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Memory61

アストリッドの眷属である人間の少女が、巨大な鯨の怪物へと姿を変えていく。


「ありゃ………砂浜の…………」


どうやら、アレが櫻達が戦った鯨型の怪物らしい。


「見よう見まねで作ってみたけど、案外上手くいくものだね」


アストリッドは軽い口調でそう言う。やっぱり、人の命を何とも思っていないんだろう。


「でも、大丈夫よ。私ならあの程度の敵、なんとも………っ…!」



八重の全身に、強烈な痛みが走る。

怪人強化剤(ファントムグレーダー)、その副作用。


さっきアストリッドに大量の魔力を放ったせいで、自身の体内の魔力量が激減し、その結果、自身の魔力の器の崩壊を阻止するために使っていた魔力が枯渇したのだ。


「嘘、でしょ…………来夏、クロを連れて、にげ………て…………」


八重は、怪人強化剤(ファントムグレーダー)の副作用で、その場で倒れ込んでしまう。

アストリッドも戦闘不能なようだが、しかし、彼女の表情は余裕そうだ。


「アハハ!! そのまま皆潰されちゃいなよ。クロも、もういいや。こんなにプライドも体もズタボロにされるんなら、もういらない」


鯨型の怪物は、来夏へと襲いかかってくる。


「クソっ!」


来夏は、クロや愛に被害が行かないよう、全力で雷属性の魔法を放つ。







しかし、次の瞬間には、来夏達は全員鯨の怪物に潰され…………。











なんてことはなく。


「ブォォォォオオオォォォォォオオオ!!!」


来夏が目を上げると、そこには。


「人の妹に、何手出ししやがってんだこのクソ鯨ァ!!」


全力で巨大な怪物にグーパンチを喰らわせる、(去夏)の姿があった。






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





来夏の姉、去夏の登場により、人間の少女もとい鯨型の怪物()()()()()

鎮められ、その場から光の粒子となって消失した。


残るは、吸血姫・アストリッドのみだ。

しかし、その吸血姫も、もはや満身創痍。決着はついたも同然だった。


「見逃しては……………くれないか」


「当たり前だ。アストリッド、お前の身柄はこちらで拘束させてもらう。それと………」


「僕のことは気にしなくていい。少なくとも敵ではないし」


「いや、クロ(その子)をこちらに引き渡して欲しいんだが………」


「渡さないよ」


「………仕方ない。力ずくだ!」


去夏は愛にクロの引き渡しを要求するが、愛はそれを受け入れない。

魔法少女達の元へクロを渡してしまっては、自分がクロを独占することができないからだ。


「僕には戦闘能力があまりないんだけど」


「なら素直に引き渡すんだ」


「嫌だね」


駄々をこねる愛。

去夏としては、来夏の望み通りにクロを組織から救い出したかったのだが……。

目の前の少女にクロを任せても、どうなるかは分からない。できればこちらで回収したいと、そう思う去夏だったが…………。


「悪いが、クロはうちの子だ。クロは俺達が回収させてもらう」


「朝霧去夏ならまだしも、君は得体が知れないし、クロを預けるわけには行かないね」


その場に現れたのは、組織の幹部、アスモデウスとパリカー。

クロの回収のために、わざわざ出向いてきたらしい。


「お前ら……」


「僕は構いませんよ。クロは返します」


「いいのか?」


「ええ、その代わり、僕もクロの側に置いてください」


「了解した。お前はクロの隣に置いておこう。但し、不審な動きをしたら……」


「大丈夫です。逆らいませんから」


愛はアスモデウスにクロを引き渡し、自分も組織側につくことを決める。


「お前、裏切って……」


「僕がいつ君達の仲間になったんだ? それに、組織ならクロのことを独占できそうだし。渡しても、僕が側にいれるなら、それでもいいかなってさ」


「アストリッドの回収はそちらへ譲ろう。ただし、ユカリの遺体と、クロはこちらが回収させてもらう」


「2体1じゃ流石に厳しいな……痛み分けか」


去夏は確かに強いが、アスモデウスとパリカー、2人の魔族を相手にするとなれば話は別だ。

それに、アストリッドの回収と、倒れている八重の介抱も必要だ。下手にここで戦闘すれば、アストリッドに逃げられる可能性が出てくるし、八重も巻き込まれてしまうかもしれない。


