Memory53
「ルサールカ、今しかない。アストリッドを潰すなら、な」
アスモデウスは、クロ救出のため、組織にいる他の幹部に協力を求めていた。
ただ、パリカーは最初からクロを助けるつもり、なんなら、もう既にクロ救出に向かっていて、ゴブリンは組織を裏切った。イフリートは今どこへいるかも分からぬ状況。
そんな状態なため、他の幹部でいるのは、ルサールカくらいなのだった。
「そうかしら? 別にいいじゃない。そんなにクロちゃんが大事?」
「………」
「だんまりは良くないわ。それに、人に物を頼むときは、頼み方ってものがあるんじゃない?」
「………頼む、協力してほしい……」
「はぁ。誠意が足りないわ。土下座くらいしてくれないとさ、私からすれば、アストリッドがどうだとか、全部どうでもいいし。それに、私にものを頼むなら、敬語くらいしなさい、よ!」
ルサールカはアスモデウスを蹴り付ける。ルサールカの表情は、恍惚としていて、アスモデウスを蹴ることを楽しんでいるように思える。
しかし、アスモデウスは彼女の蹴りを甘んじて受け入れるしかない。
言われた通りに、土下座をして、ルサールカに頼み込む。
「頼みます。どうか、アストリッドを倒すのに、協力していただけないでしょうか」
「ふーん、ま、ギリギリ合格ってところかな」
「っ、それじゃ……」
「何期待してるのよ。協力? するわけないじゃない。ま、でも面白いものを見せてもらったわ。中々にいい土下座だったわよ。思わず写真撮っちゃうくらいには、ね」
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「勝負ありってところかしら」
路上で争う、否、争っていた魔法少女が2人。
片方は無傷で、凛々しく路上で突っ立っており、もう片方は、傷だらけの体で、全身の至る所に氷の結晶がこびりついている。
もう、決着はついた。
誰が見ても、どちらが勝ったかなんて、明らかだ。
しかし、虹色の髪を持つ少女、照虎には負けたことによる悔しさも、悲しみも感じられない。
それどころか、不敵に笑ってすらいる。
右手には、何の変哲のないただの注射器が握られている。
「そうみたいやな…………ははっ………でも、これならどうや」
照虎は、右手に持っている注射器を、自身の左手に刺す。
「怪人強化剤。これを使った私には、いくらお前でも敵わ変やろうなぁ!」
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「あの………それにしてもどうして私はここで拘束されてるんですか?」
「ああ。最初は抵抗していましたので。ここなら安全だから、一旦拘束して落ち着くまで様子をみようと、アストリッド様が言ってらっしゃいました。というのも、最初はクロ様も洗脳にかかっていましたので」
ベアードはそうやってクロに嘘を吹き込む。
記憶のないクロには、いくらでも嘘をつける。
「お姉ちゃんから離れろよ。この変態」
そんなベアードの様子を見ていたユカリが、ベアードに対して魔法を放ちながらやって来た。
「野蛮ですね。不意打ちとは。とても正義の魔法少女のすることとは思えませんが」
「別に私は正義の魔法少女でも何でもないし。ただ、お姉ちゃんを返してもらいにきただけ」
「そうですか。クロ様。拘束を解いておきますので、アストリッド様の元へ向かってください。場所は先ほど渡した電子機器に載っておりますので」
ベアードの言った通り、クロの手にはいつのまにかアストリッドの場所を示す電子機器があった。
クロとしては、そんなものを貰った記憶はないのだが、ベアードが渡したというのなら、そうなのだろう。
もしかしたら、ベアードに渡されたことを、お得意の記憶喪失で忘れてしまっているのかもしれないと、クロはそう考えた。
実際には記憶喪失でも何でもなく、ベアードから渡された記憶がないのは当たり前なのだが。
「は、はい」
「待って、お姉ちゃ……」
「邪魔はさせませんよ」
ベアードはクロにアストリッドのいる場所へ向かうように促す。
