるんだし、問題ないと思うんだけど」
「こういうのは気持ちの問題なの! 俺は妹の動向を見守れればそれでいいの!」
「え〜」
クロは組織が崩壊した後、前世の記憶を完全に思い出しており、そのせいか前世で使っていた一人称がたまに表に出てくることがある。
「って、あの魔族……雪のこと狙ってるな……」
「あっ、ちょっと!」
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「おい、そこの人間っ! 殺されたくなかったら俺のいうことを聞け」
尾蒼始守アパートの住民、黒沢雪は、仕事をするために職場へ向かう途中で、魔族の男に声をかけられていた。
魔族の存在は、組織が崩壊した時点で世間に公開されており、魔族と人間の共存は、現在の社会問題にもなっている。
そんな魔族だが、当然力は人間の数倍あり、人間に友好的ではない魔族は、たとえ下級のものであっても相当な脅威となる。
だからこそ、雪も素直に魔族の指示に従い、言うことを聞くことにしたのだが……。
「が……は…………」
突如、魔族の体が前へと倒れる。見ると、先程まで雪を脅していた魔族は、白目を剥いて気絶していた。
倒れる寸前に、少しだけ、髑髏の仮面を被った少女が駆けていった気がしたが……。
「もしかして……」
雪は髑髏の仮面を被った少女が駆けて行った方へ走る。
職場とは、全く反対方向だ。
だが、当然、髑髏の仮面の少女は、はっきりと目に見える様な速度で走っていたわけではなく、目に捉えるのが難しいくらいに物凄いスピードで駆けて行ったため、当然雪の足で追いつけるはずもない。
「はぁ……はぁ…………早すぎるよ……」
雪は膝をついて、息を整える。
これ以上深追いしても、雪が髑髏の仮面の少女に追いつくことはできない。それに、仕事を放棄するわけにもいかない。
「まったくもう、照れ屋さんなんだから」
雪は、そう呟きながら、職場へと向かいだす。
「ありがとう、お兄ちゃん」
エイプリルフールネタ。
一応こんな感じの最終回もありかなと思って、考えていたものの一つです。
没になったわけなんですけど、『死を偽装している理由』が原因ですね。辰樹×クロを示唆してしまっていたり、理由付けとしては弱かったりするので、没となりました。
ちなみにミリューが未来予知できるどうのこうのは、このお話内での話だけ、という風に解釈しておいてください。




