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Memory49


「アストリッド様、八重という少女を放置しておいて良いのですか? 今のままだと、クロは八重の方を頼ってしまっています。クロを仲間にする上で、八重はかなり邪魔な存在になると思いますが」


アストリッドの部下である吸血鬼の男、ベアードがアストリッドに質問する。

彼は執事のような服装をしており、実際にアストリッドの側近として働いている。


「別に大丈夫だよ。私は毎日クロの様子を見にいくことができるけど、八重はそうはいかないからね。基本的に私の許可がないとクロに会いにいくことはできないようにしておいたから」


アストリッドは不敵に笑う。

自分の計画に、狂いはないと、そう確信して。



☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★




翔上市内の中央の方にある翔上病院。

この病院で、来夏は櫻達の容態を見た後、アストリッドのアジトを探るための情報集めに出ようと病院の敷地内から出ようとしていた。


しかし、今現在彼女は病院の敷地内から出ることができないでいる。


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「………誰だ?」


「ごめんなさい……。こうしないと、多分貴方と話すこともできないでしょうから」


「その声は…八重か? お前、今まで何して……」


氷で来夏の足を凍らせたのは、おそらく八重だろう。水属性の派生属性として、氷属性があった筈だ。水属性の使い手である八重ならば、氷属性を扱えても何ら不思議ではない。


なぜそうする必要があったのかと、来夏が訝しみながら八重に声をかけるが、八重は来夏に口を開こうとはせず、歩いて来夏の隣に立つ。


しばらくの静寂。

来夏と八重は互いに一言も話すことなく、ただその場に佇む。


来夏の場合、身動きが取れないからそのままそこに突っ立っているだけだが、八重の場合、何がしたいのか、来夏の隣に来た後、周りをキョロキョロと見渡しては、来夏に何か言おうとしてまた口を閉じる、ということを繰り返している。


ただ、ようやく落ち着いたのか、八重はとうとう来夏に口を開く。


「……来夏、今の私は敵。そのことを念頭に置きながら、私の話を聞いてほしいの」


「はぁ? 何言って……」


「お願い。今私が信頼して頼れるのは、貴方しかいないの」


「………まあ、わかったよ。お前がそこまで言うなら」


来夏は八重の深刻な雰囲気を感じ取ったのか、八重を質問攻めにすることもなく、ただ黙って聞き専に徹することにする。


「今、クロはアストリッドっていう吸血鬼の魔族に囚われているの。それは私も同じ。それに、私の場合はクロのことを助け出そうにも、アストリッドに逆らってしまえばその瞬間に殺されてしまうわ」


「だから私がクロを助けろってことか。だが、私だってアストリッドってやつに勝てる自信はないぞ」


「別に勝つ必要はないわ。私がアストリッドの気を引くから、そのうちに助け出して欲しいのよ」


「まあ、クロを助けるのは私もそのつもりだったからいいんだけど、本当に大丈夫なのか? そのアストリッドってやつ、多分強いだろうし、その分勘も鋭いと思うが…‥」


「それなら私も協力するよ。お姉ちゃんを助けたいって気持ちは同じだし」


来夏と八重は、突如横合いから聞こえてきた声に驚き、少し体が跳ねる。

あまり聞いた覚えのない声だったため、敵に気づかれたのではないかと少し不安になってしまったためだ。


しかし、よくよく今の声を思い返してみれば、どことなく真白やクロの声質と似通っていたような気がした。


「お前は………確かクロと一緒にいた……」


「ユカリ……? い、生きていたの?」


八重はまるで死人とでも出会ったかのように目を見開いてユカリのことを見る。実際、八重からすればユカリは死んでしまったものとして脳内で処理していたからだ。


ユカリが生きていたということは、真白も生きているのだろうか、そんな風に思考を巡らせながら、八重はユカリのことを見据える。


「私が誰かなんてどうでもいい。お姉ちゃんを助け出す。それさえできれば」


「き、危険な作戦なの。できれば人数は少ない方が……」


「何で? 肉壁は一つでも多い方がいいでしょ? それに、別に貴方達の手なんか借りなくても、私は1人でお姉ちゃんを助けに行くから。実際、貴方達なんかより私の方が断然強いし」


八重は、ユカリのことを大切な妹の1人として見ている。そのため、できればユカリを戦場へと赴かせたくないという思いがあった。そして実際に、ユカリは一度アストリッドに殺されかけている。それもあってか、八重はユカリを戦場から遠ざけようとしたのだが、ユカリは聞く耳を持とうとはしなかった。


今のユカリは、砂場で遊んでいた時のキラキラとした目を持っておらず、その目にはそこはかとなく深い闇があるように感じられる。


この目は、何を言っても聞かない目だ。


「それに、お姉ちゃんを助ける上で、私は頼れる組織がある。別に貴方達が私を戦力として数えないっていうなら、私は組織の方と一緒にお姉ちゃんを助けに行くけど?」


ユカリは知っているのだ。

クロが組織に身を置いておくことが嫌だということが。

魔法少女だとか、組織の兵器だとか、そんなもの全て取っ払って、普通に過ごしたがっているということも。


ただ、それでも一緒に過ごしたいという我儘で、クロのことを組織から逃げさせようとはしなかった。


それでも、海で他の魔法少女と交流した時に、思ったのだ。

『お姉ちゃんは組織にいない方が幸せに過ごせるのかもしれない』と。


ユカリは他の魔法少女と交流する上で、特に何の壁も感じたりはしていない。

けれど、クロは違うのだ。


悪の組織に所属している。

その意識が、クロが他の魔法少女との間に壁を作ってしまう原因となってしまっているのだ。


だから、ユカリは八重達に要求している。

本気でクロを、アストリッドからも、組織からも助け出したいのなら、私を連れて行けと。


本当なら、組織に頼った方が確実にクロのことを救出することができる。

けれど、それでは意味がない。


もし、八重達とクロが共に歩むことになるとして、その時にクロの安全を保障できるのか、それを、今回の作戦を通じて試したいと思ったのだ。


アストリッドからクロを救出することができたのなら、合格。

けどもしそうじゃないのなら、組織に所属していた方がクロは安全であると、ユカリはそう考えているのだ。


「…………わかったわ。ユカリも、一緒にクロを助け出してくれる? ただ、これだけは約束して。危なくなったら、すぐ逃げること。わかった?」


「それくらい自分で判断できる」


「戦力が増えるのは嬉しいんだが、私の足の氷、いつになったら溶かしてくれるんだ?」


「あっと、ごめんなさい。う”う“ん”! くっ、ま、まさか魔法少女が2人もいるなんて! 流石の私も、来夏とユカリ、2人がかりで来られたら敵わないわ! これは逃げるしかなさそうね!!」


そう言いながら、八重は来夏の足の氷を溶かしていく。


「あー、そういうことか。意味あるのか? それ」


「ど、どこで監視されてたっておかしくないのよ。とりあえずうまく合わせて」


2人はヒソヒソ声で話す。

八重としては、どこにアストリッドの手下が紛れ込んでいてもおかしくないと考えているため、できれば来夏と裏で協力しているということは勘付かれたくはない。だからこうして、あくまでも敵対しているということにしていたかったのだ。


「演技してるところ悪いけど、この周囲には誰もいないよ?」


「えっ、嘘!?」


「ほら、だから言ったろ」


ただ、あまり意味はなかったみたいだった。


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