Memory70
「勝負よ! ロキ!!」
「うおっ、めっちゃ燃えてる! かっこいい〜」
茜は、ロキと対峙する。
現在茜は、イフリートの力を手に入れたことにより、魔族と渡り合う力を手に入れたばかりだ。
本来なら、力を鳴らすところから始めた方がいいのだが、しかし、ロキが焔達を狙う以上、そんな暇はない。
「『爆炎』!!!!!!!」
茜は、真白が来る前に魔族達に使っていた『爆炎』を、再び使う。
「やべっ!」
ロキは『爆炎』を避けるが…。
「何だこの熱気………やばいな………」
茜の『爆炎』が通り過ぎた地面は抉れており、周囲では凄まじい熱気が場を支配していた。
「すごい………さっきの『爆炎』とは大違いだわ………」
『当たり前だ。俺の力を持っているんだからな』
イフリートもまた自慢げにそう告げる。
「なるほど。精霊の力を貰ったわけか。いいね、面白い。なら、こんなのはどうかな?」
瞬間、ロキの周囲に黒い霧がかかる。
「逃げるつもり? させないわ『炎壁』!!!」
茜は、黒い霧を出したロキを見て、ロキがこの場から逃亡しようとしていると考え、『炎壁』でロキの退路を塞ぐ。
前までの茜なら、仮に『炎壁』を設置したとしても、簡単に壊されてしまっただろうが、今の茜は、“バーニング茜”だ。『炎壁』もまた強化されている。
『安心しろ、奴は逃げていない』
霧が晴れていく。
中から現れたのは……。
「久しぶり、茜」
「は………クロ……?」
悪の組織にいる、顔見知りの魔法少女の姿だった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「やはりな。オレの見込んだ通り、お前はあの金髪の女ほどは強くはないらしい」
「そんな………」
真白は、突如現れた青髪の男、オーディンに追い詰められていた。
後ろでは、さっきまで真白が追い詰めていた魔族達が、真白が追い詰められている姿を見て、心底楽しそうな表情をしている。
さっきまで自分達をいじめていた存在が、今度は逆にいじめられている。そんな光景を見て、愉快にならずにはいられなかったのだろう。
「どうした? もう終わりか」
「っ! まだ………まだ! 『水の鎖』!」
真白は水属性の魔法によって生み出された水の鎖で、オーディンを拘束する。
「無駄なこと」
しかし、真白の生み出したはずの『水の鎖』は、オーディンの体を縛り付ける前にその形を崩し、そのまま地面へと落ちていってしまった。
「何で………」
「当たり前だろう。同じ属性の使い手、それも格上ともなれば、自分の魔法の性質を書き換えられてもおかしくはない。つまり、オレはお前と同じ水属性の使い手だというわけだ」
そう、オーディンは水属性の使い手で、先程から真白が使っているのも、全て水属性の魔法だったのだ。
だからこそ、真白の水属性の魔法は、全てオーディンによって書き換えられ、その効力を無効にされてしまっていたのだ。
「そういうことなら……『ホーリーライトスピア』!!」
真白は、複数の光の槍を出現させ、それらを一気にオーディンに向けて放つ。
「なんだ、光属性の魔法も使えたのか」
オーディンは真白の『ホーリーライトスピア』を軽くいなすが、真白もそれに対して動揺はしていない。元々通じるとは思っていなかったからだ。
「私は元々光属性の使い手。水属性の魔法は、優秀な姉から受け継いだものだから、また別」
真白の水属性の魔法は、八重から受け継いだものだ。八重の友人である虹山照虎が、もう魔法が使えなくなった八重に対して、属性魔法の譲渡の仕方を教えられ、その結果、真白に八重の魔法が譲渡されることになったのだ。
もちろん、簡単に魔法が譲渡できるわけではなく、その条件には様々なものがある。その一つとして、まず血の繋がりがあることや、年齢が近いこと、など、条件は様々だ。
一応、譲渡元の人間を殺し、無理矢理属性魔法を奪うという手もあるようで、照虎が多数の属性を持っていたのも、その方法かららしい。
「くだらないな。今更光属性の魔法を使い始めたところで、お前の魔力はもうほとんど残っていないだろうに」
確かに、真白の魔力は無駄に水属性の魔法を使いすぎたせいで枯渇してきている。
