Memory71
アイドル系魔法少女・朝霧千夏がライブをしている会場の付近で、桃色の髪の魔法少女・百山櫻と、『ノースミソロジー連合』リーダー・オーディンが対峙する。
両者は互いに睨み合い、そして……。
「『水の鎖』」
先に動いたのは、オーディン。
水の鎖により、櫻の動きをふうじるつもりらしい。
水の鎖が、櫻の体を拘束する。
櫻の腕には、大剣桜木が握られているが、当然腕も水の鎖によって拘束されているため、大剣桜木を振るうことも不可能だ。
「サンドバックにするつもり?」
「できるとは思っていない。実際、抜け出すことは容易なんだろう?」
「そうだね。『召喚・桜銘斬』」
櫻が召喚した『桜銘斬』により、櫻の体を拘束していた水の鎖が、切られていく。
だが、『桜銘斬』で水の鎖を切っても、切られた部分はすぐに修復され、櫻はすぐに拘束されてしまう。
「良い誤算だった。まさかオレの拘束を解けないとは。ありがたくサンドバックにさせてもらおう」
拘束を振り解くことができない櫻を見て、オーディンは勝ちを確信したようだ。
「まさか、こうも簡単にお前を倒すことができるとはな。まあ、所詮魔法少女は魔法少女だということか。成長するとは言っても、それには上限があるらしい」
「そうだね。確かに、今の状態じゃ、私はサンドバックにされるしかないかも」
「そうか。なら、大人しくサンドバックに」
「今の状態なら、の話だよ。私はね、普段力を使いすぎないように、ある程度セーブしながら戦ってるの」
「………何が言いたい?」
「リミッター解除。マジかレイドピンク・セカンドフォーム」
櫻がそう唱えた途端に、水の鎖は四方に弾け飛び、そして。
櫻の体が、光に包まれる。
「何?」
光が消え、次に櫻の姿が見えた時。
その姿は、先程とは異なるものへと変化していた。
桃色の髪のある頭には、桜の花で作られた花の輪があり、腕には桃の色をした桜模様のリングがはめられている。
魔法少女のドレス型衣装には、ところどころに金の刺繍がされており、背中には桃色の天女の羽衣のようなものがついている。
履いている靴にも、桜の花が装飾されており、左足には桜のアンクレットがついている。
全体的に、桜の主張が激しく、少し派手な印象を受ける衣装だ。
そして、変化したのは衣装だけではない。
櫻の桃色の瞳の周りは、金色の輪で囲われており、瞳の形も、花のような形に見える。
また、櫻の周囲では、桜の花弁が常にひらひらと舞い降りている。
「私の周りに飛んでいる桜の花弁は、触れただけで並の怪人は消滅する。これに触れるだけで、貴方達もダメージはいく。降参をおすすめするけど…」
「ふん。怪人如きを葬れるだけだろう? 調子に乗るな! お前に死を与える!! 来い! 『グングニル』!!!!!」
オーディンは、黄金の槍・『グングニル』を召喚する。
「あまり、手荒な真似はしたくないんだけど」
「ほざけ。貫け!! 『グングニル』!!!!!!!」
オーディンは、『グングニル』を櫻に向けて放つ。
しかし、『グングニル』が櫻に当たることはなかった。
突然櫻の姿がオーディンの目の前から消えたためだ。
「瞬間移動……?」
オーディンはそう溢すが……。
実際、櫻が行ったのは瞬間移動でも何でもない。
その天女の羽衣のような布でもって、空中を飛んで『グングニル』を回避していたのだ。
そして、櫻は宙を舞い、体を翻しながら、魔法を詠唱する。
『究極魔法・百花繚乱!!』
オーディンに、多種多様な魔法が襲いかかる。
様々な武器
槍 剣 弓 銃 弩 釵 槌 鞭
その全てが、オーディンの体に襲いかかる。
しかも、普通の武器の攻撃力ではない。一つ一つが、魔族を殺せるほどの強力なもの。
しかし、それらの武器による攻撃は、明らかに致命傷を避けている。
絶対に殺せる技で、絶対に殺さないように調整されている。
「ば、バケモノめ…………」
オーディンは思わず、そうこぼしてしまう。
こんな芸当ができるのは、もはや……。
「魔王と、同格…! あるいは、それ以上かもしれん……」
