Memory66
念の為『百合』『ボーイズラブ』『ガールズラブ』のタグを追加しておきました。
「そうなんですか………。クロさんを助けるのは、かなり難しそうですね………」
『ええ……。本当は、受験中の貴方にこんなことを報告するのは良くないのだけれど………』
緑色の髪をポニーテールにした敬語で話している少女の名は深緑 束。
2年前は櫻達と共に魔法少女として活動しており、一時は裏切ったりもした。
そんな彼女だが、現在は魔法少女をやめており、受験生として、日々受験勉強に励む日々だ。
彼女が目指す高校は、もう既に亡くなってしまった彼女の友人、身獲 散麗が目指していた高校である。束は、散麗の分も、自分が背負って生きていこうと、そう前向きに考えているのだ。
そして、そんな彼女が電話をしている相手は、青色の髪にメガネをかけた、賢そうな見た目をしている蒼井八重という名の少女だ。
束は、八重からクロの現状を伝えてもらっていた。
というのも、束は一時期、櫻達を裏切り、リリスという魔族の下についていた時期があった。
そのため、その時の境遇的にクロと似通った部分があったりする束に、八重が何か助言を貰おうとして電話をかけたのだ。
「私は、散麗を自分の手で殺したわけではないのですが、それでも、精神的にはかなり参りました。クロさんは自分でユカリさんを手にかけてしまったわけですから、その精神的ダメージは相当でしょうね」
『そうね……。私が、ヘマをしたせいで………』
「あまり自分を責めないでください、八重さん。それを言うなら、私だって、櫻さん達のことを裏切って、迷惑をかけてきたわけですし。それに、クロさんの件に関しては、悪いのはアストリッドです。八重さんも、あまり思い悩まないようにしてください」
『そう……ね。ごめんなさい。受験生なのに、こんな話しちゃって』
「構いませんよ。私達、仲間じゃないですか。それじゃあ、私は帰って勉強するので、また用がありましたら、連絡ください、では」
『ええ、ありがとう』
「さて、さっきから私の様子を伺っているようですが………どなたですか?」
八重との通話を終え、携帯電話をポケットにしまった束は、先程から自身をジロジロと見ていた怪しい者にそう問う。
「おっと、バレちまってたか。魔法少女やめたっつっても、勘は衰えてないみたいだな」
物陰から現れたのは、鷹のような見た目をした、人型の異形。
「ホーク、さん……?」
赤江美麗ことリリス率いる勢力の内の1人、ホーク。
どうやら、彼が先程から束の様子を伺っていた者であるらしい。
「裏切り者の私を、始末しにきた………。そういうことですか?」
束は、ホークがここにやってきたことを、裏切り者の始末であると、そう結論づける。それ以外に理由がないからだ。彼に接触される理由が。
「あ? 違う違う。俺は弱い者イジメは好きじゃないんだ。大体、それするなら2年前にやってるはずだ」
「まあ確かに2年前に殺せばいい話ですよね。それと、あの、2年前に学校を襲った時、ホークさん、『1人残らずミンチにしてやるぜェ!』とかほざいてたって聞いたんですけど。弱い者イジメが好きじゃないって、本当ですか?」
「あーそれは……。テンション上がってつい、な。実際あの時誰もミンチになんてしてねェしな」
ホークは少し恥ずかしそうに頬をポリポリと掻いている。多分、嘘は言っていないだろう。
「それで、裏切り者の始末じゃないのなら、今更私に何のようですか? もうみれ………リリスの元には戻るつもりはありませんよ。もう櫻さん達を裏切るわけにはいかないので。私を引き戻してくれた、茜さんのためにも」
「そんなんじゃねェよ。ただ、魔族の間じゃ魔法少女は殺すべきだって風潮が最近あってな、それの警告をしにきたんだよ。仮にも昔背中を預けあった仲だしな」
「ホークさんと共闘したことなんてありましたっけ?」
「…………ないな。まあいいんだ。んなことはな。ただ、そろそろ『ノースミソロジー連合』が動き出そうとしてる」
「あの連中がですか?」
「ああ。だから、お前さんのお仲間にも伝えた方がいいぜ、備えておけってな。ま、伝えたいことは以上だ。じゃあな」
「待ってください。なぜ、私にそんな忠告を……」
「この見た目で言われても説得力ないかもしれんが、俺は別に人間とか魔族とか、そんな気にしてないからな。それに、クロコの奴も心配してたぞ、お前がどうしてるのかってな。リリスはまあ、あんな裏切り者どうでもいいとか、拗ねてやがったが」
「そうなんですか…………」
「まあ、魔族も人間も、そんな変わらねぇってことよ。それじゃ、俺はこんくらいで」
ホークは、背中についたその翼を目一杯広げ、空を舞う。
そのまま束の前から消え去り、どこか遠くへと飛んでいってしまった。
「魔族も人間も、そんなに変わらない、ですか………。っていけない、受験勉強しないと…!」
束は急いで家に直行する。
(『ノースミソロジー連合』が動き出す、ですか、はぁ……受験勉強中に、厄介なことが起きないといいのですが……)
少し憂鬱な気分になりながらも、志望校合格のため、今日も励む束だった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
真っ黒なドレスを着飾り、組織内を優雅に歩く女、ルサールカ。彼女の隣には、短めの白髪にメガネをかけた白衣の女、パリカーが歩いていた。
「ルサールカ、急に呼び出してどうしたのさ。ボクは『門』の研究で忙しいんだけど」
「ねぇ、パリカー。最近この組織、たるんでるとは思わない?」
「何がさ」
「だってそうでしょう? アスモデウスは小さな少女に夢中。ゴブリンは裏切り者。イフリートはまあ、元からあんな感じだったけれど。それに貴方も、あの実験動物に肩入れしてしまっている……。こんな状況じゃ、この組織がまともに機能するとは思えないわ。だから、私考えたのよ」
「ふーん。それで?」
パリカーはそこまで期待していないかのような、つまらなさそうな表情でルサールカの話を流す。
基本的にルサールカは自分の楽しそうだと思ったことに対してしか働かない女だ。そんな女が、組織のために何かをする。そんなことはありえない。十中八九彼女の趣味に付き合わされているだけだと、パリカーはそう思っている。
「そう。組織を作り直すのよ、まずは、幹部から、ね」
かちゃりっと、ルサールカはポケットから拳銃のようなものを取り出す。もちろん、ただの拳銃ではない。
「それは………」
「対魔族用の携帯銃よ。簡単に殺せるし、消音機能もバッチリ。まさに暗殺に向いてる便利グッズよ」
「それを………どうするつもりだ」
「ふふっ、さあ、ね」
ルサールカは、ゆっくりと銃を持ち上げ、パリカーの頭に銃口を向ける。
「お前…!」
「貴方が幹部の時代はもう終わりよ、パリカー。安心して、代わりはちゃんと用意してあげてるから、ね」
ルサールカはどうやら、パリカーの後任を既に用意しているらしい。
実際にゴブリンを含め、組織には二つの幹部の枠が空くことになる。しかし、ルサールカの口ぶりからするに、ゴブリンとパリカーの後任だけでなく、どうやらイフリートとアスモデウスの後任すら考えているような雰囲気をパリカーは感じた。
「ボクは君の考えていることがわからないよ。何がしたいんだい? 本当に組織のことを考えてこんなことをやっているわけじゃないんだろう? 君はそんな性格はしてないだろうし……。まさか、組織を乗っ取る気なのかい?」
「ふふっ、そんなこと、貴方が気にすることじゃないわ。とにかく、死にたくなかったら私の言うことを聞きなさい。ボクっ娘ちゃん♪」




