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Memory63

美鈴が特訓を初めて二週間程が経った。

少しずつ櫻の援護ありで怪人と戦いながら力をつけていき、最終的には怪人を1対1でなら油断しない限りは討伐できるほどに美鈴はメキメキと実力をつけていた。


「先輩! 私も結構強くなってきました! この調子だと、先輩のことも超えちゃうかも……? って、すみません。ちょっとまい上がっちゃって」


そして、つい先程も、怪人を一体討伐したばかりだ。

ここまでの上達速度は、他の魔法少女でも中々いないだろう。

それだけ、美鈴は飲み込みが早かったのだ。


「そうだね。美鈴ちゃん、私が思うよりもはやく上達してるみたいだし、そろそろ次のステップに………」


櫻は美鈴に新しい特訓メニューの提案をしようとするが、しかし、突然険しい顔になり、辺りを見渡す。

途端に、少し周囲に霧がかかり、その中から現れるのは………。


「しに………がみ……?」


美鈴がつぶやく。

霧の中から現れたのは………。






髑髏の仮面を付け、右手に、大きな真っ黒い鎌をもった少女。

噂話や都市伝説として語られる、『死神』その人だ。


「何の用かな? 私達、今特訓中なんだけど」


櫻は『死神』に臆することなく話しかける。櫻は『死神』を視認したその瞬間から、先程のような険しい表情ではなく、普段の穏やかな表情へと戻っていた。『死神』を刺激しないためか、はたまた『死神』をそこまで脅威に感じていないのか、それは美鈴には分からなかった。


そして『死神』は、そんな櫻のことを無視し、そのまま無言で大鎌を振るって美鈴に禍々しいほどの黒い斬撃を放つ。


「うわっ!」


美鈴は横へ飛び退いたことで、『死神』の攻撃を回避する。


「丁度いいかも。美鈴ちゃん。『死神』と戦ってみて。大丈夫。危なくなったら私が援護するから」


「えぇ!? あ、あの『死神』と戦えって言うんですか!? いくら何でもそれは………」


「ほら! はやくしないと来るよ!!」


「ええええ!?!?」


櫻が言った通り、『死神』は素早い動きで間合いを詰め、美鈴の眼前へとやってきており、今にもその手に持つ大鎌で美鈴のことを切り捨ててきそうな勢いだ。


「ああもう! 『バリア』!」


美鈴は『死神』の攻撃を、瞬時に『バリア』を展開して防ぐ。

鈍い音が響き、『死神』の大鎌が弾かれる。


「あれ? 私の魔法、案外イケる……?」


「美鈴ちゃん後ろ!」


「うわうわうわー!」


『バリア』で『死神』の攻撃を防ぐことに成功した美鈴だったが、『死神』はすぐに背後に回り、次の攻撃へと行動を移していた。


「美鈴ちゃんその調子ー!」


「先輩ちょっとは助けてくださいよ!? 後ちょっと反応が遅れてたら死んでましたよ!?」


「……それはないと思うけどね」


「何か言いましたか!?」


「ううん。何でもない。ほら、私と話している余裕があるなら戦って!」


櫻が何かつぶやくが、戦闘に集中している美鈴には櫻のつぶやきなど聞こえるはずもなく。一応、何か呟いたということには気づいたようで、櫻に何を呟いたのかを必死に尋ねるも、やはり戦闘しながらでは会話は成り立たない。


