Memory77
遊園地、久しぶりに来るなぁ。
実は先日、シロから皆で遊園地にでも行かないかとの提案を受けまして。
そういうわけで、シロ、櫻、茜、来夏、束と、その彼氏の朝太、そして辰樹に俺の8人で遊園地へとやってきています。
「8人でゾロゾロ行くのも何だし、グループ分けして回らない? 8人いるし、4人1組の2グループって感じで」
入り口を抜けた先で、茜がそう提案してくる。
まあ確かに、8人はちょっと多すぎるような気もする。それぞれ回りたい場所も違うだろうし、分割した方が、各々行きたい場所に向かえるからそっちの方がいいだろう。
「束ちゃんと朝太君は、恋人同士だし一緒のグループだよね」
「そうですね。あ、私個人的にクロさんと回りたいので、クロさんも同じグループでお願いします」
「辰樹を入れてもいいか? 一応親友なんでな」
「それじゃ、それぞれ束、朝太、辰樹、クロで1グループ。残った私達でもう1グループって感じでいいかしら?」
おっと、知らない間にグループ分けは決まっていたらしい。
どうやら俺は束や辰樹達と一緒のグループらしい。まあ、束とは結構仲良いし、辰樹とも、一応俺は前世は男だったわけだし、多分何とかなるだろう。
「それじゃ、行きましょうか」
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「クロさん、どこか回りたいところとかあります?」
「んー別にどこでもいいよー」
「知ってますか。どこでもいい、なんでもいい。これが一番困るんですよ?」
「えーそんなこと言われてもー」
束、多分俺に気をつかってくれてるな?
本当は朝太とイチャイチャしたいだろうに、俺が辰樹と2人きりじゃ気まずいんだろうということを察しているのか、俺に話を振ってくれている。もちろん、恋人である朝太にも気を配りながら、だ。
正直、辰樹とのコミュニケーションはどうにかなると思ってたけど、そういえば辰樹と最後に話した時のことを忘れてたなぁと。あれが最後の会話って考えたら、辰樹と話すのも何だか気まずい気がする。
それにしても、束って親しい人でも基本さん付けで呼んでるなぁ。何でなんだろう。
「そういえば、束って誰にでもさん付けするよね。なんでなの?」
「あー。基本的に年上にはさん付けですね。というのも、年上の人とは初対面の時基本的に敬語で話すので、友人になった後でもその癖が抜けないといいますか…」
「俺は束のそういうところに惹かれて、それで告白したんだ」
「朝太、お前、見た目が好みだったからとか言ってなかったか?」
「見た目が好みなのは事実だが、お前に俺と束の馴れ初めを話しても無駄だと思ったからそう話しただけで、決め手となったのは彼女の性格だ」
まあ、朝太って中学生の頃も委員長やってたくらいだし、真面目な子が好みなんだろうなぁって気はしてたけど。
まさか束と付き合うとは思ってなかったなぁ。まあでも確かに束の容姿はかなり良いしね。櫻達の中じゃ、束、八重が世間的に美少女、美人と呼ばれる部類だろう。もちろん、櫻達は櫻達でそれぞれの良さはあると思うけどね。
後、身内の贔屓目でなければシロの容姿も良い方だろう。まあその理論でいけば俺も容姿はいいのかもしれないけど、中身男の子だからね。まあ、シロと比べれば見劣りするだろう。
「と、とりあえず! まずはお化け屋敷にでも行きましょう!」
束はさっきの話で恥ずかしくなったのか、頬を真っ赤に染めながらそう提案する。
って、朝太の方も赤面してる……。
惚気るなら2人っきりの時にしてくれます?
こちとら恋人いない歴=年齢+前世なんじゃい!
「クロさんの怯える顔を見るのが楽しみですよ、ふふふ………」
お化け屋敷かぁ。そういえば妹と一緒に行ったっけ。
あの時は妹が物凄く怖がって………。
妹……?
誰のことだっけ……?