だからこそ、去夏は2人にクロを譲ることにした。


アスモデウスとパリカーは、それぞれその手にクロと、ユカリを持って、この場から離れ去る。


去夏達も、それぞれに思うところはあるものの、今できることなどない。

失意の中にいるもの、悔しさを感じる者、身を削った者など、様々だが、彼女達の戦いは、一旦は終わりを告げた。





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





「そんな、ことが……」


真白は、戦場から帰ってきた八重や来夏達から、事情を聞く。

ユカリが死んだこと。クロが、自分の手で、殺めさせられてしまったこと。また、もう八重が戦えないこと。

その内容の全てが、救いようがなく、真白を絶望させるものばかりだった。


「これからは、私は頼りにならない。だから、来夏のお姉さんや、茜のことを頼って。それと、危なくなったら、絶対に、逃げる。これだけは徹底して。お願い。貴方まで失いたくはないの」


八重は、真白に縋る。

ユカリの死で、怯えているのだ。自分の大切な妹を、再び失ってしまうことを。


「大丈夫、私は、もっと強くなるから。もっと強くなって、クロのことも、救ってみせる」


「私も、櫻の兄に頼み込んで、稽古をつけてもらうことにする。あいつは、クロのことを見捨てやがったから、正直私と相性は悪いが………。実力は確かだ。頼る価値はある」


来夏もまた、自分の中で決意する。


もう2度と、負けないと。






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





アスモデウスとパリカーは、組織のアジトに戻った後、ユカリの遺体の埋葬を行なっていた。

その表情は、どちらも暗い。


「ボクがもっと早くに助けにいければ、結果は変わったのかな……」


パリカーは、ユカリの死に、悔やんでも悔やみきれなかった。

彼女は、魔族の中でもとても情の深い性格をしている。だからこそ、他の幹部がクロやユカリに対して実験動物以上の感情を持たなかったのに対して、彼女はクロやユカリのことを、自分の娘かのように大切に思っていたのだ。


その証拠に、彼女の目は赤く腫れている。

一晩中、泣き尽くしたあとだ。


「俺が………生み出した…‥。ただ、仕事を淡々とこなしていただけで……。まさか………実験動物にこんなに肩入れするとは思わなかったんだ…………」


しかし、アスモデウスもまた、パリカーと同じ感情のようだ。


「なぁ、パリカー。俺は、どうすればいい?」


今まで一切の迷いもなく仕事をこなしてきたアスモデウスだったが、

彼は、生きていて初めて、迷うことになる。自身の在り方に。





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





ユカリが、死んだ。

そのショックからか、前世の記憶も、どこか抜け落ちてしまっていて。


愛のことは、何となく覚えてるような気もするけど、でも、はっきりとは覚えてない。

アストリッドと戦っていた時のことも、朧げで。


今俺が持っている記憶で言えば、シロのこと、それと、悪の組織の魔法少女として行なってきたこと全て、思い出した状態だ。


後から、櫻達が生きているってことも聞いた。でも正直、櫻達が死んだって、そう思い込んでしまっていた時は、展開が急すぎて、それに、すぐにそのことも記憶から消えていった。だから、正直、ユカリを、殺してしまった時よりも、ショックは少なかったんだと思う。


やっぱり、ユカリの存在は、思ったよりも俺の人生に大きな影響を与えていたらしい。


ユカリが、死んだ今、いや、俺が殺してしまった今、どうすればいいのか、わからない。

命を奪っちゃいけないと、そうユカリに教えたのに、今の俺は、(アストリッド)の命を奪ってしまいたくて、たまらない。


多分、今までユカリがいたから生きてこられたんだろうなって、そう思うくらいに、今の俺の心の中は、空っぽだ。


もう、生きている意味なんかない。でも、ユカリは多分、それを望まない。

だから、生きなきゃいけない。


どんなに汚くても。どんなに苦しくても。


人はきっと、これを呪いと呼ぶのだろう。

はらいたくてもはらえない。纏わりついてきて、くっついて仕方がない。


多分、生きている限り、この呪いから解き放たれることはないだろう。

俺は一生、ユカリの死を背負っていくことになる。いや、背負っていかなきゃいけない。


自分の手で奪ったのだから。

大切な妹の命を。


目標は、あった方がいいのかもしれない。

そうだな、きっと、目標があるとすれば…。


魔族への復讐、とかかな。


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