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Another memory / 悪の組織所属の魔法少女と雷少女

IFではないです

悪の組織に所属する魔法少女であるクロとユカリ。

2人は、最近はあまり活動が少なく、暇だと感じていたため、外に出かけることにしたのだが……。


「クロと…………誰だ?」


魔法少女三人組を揶揄った時のように、髑髏の変装をしているわけでもないため、外を出歩けば櫻や来夏達にも普通にバレてしまうのだ。まあ、髑髏の変装をして出歩く方が恥ずかしいだろうが。


「はじめまして! お姉ちゃんのクローンのユカリでーす!」


「その自己紹介じゃ反応に困るよ…‥」


ユカリの大胆な自己紹介に、思わずクロも苦言を呈してしまう。

案の定、来夏はユカリの闇のありそうな自己紹介に、困惑してしまった。


といっても、来夏としても本人から明るい口調で言っていることから、そこまで重く受け止めるものでもないのだと推察したらしく、すぐに通常運転に戻る。


「あーつまり、クロの妹ってことか。私は朝霧来夏。朝昼晩の朝に、霧と書いて朝霧。来る夏って書いて来夏だ。よろしく」


「よろしくねー!」


「え? 一応私達って敵同士………」


クロはユカリのフレンドリーさに困惑してしまう。実際、クロは最初の時点で来夏のことをそれなりに煽った感じで敵対した覚えがあったし、茜からはかなり恨み言を吐かれた覚えすらある。


だからこそ、来夏と仲良く話すユカリに対し、自分はどこか来夏と一線を引かなくてはならないんじゃないかと、そう思うクロだったが…。


「別に、戦いに来たってわけじゃないんだし。敵だとか味方だとか、今は関係ないだろ。それに、お前だって本当は組織に従うのも嫌なんじゃないのか?」


「私は………別に……」


「………。まあ、いい。とりあえず、せっかく出会ったんだ。一緒にご飯でも食べないか?」


「やったー! ご飯は来夏の奢りね!!」


「ユカリだけ、行ってきたら? 私は先に帰っとくから」


「ダメだ。クロも一緒に来い。別に、戦場以外なら交流しても構わないだろ」


クロは、ユカリの図々しさに頭を抱えてしまう。敵対しているはずの来夏と一緒にご飯を食べるなど、流石に気まずくて無理だと感じ、ユカリだけ残して逃げようとするも、来夏にそれを阻止されてしまう。


来夏自身、クロと食事を摂ることで組織でのクロの立場が危うくなるのならば誘うのはやめておこうと感じていたが、ユカリの反応を見て、クロを誘っても問題ないと判断したのだ。


「いや、私は………」


「お姉ちゃん、何意地張ってるの? 奢ってくれるって言ってるんだから、素直に甘えればいいのに」


「別に私は2人でも問題ないし、人の善意を踏み躙るのは良くないんじゃないか? なあ、クロ」


「随分意地悪な言い方をするね………。まあ、わかった。そこまで言うなら」





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





クロ、ユカリ、来夏の3人は、近くのファミリーレストランで食事をしていた。

ユカリはハンバーグを頼み、クロはカツカレー。来夏はパスタと、それぞれの食事を楽しんでいた。


「私ごちそうさまでした! あ、私ちょっと席外すねー」


ユカリはハンバーグを平らげた後、離席する。

席から立って彼女が向かった先にはそれぞれ赤と青の人の形のピクトグラムがある。つまり、そういうことだ。あまり深く突っ込むのもよくないだろう。


「なぁ、クロ。お前、何で組織の魔法少女としてやってるんだ」


ユカリが席を外したことで、これでクロと腹を割って話せると、そう思ったのか、来夏は何故クロが悪の組織に所属しているのか、その理由を尋ねてみる。


「さあ………?」


「誤魔化すなよ。今は、あの………ユカリだったか? あいつもいない。私の魔法で調べた限り、盗聴器だとかその類のものも仕掛けられてない。素直に話してくれてもいいんじゃないか?」


