Memory62
魔法少女。
無・火・水・風・地・雷・心・光・闇の9つの属性の魔法を使い、怪人と戦う少女達だ。
そんな魔法少女の1人である真野尾 美鈴は、一体の巨大な怪人に苦戦していた。
『ズギャギャギャギャ!!!』
「ひっ! 来ないで!」
美鈴はがむしゃらに魔法を撃ち続けるが、怪人には全く効いている様子がない。
美鈴は怪人から距離を取るために、逃げ続ける。
しかし、距離は段々縮まってきている。
このままでは、怪人に追いつかれ、美鈴はやられてしまうだろう。
「グギャ!?」
しかし、美鈴が怪人にやられることはなかった。
美鈴のことを追いかけ回していた怪人が倒されたからだ。
誰が怪人を討伐してくれたのだろうと、美鈴は後ろを振り返る。
彼女の眼前には、紫色の桜の花弁の髪飾りが特徴的な、ピンクの髪を長く伸ばした少女の姿があった。
彼女はその手に桜模様の刀を持っており、おそらくその刀で先程の怪人を討伐したのであろうことが伺える。
「大丈夫? 怪我とかないかな?」
「あの、助けてくれてありがとうございます。貴方は……」
「百山 櫻。貴方と同じ魔法少女で、無属性の使い手。多分、君の先輩かな。よろしくね」
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「え!? じゃあ櫻先輩って、2年前にあの鯨型の怪物を討伐したっていう……」
「私だけの力じゃないけどね。他の子達の力も借りて、やっとって感じ」
「はへぇ………す、すごい人と出会っちゃった………」
櫻と美鈴は、適当な店に入り、2人で話していた。
魔法少女でありながら怪人に襲われていた美鈴を見て、櫻は彼女を少し訓練してやった方がいいと、そう判断した。そのため、こうやって美鈴を店に連れ込み、話をすることにしたのだ。
「で、美鈴ちゃんに提案なんだけど」
「はい、なんですか?」
「よかったら、私と魔法少女の特訓でもしない? ほら、最近何かと物騒だし」
「ほ、ほんとにですか!? た、助かります! 私、今のままじゃ絶対にダメだって、強くなりたいってずっと思ってたんです。『死神』のこともありますし…………」
「『死神』?」
「あれ? 知らないんですか? 『死神』の少女のこと。なんでも、髑髏の仮面をかぶっていて、その手には、真っ黒な大鎌を持っていて、出会ってしまったが最後。その真っ黒な大鎌で、首元を裂かれて………ひ、ひぃ! そ、想像しただけでも恐ろしいです………」
「その話、詳しく聞かせて」
「え? いえ、単なる噂話で………」
美鈴の『死神』の話に、深刻な表情をしながらその詳細を聞こうとしてくる櫻。そんな櫻の様子を見て、ただの噂話に、何故そこまで聞きたがるのか、少し不思議に思う美鈴であったが、美鈴が『死神』の話を詳しく知らないと知ると、すぐに櫻はその話題を切り上げた。
「まあ、いっか。それじゃ美鈴ちゃん。早速特訓に入るけど、準備はいい?」
「えぇ!? 今からですか!?」
「善は急げって言うでしょ? ほら、はやくはやく」
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「それで、この子の調子を見てほしいってこと?」
「うん。八重ちゃんなら、観察眼に長けてるって言うか、人のことよく見れる気がするから。とりあえず一旦美鈴ちゃんの状態を見て、そこから鍛えていこうかなって」
櫻に連れられて、美鈴がやってきた場所は、地下にあるちょっとした訓練場のような場所だ。そこには、青色でショートボブの、パーマがかかっている髪を持っていて、眼鏡をかけている、理知的な雰囲気を持っている少女がいた。
「えっと、はじめまして、真野尾 美鈴って言います」
「初めまして、美鈴。私は蒼井 八重。普段はここで、櫻のサポート役として動いているわ。よろしくね」
「はい! こちらこそよろしくお願いします。えっと、八重さんは魔法少女ではないんですか?」
