Memory60
日曜投稿忘れていましたが、そういえば土日どちらかで投稿と話していた気がするので、多分セーフ。
目の前に広がる光景は、一体何なんだろうか。
私の前では、妹が妹を涙を流しながら刺し殺している、地獄の光景が広がっている。
来夏はアストリッドの部下であるベアードにその身をボロボロにされ、対してベアードは傷一つ負っていない。
灰色の髪を持った少女が、私のことを騙した人間の少女に拘束されているが、彼女は誰なんだろうか。
ダメだ。
こんな現実、あっていいはずがない。
認めたくない。
「おや、八重じゃないか。どうしたの? 何か私に用でもあるのかな?」
悪魔が、目の前で気持ちの悪い笑みを浮かべながら、私に話しかけてくる。
「まさか私を裏切ろうってわけじゃないだろうね? わかっているのかい? 君の母親が人質に取られているということは」
来夏がここにいるということは、既に私の母親は助けられた後だろう。
来夏はベアードの相手をしている。ユカリはもう、息をしていない。クロは、流石に動く気力がないのだろう。ユカリの上で、放心してしまっている。
動けるのは、私だけだ。
戦わないと。
私が、やらなくちゃ。
「ほう、裏切るんだ? まあ、別にいいけど。どうせ勝てないよ。魔法少女の中じゃ実力はあるのかもしれないけど、私と比べたら月とスッポンさ」
確かに、ここでアストリッドと戦っても、無駄死にするだけだ。
何か、対抗手段は……。
私は周囲を見渡す。
そこに一つ、見覚えのあるものが落ちていた。
怪人強化剤。
照虎が使っていた注射器だ。
来夏の近くに落ちていることから、彼女が持っていたんだろうと推測される。
照虎が言うには、これを使うことで、force levelなるものを急激に引き上げ、本来の実力の数倍の力を出すことができるらしい。
ただし、上手く適応出来なかった場合は、体を壊してしまうし、最悪死ぬ。
それに、元々怪人強化剤は怪人の強化のための薬だ。
魔法少女が扱うことは想定されていない。
だから、怪人強化剤の効果は一時的なものだろうし、効果が切れれば、もう二度と、魔法少女として戦うことはできなくなる。
今頃照虎も、魔法少女としての力を失っているところだろう。
でも、それでも。
もう、これ以上、妹を失いたくはない。
理不尽に、家族を酷い目にあわせたくはない。
だから。
私は急いで走って怪人強化剤を回収する。
「なっ、おい」
「何故それを………」
来夏は私が薬を拾ったのを見て、少し声を漏らす。やっぱりこの薬は、来夏のものであるらしい。
ベアードは私の手にある注射器を見て、驚いている。中身の判別がついているのだろうか。確かに、特徴的な形をした注射器だから、中身が何であるのかはわかりやすいだろう。
私は、怪人強化剤を自身の腕に刺す。
「っ……」
刺した場所から、痛みが広がっていく。
全身が痛くて、焼けるように熱い。
自分の中の魔力の器が、崩壊していくかのような感覚。
まずい、このままだと、照虎の二の舞になる。
私は、氷属性の魔法ですぐさま熱を抑え、魔力の器の崩壊も、同じく氷属性の魔法で一時的に止める。
これで、戦える。
「これで、貴方と戦えるわ」
「っ! させませんよ!」
ベアードが私に向かって攻撃を加えようとする。
…………消えた?