来夏には、既に余命のことも知られてしまっている。

それなら………。


「色々理由はあるよ。シロが、私のことを助けようとすればするほど辛くなるのなら、いっそのこと敵対して、嫌われてしまった方があの子のためになるんじゃないか、とか、組織以外で、安定した生活を保障してくれる場所がないだとか、色々。でも、1番の理由は………」


「ああ。さっきの子か」


来夏は、クロの表情から、思い浮かべているのは、おそらくユカリのことだろうと、そう推測する。

クロにそのことを指摘すると、クロは一瞬驚いた顔をしていたが、来夏の指摘を肯定する。


「そうだね。ユカリのためっていうのも、あるかな。あの子は、私の大切な、家族(いもうと)だから」


「お前は、本当にそれでいいのかよ」


「………………」


来夏は、クロを問い詰める。

本当に、ユカリのために組織に残っていてもいいのか。

自分はそれで、納得できているのか。


しかし、クロには答えられない。

ユカリのことは大切に思っている。それでも、組織に所属しておくままが良いのかどうかとはまた別問題だ。


「私は……」


「ただいまー!」


クロは、自分なりの答えを探そうとするも、やはりクロの頭の中には明確な答えなど一切出てくるわけもなく……。

そうこうしているうちに、さっき席を外したユカリが帰ってきてしまっていた。


ユカリが戻ってきたことを機に、来夏とクロの会話は終わりを告げる。


「なになに? お姉ちゃん達、何を話していたの?」


「何でもないよ、ユカリ」


ユカリに対してそう話しかけるクロの表情は、とても穏やかで、ユカリのことをとても大切に思っているのだろうなと、そう感じられるほどのものだった。


(きっと、クロにとって大切な存在なんだろうな………。やっぱり、クロも悪い奴なんかじゃない。人並みに情緒もあるし、きっと普通なんだ。ただ、組織にいたせいで、色々ややこしいことになっちまっただけなんだろうな)





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






「…………夢、か」


来夏は、ユカリがアストリッドに操られたクロの手によって殺められたその翌日、丁度クロとユカリの夢を見た。

クロとユカリのことを一日中考え込んでいたせいで、夢に出てきてしまったのだろう。


「私がもっと、上手くやってれば………」


来夏は後悔する。

ユカリが戦場へ向かうことを、もっと強く拒否していれば。

八重が使った怪人強化剤(ファントムグレーダー)を、臆することなく自分に打って、早々にベアードとアストリッドを倒していれば。


もっと状況は、変わったのだろうか。

そんなもしもが、来夏の脳裏によぎっては、消えていく。


思い出されるのは、ユカリを自分自身の手で殺めてしまった時の、クロの様子。

顔は涙でぐちゃぐちゃになっていて、この世の全てに絶望したかのような、現実を受け入れたくないと、そう主張するかのような表情。


耐えられなかった。

あんな表情をさせたくはなかった。


来夏は思う。

自身の大切な人が、もし同じ目にあったら。

もし、クロと同じように、アストリッドに操られ、自分自身でその大切な人を殺めてしまったら。



…………耐えられない。



きっと、一生後悔するし、一生、幸せを感じることもないだろう。いや、感じてはいけないと、そう自分を責め立てるようになるのかもしれない。


そう考えてしまうと、ユカリを失ってしまったクロを救い出すのは、もう………。


でも、諦めたくはない。

クロのことを、見捨てたりなんかしたくはない。


でも、

それをするだけの力が、来夏にはない。


「弱いな、私は」


負けないと、そう何度も誓って、それでも結局、魔族にこうも何度も敗北してしまう。そのことが、悔しくてたまらない。


「私がもっと、強ければ………」


来夏は、己の無力を嘆く。

そして、誓う。


言葉だけじゃなく、行動で示そう。

死ぬ気で特訓して、それで。


もう、何も後悔することがないように。


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