Memory56
「捕まえましたよ。身動きが封じられてしまえば、いくら魔力量が多くたって関係ありませんからね」
気づけば俺はベアードに後ろから抱きしめられ、拘束されてしまっていた。
確かに、この状態なら俺は魔法を使えない。下手に魔法を使えば、俺自身がその魔法に巻き込まれてしまうからだ。
でも、ベアードが何故急に消えたり現れたりするのか、大方検討はついた。
候補としては2つ考えていて、あとはそのどちらかだと思っていたのだが、今のベアードの行動で、どちらなのか、それが分かったのだ。
「能力、見抜いちゃったなー」
「ほう? そうなんですか」
「うん。大体。多分時間停止でしょ? これ」
「ほほう。確かに、それに似通った力ではありますが………。何故分かったんですか?」
「ワープか、時間停止。どっちかっていう風に思ってたんだけど……。魔力の残滓を見ればワープしてないっていうのが分かっちゃったんだよね」
どうやら俺の推測は合っていたらしい。
というのも、先程言った通り、俺はベアードの能力をワープか時間停止、そのどちらかで見ていた。
魔力の残滓、魔力を使用した際、少しの間だけその魔力の欠片のようなものがその場に残ることがある。
それが、地続きになって残っていたのだ。ベアードが消えた場所と、再びベアードが現れた場所を繋ぐかのように。
もし、ワープで移動しているのならば、魔力の残滓は地続きにはならず、ベアードが消えた場所と再び現れた場所の二箇所に独立して残るはずだ。
だから、俺はベアードの能力は時間停止だと踏んだってわけだ。
「魔力の残滓……? そんなものが………」
「?」
しかし、どうやらベアードにはその魔力の残滓というものが分からないらしい。
見えないものなのかね? 普通は。
「まあ、構いません。そんなものが見えたところで、貴方は身動きが取れませんし。仮に拘束が解かれたとしても、貴方の魔力が尽きた時点で私の勝ちですからね」
まあ、確かに、この状態じゃ身動きは取れない。けど、この場にいるのは俺だけじゃない。
「愛ー! たすけてー!」
そう。この場には愛もいる。だから、彼(彼女?)に俺は助けを求める。
「ごめん。ちょっと待って」
しかし、予想に反して親友は俺を助けようとはしない。
「な、なんで?」
「いや、だってさ………これ、なんか、うん………えっちじゃん?」
「は???????」
「10代の少女が、時間停止によって、成人男性に羽交い締めにされてしまう……。いや、そもそも時間停止そのものがえっちだよね……」
何を言っているんだコイツ。
いや、そうだった。こいつはそういう奴だった。
全然そういうことには興味ありませんよーみたいな面しながら、裏じゃめちゃくちゃそういう………あれ、あの………え、えっちなのが好きな奴だった。
「早く助けろムッツリスケベ」
「ちょっと、なんか、その体制めっちゃえっちだから。もうちょっと拝めさせて?」
「股間の下りから思ってましたが………貴方達ってやっぱりげ、下品なんですね………」
待て待て待て。下品なのはこいつだけであって、別に俺はそういうのじゃない。
というか、股間の下りはもういいでしょ。
というか、この体制のどこが、その、えっちだっていうのか。あいつの脳内どうかしてるよ……。
「早く助けてほしいんだけど………」
「後10秒だけ………」
「………私も変態みたいに思われてるのは心外なんですが」
「変態なのは愛だけだよ……」
「うーん。えっちだ………」
「というか、もう10秒経ったよ?」
「んーじゃあもうちょい。10秒だけ見させて?」
「ああああああ! もう!」
変態に頼るのはもうやめた。そうだ。拘束など自分で解けばいい。
「『ダークアイ』! 『ライトニング』!」
ピカァっと、辺りが光に包まれる。
「なっ、これは………………」
「うわあー! 目がああああああ!!!!!! 目があああああ!!!!!!!」
俺の『ライトニング』によって、ベアードと愛の目がやられる。
ちなみに、俺の視界は『ダークアイ』によって一時的に真っ暗になっているため『ライトニング』の影響は受けない。
なんで愛にも『ダークアイ』をつけてやらなかったのかって?