今は亡き、魔族達が崇める魔族の王よりも、格上。そう結論付けてしまうほどに、櫻の魔法は化け物じみたものだった。
「百山椿や朝霧去夏を警戒していた頃が懐かしい。こんな化け物、警戒する気力すら起きん………」
ちなみに、櫻が魔法少女最強と言われるのは、このセカンドフォームの影響ではない。
櫻はセカンドフォームを使わずとも、最強の魔法少女に至ったのだ。
そして、櫻に実力が匹敵すると言われている来夏だが、それも櫻がセカンドフォームを使わなかった場合の話だ。
つまり、この世に、セカンドフォームを使った櫻を倒せる存在は、単体では存在しない。
櫻を倒したければ、最低でも2人、実力のある魔族が必要になってくる。
一応、単体でも櫻を倒す方法もあるにはあるはずだ。でなければ、今頃魔族は全て滅ぼされていてもおかしくはない。だが、今のオーディンにはその方法が思いつかなかった。
そう、オーディンには。
最初から勝ち目など、なかった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
ロキと戦闘していた茜は、突然現れたクロの存在に困惑し、まともに相手することができず、追い詰められてしまっていた。
「茜、どうしたの? 反撃しなよ。じゃないと、殺すよ!」
クロは狂気的な笑みを浮かべながら、茜に襲いかかる。
2本の大鎌を、それぞれの手で軽々と扱い攻撃するその様子からは、手加減しようという意思は感じられず、誰が見ても殺しに来ているのは明らかだった。
「くっ、何で……」
『さっきからロキの気配は消えていない………警戒を怠るな、茜』
「分かってるわよ! けど………」
「さっきから独り言をブツブツブツブツ……。あ、もしかして、友達がいなさすぎてイマジナリーフレンドでも作っちゃったのかな? だとしたらごめんね〜。私には親友と呼べるくらい仲良い子がいるから、友達いない人の気持ちが分からないんだ〜」
「友達ならいるわよ。ってそんなことはどうでもよくて……」
『来るぞ!』
クロは茜を煽りながら、大鎌を振り回して茜を襲う。
「分からないのよ、私には。この子の本当に考えてることなんて」
『見て分からないのか。もうクロは狂っている。疑いようもない』
「分からない、わ! 2年前も、街を壊したクロに、私は何の事情も知らないで怒った。けど、そうじゃなかった、本当は……!」
「本当、鈍いなぁ。ていうか、いつまで精霊と話してるつもり?」
『何?』
今戦っている彼女がクロであるとすれば、精霊の存在を認知している時点でおかしい。もしかしたら組織の魔族に教えられたのかもしれない。だが、だとすれば何故茜がイフリートの力を借りていることがわかるのか、また、茜が何故イフリートと会話を交わしていると分かるのか、不自然な点がある。
しかし、仮に相手がロキだったとしても、それは同じことだ。
だから、茜は今のクロの発言に疑問を抱くものの、特に気にすることはなかった。
ただ、イフリートは、その違和感に気づく。
『茜、お前が今戦っている相手は、ロキだ』
「何ですって!?」
『まず、俺の存在を認知できている時点で、目の前にいるクロが人間ではないことになる。そして、北欧神話のロキには変身術が得意だとされている。そのロキから名前を取ったとなれば、こいつも……』
「へぇー。そういうことね! よくも惑わしてくれたわね! ロキ!!」
「その反応、流石にバレたかな」
そう言うと、クロの体は霧に包まれ……。
「正解! さっきのクロは、この俺、ロキが変身した姿でした〜」
霧の中からは、再びロキが現れた。周囲にクロの姿はなく、これでロキがクロに変身していたと言うことがわかった。
「そうと決まれば……。一気に行くわよ!!」
茜はロキを攻撃しようと、意気揚々とロキに攻撃を加えに行く。
「残念だけど、俺はもう君と戦うつもりはないんだよね」
そう言いながら、再びロキは霧に包まれる。
「クロの姿で戦っている時に思ったんだけど、君思った以上に強そうだから逃げるね。それじゃ」
茜が最後に聞いたのは、そう吐き捨てるロキの声だった。