「クロさん、何ぼーっとしてるんですか? 早くしないとどんどん人が来て列並べなくなりますよ」
「あ、ごめん。ちょっとね」
まあ、いいか。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「ひ、ひあやあううあうあうあうあ!!! おびゃけ!! おびゃあっけけけがああっはがっが!!」
「束、誰の怯える顔が楽しみだって?」
お化け屋敷にやってきたところ、本気でビビってたのは束ただ1人だったみたいだ。
俺と辰樹、それに朝太は、お化け屋敷を楽しむというよりも、お化け屋敷で怯えている束を見て楽しんでいた。
というのも、束は小さい頃から遊園地というものに訪れたことがないらしく、そのせいでお化け屋敷自体も初めてだったらしい。
「クロは、こういうの怖くないのか?」
「え……………あ、ああうん。全然」
びっくりした。突然辰樹が話しかけてきたものだから、焦ってしまった。
辰樹、実はあの時のこと、案外気にしてなかったりするのかな?
「……次は、ジェットコースターにしますか!」
お化け屋敷から出た束は、先程まで怯えていたとは思えないほど活発な声でそう言う。
やっぱり、初遊園地でテンションが上がってるのかもしれない。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「オロロロロ………………」
「だ、大丈夫か束……」
ジェットコースターから降りた後、そこには束の背中をさする朝太の姿が………!
……何があったのかは、彼女の名誉のために黙っておこう。
「こ、これがジェットコースターですか……! お、恐ろしい……。私の臓器をこれでもかという程にかき混ぜてくるとは……!」
お化け屋敷の時と同様、やっぱりジェットコースターでも束が一番喚いてました。
正直、あんなに絶叫する束の姿はもう二度と見れないんじゃないかなと思うくらいに。
「つ、次はもう少し落ち着いたものにしましょう。そう、観覧車とか、そういうゆったりとしたもので」
今の束の様子を見てると、正直観覧車でも怖がっちゃうんじゃないかなって気がするんだけど、大丈夫かなぁ?
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「「………………」」
で、観覧車に乗ることになったんだけど……。
束と朝太が2人っきりで乗りたいって言い出して、そのせいでこっちも辰樹と2人っきりの状況な訳だけど…。
いや、もちろん恋人同士で乗りたいって気持ちはわかるし、束も俺ばっかに構うわけにはいかないってのも分かるんだけど……。
それにしても、だ。気まずいものは気まずい。
「「あの、さ……」」
か、被っちゃったぁ……。
「あ、先言っていいぞ」
「いや、辰樹の方こそ、言いたいことがあるなら先に……」
「じゃあ…………その、この前はごめん……。俺、クロの気持ちとか、何も考えれてなくて……」
やっぱり、嫌われてるってわけではないんだ。
いや、分かってた。嫌ってる相手に対して、助けたいだとか、そんなこと言うはずなんかないって。
それに、この前のことに関しては、辰樹にはなんの非もない。
悪いのは全面的に俺だ。
「辰樹、それは違う。あの時は、ただ、辰樹に八つ当たりしてただけだから、謝るのは私の方。本当にごめん」
「……今は、どう思ってるんだ? まだ、ユカリのこと……」
「正直言ったら、まだ、割り切れてはいないと思う。魔族を恨んでないって言ったら嘘になるし、復讐をする気がないかっていうと…………わからない。でも、今は物凄く、安定してるっていうか………。そうだね、助けてもらえて、良かったって思ってる。だから、ありがとう、辰樹」
「俺は別に何も……」
「私のこと助けようとしてくれてたでしょ? アレのおかげでもあるんだ。私が組織から抜け出せたの。だから、ありがとう」
嘘は言ってない。実際、組織を抜け出しても………助かっても良いのかななんて思えたのは、辰樹が俺を助けようとしてくれていたから、その気になれたっていうのは大きい。正確に言えば、櫻や辰樹、皆がって部分だけど。
それでも、何人かが自分の身を案じてくれてるって考えたら、やっぱり人って心を動かされるものだ。
「クロ……。俺、言っておかないといけないことがあるんだ」
「? 何?」
言っておかないといけないこと?
何だろう。そういえば、観覧車の進みも、残りもう半分くらいか。
「俺……さ………」
「うん」
「好きだ。クロのこと」
ルサールカ、そろそろ迎えに行こう。