変態にはこのくらいの仕打ちがお似合いだろう。
というか、ベアードよりも愛の方が『ライトニング』で目やられてる気もするが……。いっか。気にしなくても。
俺を拘束するベアードの腕が、一時的に緩む。
俺はその一瞬の隙を見て、ベアードの拘束から抜け出す。
『ライトニング』がおさまる。俺は『ダークアイ』の魔法を解除し、視界をクリアにする。
「なるほど、しかし、拘束から逃れたところで、私は時間停止を無制限に使えます。もう一度貴方を捕まえばいいだけのこと」
「そうかな?」
「は?」
ベアードが、地面に倒れ伏している。
クロの攻撃によって。
「どういう……ことですか………」
「時間停止を使うっていうなら、時間停止を使う前にお前を倒せばいいだけってことかな。だから、高速で動いてお前を無力化させてもらった」
まあ、そういうわけだ。
「な……そんなこと………やろうと思っても、できるものでは…………」
「俺、いや私って言った方がいいのかな? 今は。まあいいや。俺もそう思ってたんだけど、思ったよりこの体のスペックが高かったみたいで……。いや、多分さっき愛からもらった注射の影響かもしれないけど………。まあとにかく、できたものはできた。それだけだよ」
そのまま、ベアードは意識を失う。
結構強烈な一撃を入れたし、いくら魔族といっても、耐えられるものじゃなかったらしい。俺、強すぎないか? いやまあその分結構な魔力を消費したんだけど。
「思ったよりも僕の親友が強かった件」
「それで、とりあえずアストリッドっていうのを倒せばいい感じなの?」
「まあそうだね。ただ、そこまで急ぐ必要はないよ。まずは他の魔法少女とか、後、百山椿とかそこらと協力を取り付ければいい。アストリッドを倒すのは、それからだ」
「ん。でも他の魔法少女がいるところなんて知らないんだけど……」
「そうだね。僕も分からないや。とりあえず、今は何もできなさそうだし、百合百合、しない?」
「はい?」
「だから。僕と、百合百合、しないかい?」
「………………海に沈めてやろうかな」
「僕の親友が辛辣すぎる件について」
俺と愛は、互いにくだらない会話を交わす。
本当に、取るに足りない、つまらない話。だけど、何年ぶりかの親友との会話は、結構楽しいものだ。親友が変態じみた発言しかしないのは少し気になる部分だが。
「まさか、ベアードがやられるなんてね………」
「「!?」」
しかし、互いに駄弁りながら、一旦魔法少女らと協力を取り付けようと、そう考えていた二人の計画はすぐに崩れ去ることになる。
目の前に、吸血姫・アストリッドが現れてしまったからだ。
「あー。すごい。本当に凄いよ!! やっぱり私の見立ては間違ってなかった! でも、どうしようかな………。私が思ったよりも、クロって強いみたいだね。勝てるかな…‥。まあいいや。今のクロ、結構魔力消費してるみたいだし。それに、やってみなくちゃ分からないしね」
「愛、巻き込まれるかもしれないから、逃げといて」
「分かった」
俺は愛が戦いに巻き込まれないように、避難するように言っておく。
「ふふ。そうだよね、簡単に手に入っても面白くない。そうだ。クロ、君を打ち負かし、君を私のモノにしてあげようじゃないか」
「人をモノ扱いしないでほしいな」
アストリッドは頬を上気させながら、血の刃を沢山空中に作り出す。
それに対抗して、俺も光の槍を大量に空中に作り出す。
「勝負と行こうか、クロ」
俺とアストリッドの戦いが、始まった。