もし相手がオーディンではなく、さっきまで戦っていた30体の魔族だったのなら、今まで使ってきた魔力で十分倒せていたかもしれない。
来夏もトールと戦闘中のため、真白に手を貸すことはできなさそうだ。
「どうすれば………」
「オレは慈悲などないからな。さっさと殺すとしよう。オレの水属性の魔法でな」
言いながら、オーディンは先程真白が放った『ホーリーライトスピア』と似たような水の槍を空中に大量に出現させる。
そして、それらは全て放たれ……。
「『召喚・大剣桜木』!!!!!」
その全てが、大剣桜木によってはじかれた。
「お前は………」
「ごめん、真白ちゃん。遅れた」
無属性の魔法の使い手にして。
「こいつの相手は私に任せて。真白ちゃんは、倒れている魔法少女の子達をお願い」
現在存在する魔法少女の中で、最強の魔法少女。
「厄介な奴を………」
「結局、戦うしかないんだね……」
百山櫻が、参戦した。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「あ………くそ………この、俺が………」
朝霧来夏vs『ノースミソロジー連合』2番手、トールの戦いは、来夏の圧勝によって、幕を閉じた。
地面には、黒焦げになって、服も髪もボロボロになったトールがいた。
「2年前負けたのが信じられないよ。私が強くなりすぎたのか、お前が弱くなったのか。私が強くなったのは確かだが、差が開きすぎて正直お前が弱体化したって線も全然ある気がしてくるよ。雷神トールを名乗るなら、もっと強くあってくれ」
来夏は退屈そうにそう話す。
彼女はもう負けないと、そう誓った。だから、勝つ。たとえどんな相手が立ちはだかろうとも。
「なんで……なんで俺の魔法が……………」
「ああ。私の方が格上だから、お前の魔法も私の魔法にできたんだよ。本当、2年前と真逆だよな。さて………」
来夏はそう言って、後ろに控えている魔族達の方を見る。
「次はどいつから来る? 誰でもいいぞ」
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「クロ……?」
「茜、久しぶり。2年ぶりに会っていきなりで悪いけど、死んでね」
そう言ってクロは黒い大鎌を取り出し、茜に向かって突撃してくる。
「クロ………! どういうこと!? 何でここにいるの!?」
『わからん。ただわかるのは、ロキという輩は逃げていないということだ。まだどこかに潜んでいるぞ』
「死ね!!」
茜は『炎壁』の応用で、炎の盾を作り出し、クロの大鎌を受け止める。
「クロっ! もう私達は戦う必要はないの! 櫻達が今、貴方を助けるために色々やってくれてる! 2年間ずっと計画を練ってたのよ、だから!」
「私は別にそんなこと望んでないよ。ただ、気づいちゃったんだ、ユカリを殺した時に。人を殺すのは、気持ちいいってことにさァ!!!!」
クロはそう言って、狂気的な笑みを浮かべながら、もう一つ紫色の大鎌を取り出して、2つの大鎌で茜に攻撃を加えてくる。
「そんな………」
おかしくなってしまったクロを見た茜は、ショックで防御が乱れる。
2年間ずっと、櫻達と共にクロを助け出すためにどうすればいいか、話し合ってきたのだ。
助け方だけでなく、助けた後、どうするか。
どうやって仲を深めるか。それを全て。
真白から、クロがどんな性格なのか、組織にいる時、どんな風に過ごしてきたのかも聞いた。
聞いていて、悪い子ではなさそうだとも感じたし、きっと仲良くできると、そう思ってもいた。
だからこそ、今のクロの状態に、嘘であってほしいと、どうしてもそう願ってしまう。
きっと何かの間違いだと、そう盲信して。
『おい、反撃しろ』
「今の私の火力じゃ、クロのことを殺しかねないのよ……? 仮に手加減したとしても、クロのことを傷つけてしまうわけで……」
『死ななければ問題はない。はやくやれ、いつロキとかいう奴が攻撃を加えてきてもおかしくないんだぞ!』
「そんなのわかってる……! でも…!」
『クロのことを助けたいのか? アレはもうダメだ! 狂っている!! 諦めろ!!』
「アハハ!! 死ねェ!!!!!」
「ごめんなさい……私には、できない……」
茜は、クロのことを攻撃できず……。
一方的にやられることしか、できなかった。