「ええ、魔法少女ではないわ。まあ、厳密に言えば、魔法少女じゃなくなった、っていうのが正しいのだけれど」
そう言った八重は、どこか懐かしい目をしていた。おそらく、魔法少女として活動していた頃のことを思い出しているのだろう。
「それってどういう……」
「そこまで複雑な事情はないわ。あることがきっかけで、魔法を使えなくなったってだけよ。さて、貴方の魔法の属性とか、これから調べていくんだけれど、その前に聞きたいことがあるの」
「は、はい。何ですか?」
八重は少しずつ、柔らかい口調から、重苦しく、真面目な口調へと変化させていく。
そうして、問い詰めるかのように、美鈴に質問を投げかける。
「貴方には、魔法少女として戦う覚悟があるのかってことよ」
「それは………魔法少女は、私の憧れだったので……魔法少女として戦えたら、きっと私も…」
「覚悟はあるの?」
「それは……」
八重に魔法少女として戦っていく覚悟はあるのかと、そう唐突に尋ねられるも、美鈴は言葉を返すことができなかった。考えたことがなかったのだ。戦う覚悟がどうこうとか、そんなもの。
美鈴は、魔法少女になれそうだからなってみた。戦ってみようと、何となくそう思ったから戦った。ただそれだけの少女なのだ。
思い出すのは、さっき怪人に襲われていた時の記憶。
自分の魔法は全く歯が立たず、逆に襲われてしまっていたあの場面。
思い出せば思い出すほど、自分に魔法少女として戦えるだけのものがあるのか、考え込んでしまう。
「ないならやめておいた方がいいわ。朝霧 千夏って知ってる?」
「はい。最近巷で人気のアイドル系魔法少女、ですよね? 私、あの子のファンで……」
「アレを推しているような子なら、魔法少女は向いていないわ。櫻、この子、魔法少女として戦わせるのはやめなさい。きっと、この子に魔法少女は向いていないわ」
「そんな……!」
「事実を言ったまでよ。魔法少女に憧れを抱いてなった、ましてや、アイドルを見てそれに憧れただなんて。そんな軽い理由で魔法少女になったって、貴方はきっと失敗するわ。だから、これは私からの忠告。魔法少女なんてやめて、真っ当に生きなさい。それが貴方にとって、1番良い道のはずよ」
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「八重ちゃん、あの子のこと、心配してくれたのは分かるけど……でも……」
「私にあれくらいのことを言われただけで折れるようなら、最初から魔法少女なんてやらない方がいいわ。私はもう、これ以上犠牲者を出したくはないの」
「そっか。でもね、私、何となくわかるんだ。あの子は多分、明日もここに来る」
「根拠はあるの?」
「うーん。強いて言うなら、勘、かな」
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「たのもー!」
朝8:00。
土曜日で学校も休日の今日この頃、地下室で資料の整理をしていた八重の耳に、1人の少女の声が届く。
入ってきたのは、腰まで伸ばした茶髪の髪を持った人懐っこそうな少女で、名を真野尾 美鈴。
「貴方、昨日の……………。覚悟は、決まったのかしら?」
「昨日一日中考えてみたんです。でも正直、覚悟とか、そんなの全っ然わかんなくて」
「そう。ならやめておいたほうが…」
「でも、私思ったんです。魔法少女は向いてないとか、そんなの魔法少女でもない八重先輩に言われたくはないです。私は、魔法少女になって、怪人と戦いたい。それで、町の皆を守って、『美鈴ちゃんありがとう』って、そう言われたいんです。だから………」
少女は、八重の目をまっすぐ見据え、明るい笑顔で告げる。
「私は魔法少女になります。貴方に何と言われようが、絶対に」
(この子、絶対頑固な子だわ……。きっと、何を言っても聞かないでしょうね……)
高らかに宣言する後輩の姿を見て、随分生意気な奴がいたもんだと、そう思わざるを得ない八重だった。