「時間停止、のようなものですよ。残念でしたね。アストリッド様と戦う前に、貴方は終わります」
後ろから、ベアードの声が聞こえてくる。
なるほど、時間停止、そういうのも使えるのね。
「さようなら」
ベアードが背後で、私を殺そうとしてくるのがわかる。
でも……。
「私達がいつまでも貴方達にしてやられると思ったら、大間違いよ」
世界が凍る。
「時間停止って、こんな感じかしら? まあいいわ。貴方に構っている暇はないの。そっくりそのまま、貴方の言葉を返すわ」
私は、氷属性の魔法による時間停止を解く。
そして…………。
「さようなら」
ベアードを一瞬で凍結させ、そして………。
ベアードごとその氷を、砕く。
ベアードはそのまま、自分が何をされたのか、それすら理解できずに、命を散らした。
「これで、ようやく戦えるわ。アストリッド、お前は絶対に許さない」
「バンとイザベルに続いて、ベアードもやられてしまうとはね。でもいいよ、クロは私が貰っていくから。丁度よかったよ、ユカリを連れてこさしたの、君だろう? 助かったよ。おかげでクロの心を壊すことができた」
「…………」
冷静さを失うな。奴の挑発に乗ってはいけない。
下手に感情的に動けば、隙を突かれて負けてしまう。
来夏は………。
どうやら、私のことを騙した人間の少女をひっ捕まえて、灰色の髪の子を助けたみたいね。
ついでにクロの方もお願いしておかないと。
「来夏! クロのことをお願い!!」
「わかった」
これで、奴との戦いに集中できる。
「クロを回収する気か。まあいい。君を倒した後で、取り返せばいいだけだ。どうせ心は壊しているわけだし」
「『ホワイトアウト』!!!!」
まずは、アストリッドの視界を封じる。
「うわ、真っ白で何も見えないや。こりゃ困ったね」
「『大結界・マジカルアクアリウム』!!!!」
「『結界・アクアリウム』」
「『水の鎖』!!!!」
「『水嵐』!!!!」
「『激流』!!!!」
私は大量の魔法の詠唱をする。
『大結界・マジカルアクアリウム』によってアストリッドを大結界の中に閉じ込め、闇属性の魔法をある程度封じるために大結界内で『結界・アクアリウム』による雨を発生させる。これにより、アストリッドは闇属性の魔法を簡単には扱えないし、それに伴って大結界から脱出するのも困難になる。
しかし、大結界内に閉じ込めたとはいえ、相手は吸血王。油断はできない。そのため、『水の鎖』でアストリッドの動きをさらに制限し、そこに高火力の『水嵐』を打ち込む。
極めつけに、全ての魔法の効果を上げるバフ魔法『激流』も欠かさずに唱える。
しばらく魔法を打ち続け…………。
そして、アストリッドの様子を見る。
「あ“ーク”ソ“。痛ェなァ………」
効いている。
アストリッドは全身から血を垂れ流しながら、少し怒った表情で私を見る。
「これで勝ったと思うなよ。ここから私の反撃ターンだ」
「反撃はさせないわ」
「は?」
アストリッドは、私に反撃をしようとしたようだが、そこもきちんとケアしている。
アストリッドの武器は、自身の血だ。
なら、血を使わさせなければいい。
私は、アストリッドが怪我を負い、血液を流していたのを確認した時点で、アストリッドの血液を氷属性の魔法で固めていた。
「クソっ。さっきのクロとの戦いで、体力も消耗しちまってるし…………。あークソだ。クソ。せっかく眷属にしてやったってのに、あの人間の小娘は役にたたねぇし……。いや、そうか……」
「貴方の負けよ、アストリッド。私は貴方を許さない。残念だけど、ここで死んでもらうわ」
私は、アストリッドの足元を凍結させ、逃げられないようにしながら、トドメの攻撃の準備をする。
大結界も張っているし、アストリッドは魔力もかなり消費しているらしい。容易には逃げられないはずだ。
「いや、まだ使える駒はある」
「?」
「うっ、ああああああ”あ“あ”あ“あ”あ“!!!!!!!!!!」
突如、背後で響く絶叫。
見ると、先程灰色の髪の少女を拘束していた人間の少女の体が、異様なほどにどんどん膨れ上がっている。
「私の計画の一端を見せてやろう。そこの私の眷属の小娘が変わり果てた姿に、恐れ慄くがいい」
「アスどjうぃぞくぃおxさあまのやめじいはyらけるまらほっもうでず!!!!!」
やがて、人間の少女は………。
巨大な鯨型の怪物へと、変貌を遂げていた。
ユカリ……;;