それを止めようとユカリがクロを追いかけようとするも、ベアードの手によって止められてしまう。
「どけよ、クズ」
「クズ、ですか。クソ真面目は言われたことがあるのですが、クズは初めてですね」
ユカリは紫色の毒々しい大鎌を出し、ベアードに振りかざすが、彼の手によって止められてしまう。
「弱いですね。私が本気を出すまでもありません」
「何で……毒も撒き散らしたのに……全然効いてない!」
ユカリが言った通り、ユカリは周囲に毒を撒き散らしていた。
致死性のあるものではないが、体を麻痺させることに特化した毒をだ。
しかし、ベアードの動きは毒を撒き散らす前と何ら変わりはない。
「くだらないですね。そういえば、紫髪の少女………ふむ。アストリッド様が殺したと言っていた方ですが………どうやら生きていらっしゃったようですね。しかし、勿体無いことです。せっかく拾った命を、こんなところで無駄に散らすことになるのですから」
「別に、お前を倒せなくても、お姉ちゃんが助かればそれでいい」
「それはどうですかね。クロ様がアストリッド様のものになるのは時間の問題ですよ。クロ様がアストリッド様の元へ無事辿り着く。それだけでいいんです。それだけで、私達の勝ちなのですから」
「じゃあさっさとどけこのグズ!」
「クズの次はグズですか。ここまで私に悪意をぶつけてくれる相手も久々ですね」
両者はお互いに譲らない。
攻防は続く。
しかし、誰が見ても紫髪の少女が勝てるわけがないのは明白だった。
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「アストリッド様のいるところって、ここ、かな」
クロは、先程ベアードから貰った電子機器を頼りに、アストリッドの元へ向かい、アストリッドが潜伏しているビル、その入り口に突っ立っていた。
アストリッドのいる場所がこのビルで本当に合っているのか、ベアードから貰った電子機器を再確認しているのだ。
「久しぶり」
しかし、そんなクロの前に立ちはだかる少女が1人。
灰色の髪をもった、孤児のような見た目をしたボロボロの少女。
来夏に怪人強化剤を渡した少女だ。
「えーと………」
「まあ、覚えてない、というか、そもそも知らないよね。こんな姿だし。見たこともないはずだよ。ふぅ。じゃあ、思い出してもらうしかないか」
灰色の少女は、少し悲しそうな目をしながら、しばらく俯いていたが、すぐに顔を上げ、クロにこう告げた。
「クロ、君は、前世ってものを信じるかい?」
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怪人強化剤を使った照虎。
確かに、その体から、普段の照虎では考えられないほどの魔力の圧力を感じられる。
だが、
「あ“ぎ“あ”mるsてkwmほsっkskskれる←あぱpwskxp」
照虎の体内から、大量の血液と共に大量の魔力が漏れ出ている。
「なっ、照虎、何して……」
異常を察した八重が、照虎に駆け寄る。
「あ………ふ…………」
八重が肩を貸した時には、出血は治っていた。だが、照虎の体は、八重が照虎を打ち倒した時よりも酷くなっており、見ていられない状況となっている。
「照虎、貴方………」
「あ………は、は。やばいな…………これ…………。ピンチの時に使っても………余計体を傷つけるだけやないか…………あ“ークソ、最初に使っておけばよかった………」
「とりあえず、救急車を呼んでおくから、絶対に安静にして」
「情けないなぁ…………ごめんな八重。私は、向きになってただけやったんや…………おかしなってた」
「傷口が開くから、今喋るのはやめておきなさい」
(アストリッドを足止めしに行かなきゃならないのに…………こんなところで時間を食ってたら………)
八重は焦る。しかし、目の前で倒れているボロボロの友人を放っておくわけにも行かない。
(ああもう! 急がなくちゃいけないってのに……!)
普段は冷静な八重も、この時ばかりはイライラして仕方がなかった。