「隙がなさすぎる……! こんなの…………反撃する余裕もない…!」


必死に『バリア』で『死神』の猛攻を耐える美鈴。しかし、体力は削られていく一方で……。


「はぁ……はぁ………も、むり………」


魔力を大量に消費したせいか、美鈴はその場に座り込む。

額からは大量の汗。対して『死神』は息切れすらしておらず、あとはこのまま美鈴にトドメを刺すだけ、といった状態だ。


『死神』はその手に持つ大鎌を、美鈴に振り下ろそうとする。


が。


「そこまでだよ」


美鈴と『死神』の間に立った櫻によって、その腕を掴まれ、攻撃を阻止される。

このまま櫻と戦闘に入るかと、そう思われたが…………。


「………………」


『死神』はそのまま、その手にある大鎌を、空中で霧散させる。

まるで、もう戦うつもりはないとでも言うかのように。


そしてそのまま、登場してきた時と同じように、霧の中へと消え去ってしまっていた。


「はぁ………はぁ………きえ、た…?」


「みたいだね」


美鈴はそのまま「はぁー」とため息を吐きながら伸びをして、息を整える。


「それにしても…………『死神』………ほんとにいたんですね………私びっくりしちゃいました」


「火のないところに煙は立たないって言うからね。でもこれで、美鈴ちゃんも自分の実力が大体理解できたんじゃない?」


櫻が『死神』と美鈴を戦闘させたのは、美鈴にあまり調子に乗らせないためだ。

それは美鈴が調子に乗っているのが鼻に付くからだとか、そんな理由ではなく、美鈴が自身の実力を過信することで、危険な目に遭ってしまう事態を避けるためだ。


「まあ、そうなんですけど…。先輩、私ヒヤっとしたんですからね。だって下手したら死んでましたもん」


「ごめんごめん」


「はぁ。ほんと、次『死神』と出会う機会があったら、ちゃんと助けてくださいよね。今回は運良く攻撃を防げましたけど、もし防げなかったらと思うと………ひぇぇ……恐ろしいです……」






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






「それで? 魔法少女は殺し損ねたんだ?」


「はい。百山櫻がいたので。怪人強化剤(ファントムグレーダー)も持ち合わせていない状態では、逆立ちしても彼女には勝てないと判断して、帰還しました」


2人の女が、とある組織のアジトで会話を交える。

片方は、髑髏の仮面をかぶった、『死神』と呼ばれる少女。


もう片方は、派手な黒のドレスを纏い、まるでブラックホールかのような黒さを持った長い髪を持った女で、名はルサールカ。どうやら組織の幹部的地位にあるらしい。


「私の命令は、魔法少女を殺せ、とだけだわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


ルサールカは何とも不思議だとでも言いたげな様子で、あくまで独り言を言うかのようにそう話す。

『死神』の少女に、気づいているぞ、とでも言うかのように。


「…………次はもう少し周りに気をつけながら、襲う対象を決めたいと思います」


「へぇー。そういうスタイルでいくんだ? まあ、いいわ。流石に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ね?」


「失礼しました………」


『死神』の少女は、ルサールカの最後の言葉には反応もせずに、そそくさと部屋から退室する。

髑髏の仮面のせいで、その表情は窺えなかった。


「ルサールカ、頼むから、あまりいじめないでやってくれないか……」


『死神』の少女が退室した後、ルサールカの背後から、仏頂面で、遊ぶということを知らなさそうな男が現れ、彼女に話しかける。


「アスモデウスね。あの(おもちゃ)、アストリッドに散々弄ばれて、精神が磨耗しちゃってたみたいだけど、まだまだ遊び甲斐がありそうでよかったわ。もう片方(ユカリ)死んじ(壊れち)ゃったのは残念だったけど……ねぇ?」


「魔族全体の方針として、魔法少女の存在を危険視しているのは分かる。それに伴って、魔法少女の排除が魔族の間で行われ始めているのも、納得はしている。だが、いくら何でもその役目をあの子にさせるのは………」


アスモデウスはあくまで、『死神』の少女の身を心配しているらしい。

しかし、ルサールカにとっては、アスモデウスの心情などどうでもいい。彼女にとって大事なのは、どのようにして『死神』の少女(おもちゃ)で遊ぶか、ただそれだけだ。


「それじゃあ、貴方が代わりに働くべきなんじゃないのかしら? まあ、貴方は多忙だし、無理でしょうけどね」


結局、アスモデウスにできることなど何もない。

幹部にも欠員が1人出ているせいで、アスモデウスの仕事が以前より多くなってしまっているのだ。

他の幹部も、1人を除いて一切働かない奴等ばかりで、彼の仕事はますます多くなっていくばかりだ。


「………考えておいてくれ」


「気が向いたら、ね」



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